第10話 大魔導士マギョイ1
魔王ルギナウスの方でも勇者の活躍をキャッチしていた。
だがそれは人間の僅かな足掻きだ。いつでもひねり潰せる。
しかし念には念を入れたい。ルギナウスは大魔道士のマギョイを呼んだ。
「お呼びですか? 陛下」
「そうだ。勇者討伐だ」
「勇者討伐? あれはシェイドを向かわせていたはずですが?」
「その通り。だがあれはいたずらものだ。未だに勝ったとも負けたとも報告がない。どこかで道草をくっているのかもしれん。それに……」
「それに?」
「……うむ。最初の報告では勇者は20歳ほどの青年と聞いていたが、最近では3歳ほどの幼児らしい。さてはシェイドが呪いをかけ若返らせ、その様子をどこかで趣味悪く見ているのかも知れん」
大魔道士マギョイは頭を抱えた。
「なるほと、シェイドならあり得ないことではありませんが、陛下の勅令を軽んじているようで……」
「ふふ。ああ言う遊び心さえなければあやつももっと出世していたものを」
魔王はシェイドと言う者をかっているようだったが、同僚のマギョイは苦笑いをした。
「では行って参ります」
「うむ。人間どもを皆殺しにして参れ」
マギョイは闇に消え静寂だけが残った。
勇者と少女は丘の下にある村にいた。勇者は村の子どもたちに混じって楽しそうに遊んでいる。その間に少女は食料や役に立ちそうな道具の買い込みをした。
「へぇ。あれが。あの子どもが勇者さまねぇ」
店主が少女に話し掛ける。少女はにこやかに頷いた。
「ウチの息子に頭、ひっぱたかれて泣いてるけど、大丈夫なのかね?」
そう。神々からの勇者への加護は人間からのものからには効き目はない。少し年上からのゲンコツが痛かったようで泣いているようだった。
「オマエずる!」
「ちがう。ずるくな~い~」
「線からはみ出た!」
「まちがったの~」
どうやら遊びのルールに違反したようだった。
子供らしい微笑ましさに少女は笑みをこぼした。
今日はこの集落で宿を取る。そして明日はまた歩かねばならぬ。
西の都の大祭にどうしても行かねばならぬのだ。
少女は食料でいっぱいになった道具袋を背負い込み、宿屋にそれを置きに行こうとしたときだった。
まがまがしい空気が伝わってくる。
その時、集落の見張り台から半鐘が鳴らされた。
「魔物だ! 魔物の襲来! 女子供は建物の中へ入れ! 男は武器を取って戦闘準備!」
高く響く鐘の音。みなの顔に戦慄が走る。男達は武器や農具を手に取って集落の入り口に急いだ。