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高校生だけど世界一周してくる  作者: 未来 音
第1話 人生が変わるインド
3/7

インド入国とその出会い

「やばい。異世界っぽい。こわい」


優奈が小声でささやく。


インドへ向かう搭乗ゲートに並んでいるのは、ほぼ100%がインド系の人。

見慣れない服を着ている。よく分からない言語が飛び交う。

その全員が厳重なボディチェックを受けている。

今まで、搭乗ゲート前でこんなことはなかった。


明らかに今まで旅してきた土地とはちがう場所へ行くんだ。


「なあ、やっぱりやめないか音也先輩。インドは怖いよ」

「大丈夫だ。ぼくも怖い」

「先輩いいいいい」


涙目の優奈を引きずって搭乗口へ向かう。

確かに怖い。

インドなんて悪いウワサしか聞かない国だ。


でも、避けては通れない。

何しろ「人生が変わる国」だから。


* * *


3時間のフライトで着いたのはインドのコルカタ空港。

ちなみに空港の正式名称はネータージー・スバース・チャンドラ・ボース空港。長い。


コルカタ——かつて「カルカッタ」と呼ばれていたこの土地で、ぼくらのインド放浪記が始まろうとしていた。


「……誰もいないな」


そして始まらないまま20分が経過した。

おかしい。何が起きているんだ。


「あれ? 入国審査ってここでいいんだよね?」


後ろを振り返って旅メンバーの3人に尋ねる。


「大丈夫だ先輩。ここは入国審査カウンター(イミグレーション)だ。そう書いてある……はず……なのだが……」


上の案内板には「IMMIGRATION」の文字。イミグレーション。

だよね。

ここで入国審査を受けられるんだよね。

なのに……。


「なんで入国審査官が一人もいないの?」


『インドに入国する外国人専用レーン』には、絶対にいるはずの入国審査官がまったくいない。

おかげでぼくらは20分以上、この場に留まっている。

入国審査官から「入国OK」というスタンプをもらわなければ、そもそも空港の中ですら自由に行動できないからだ。


「いや絶対におかしい。具体的には『インドに入国するインド人専用レーン』には5人くらい審査官がいて何なら談笑してるのに、こっちの『外国人専用レーン』には誰も来ようとしないところとか」


あの審査官たち、ヒマならこっちに来てくれないかな。


「うーん。きっと市村先輩だったら『何も言わずに自分の要求が伝わると思うなよ』とか言うんだろうなあ」

「のほほんとするな優奈」

「だが音也先輩、結局私たちはここで『誰か助けてくれないかな』ときょろきょろしてるだけで20分が経ってしまったぞ」

「……わかってるよ。なんか頑張ってくる」


慣れない英語で審査官たちに話しかけると、ようやく1人がめんどくさそうに『外国人専用レーン』に来てくれた。

やっと入国審査を受けられる!


「よし行こう。みんな、到着時取得(アライバル)ビザは書いた?」

「……書いた」

「書いたよ」

「書いたぞ音也先輩。『お前はパキスタン人か?』という欄があるのには驚いたが」

「それはぼくも驚いた」


詳しくは知らないけどやっぱりインドとパキスタンって仲が悪いんだな。

ちなみに正確には『お前の両親もしくは祖父母にパキスタン系の血統を持つ者がいるか?』という質問欄である。


さて、管理官と一対一の入国審査だ。

「どこから来たのか?」「入国理由は?」「滞在期間は?」「滞在場所は?」「出国予定日は?」等、よくある質問に答えていく。

英語の会話にはなるけれど、聞かれる内容はどの国でもほぼ同じなのでもう慣れてしまった。


1人10分くらいの時間をかけて、ようやく4人全員の入国審査が完了した。


「あー疲れた!」


優奈が大きく伸びる。


「もうビックリだ。アライバルビザは現金支払いできるって聞いていたのに『ノー、オンリークレジット』だぞ?」

「よかったな優奈、クレジットカード用意しといて」

「危なかった……何もかもが事前情報とはちがう国だな音也先輩」


何かぼくも不安になってきた。

だけど気にしてもしょうがない。


「よし。荷物も回収したし、まずは現金おろしてSIMカード買おう!」


ぼくが宣言すると、他の3人もうなずく。


今回のようなバックパッカー旅の場合、空港を出る前にやるべきことが2つある。

『現地通貨の入手』、そして『連絡手段の確保』だ。


クレジットカード・電子マネー全盛期の現代ではあるが、支払いが『現金のみ』の場合はものすごく多い。特に、インドのような貧富の差が激しい国では。

なので空港から出る前に現地通貨を入手しておかないと、移動手段がないので「どこにも行けない」という状態に陥りかねない。

国際キャッシュカードを用意してきたので、どんな空港にも存在する『国際ATM』さえあればすぐに現地通貨を引き落とせる。


また、『連絡手段の確保』も最優先で行いたい。

何が起こるか分からない海外において警察や病院への電話はかなり重要だし、何より仲間同士の安全を確保する上でも必ず必要になる。

『国際ATM』と同じく、どんな空港にも『SIMカード売り場』が存在するので、そこでSIMカードを買って携帯端末をインドのネットに繋げるようにしたい。


というわけでぼくらは分担してそれらを探しに行ったのだが……。


「大変だ音也先輩! 国際ATMがない!」

「やばいぞ優奈! SIMカード売り場がない!」


早くも座礁した。


「おかしいぞ先輩……今までどんな空港にも1機は国際ATMがあったし、どんなに小さくてもSIMカードは売られていた」

「何か人も少ないし活気ないしやる気ないし、ここが本当に国際空港なのか怪しく思えてきた」

「音也先輩、どうする?」

「……しかたない、SIMカードはあきらめて空港を出てから買おう」

「そんな! もしSIMカード販売店にたどりつくまでに誘拐とかされたらどうすればいいんだ!」

「1分200円とかかかるけど、優奈、もしもの時は国際ローミングを使おう」

「……そうだな。しかたない」


話は決まった。

あとは現地通貨だ。


「優奈、日本円でいくら持ってる?」

「3万円。そのうち1万円はブーツの中敷きの下に隠してある」

「わかった。ぼくの方が多いから、とりあえず両替してくるよ」


外貨(カレンシー)両替所(エクスチェンジ)に向かい、日本円15,000円を8,000インドルピーに両替する。

ぐぬぬ……レートが悪いがしかたない。

とにかくこれで当面の資金を得た。


「お待たせ。それじゃ行こうか」

「あああ音也先輩……やっぱりお腹痛くなってきたから日本に帰国しよう」

「やっぱり怖いか?」

「だってインドって悪いウワサしか聞かないし。もういやだ音也先輩と帰って幸せになる」

「いやぼくは帰らないから」

「音也先輩いいい」


優奈を引きずって4人で空港の外に出る。

さあ、タクシーを探さなきゃ。


と、目の前にプリペイドタクシーの列があったので並ぶ。

富裕層っぽいインド人夫婦が「並びますか?どうぞどうぞ」「あ、それは230ルピーで大丈夫ですよ」とかものすごく親切に教えてくれる。


「どういうことだ音也先輩、『インドで話しかけてくるインド人は99%悪人』というネットの前情報とちがうじゃないか」

「いや、それはさすがに50%くらいだろ……よく分からないけど」


日本語でこそこそと優奈と話していたら、急に横から声をかけられた。


「ハイ、コニチワ!」


ぼくらが横を見ると、明らかに地元インド人っぽい10代後半の少年がいた。


「キミたち、日本人?」


いきなり話しかけられて面食らっているぼくらに、彼は畳みかける。


「ボク、アシム! 日本のヨコハマに2年いたよ! 宿の行き方わかる? よかったら教えようか?」


人懐っこい無邪気な笑顔。

親切心が心からあふれ出る風貌。


これが、ぼくらのインド旅で忘れられない案内人となるアシムとの出会いだった。

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