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高校生だけど世界一周してくる  作者: 未来 音
第1話 人生が変わるインド
2/7

そもそものなりゆき

「次はインドに行こう」


タイ、バンコク。

かつて「バックパッカーの聖地」と呼ばれた安宿街「カオサン通り」のゲストハウスでそう言い出したのは、弱冠16歳にして181cmの長身を誇る優奈(ゆうな)だった。

私服だとランウェイを闊歩するモデルの休日スタイルにしか見えなくて、スーツを着せると超絶仕事のできる国際派キャリアウーマンにしか見えない。


「インド……インドかぁー」


2段ベッドが4つ並ぶ8人部屋でぼくはつぶやいた。

幸い、他のお客さんはいないので気楽だ。

ただし安宿では深夜到着のお客も多いので、24時を回ったからといって油断はできない。


「ついに来たって感じだよね」

「何が?」


優奈(ゆうな)が首をかしげる。


「治安のよくない国」


ああ、と彼女は納得したような顔をする。


今まで台湾とかベトナムとかいろいろ旅してきたけど、南アジアに属するインドは比較的治安が悪いらしい。

詐欺やぼったくりの被害件数が段違いなのはもちろん、強盗や強姦、ことによっては殺人の話も珍しくない。飲み物やお菓子に睡眠薬を入れて親切そうに旅行者に差し出す「睡眠薬強盗」もインドではポピュラーだ。


「でもフィリピンも治安は悪かったじゃないか」

「そうだっけ……ああ、そうだった」


言われて思い出す。

フィリピン随一のリゾート地と知られるセブ島で起こった事件だ。


ファストフード店にいた欧米人観光客と地元フィリピン人が口論になり、フィリピン人は頭にきて自宅から銃を持ってきた。その間に件の欧米人はいなくなっていたんだけど、怒りで我を忘れたフィリピン人はその場にいた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()––という事件だ。


もう何と言ったらいいのか分からないくらい理不尽な事件だけど、本当に怖いのはそういった事件が世界中で日に何十件も起きているということだ。


そしてぼくら一般的な日本人は、そんな世界があることすら知らない。


「あの時は、怖かった」


厳粛な表情の優奈。

ぼくらは事件発生の瞬間、同じ店内にいた。

悲鳴と、怒声。破裂音と、ガラスの割れる音と、人が倒れる音。


暴力的な死がすぐ隣まで来ていた。

……できるなら、思い出したくない。


「でもあの時の音也先輩、かっこよかったな~~~~~」

「あ、あの、優奈さん?」


スタイル抜群長身の後輩がにじりにじり距離を詰めてくる。


「私を小娘のように押し倒して守ってくれた先輩の力強さ……私はこれからもずっと忘れないよ」


ぐっ!と至近距離で目を見つめて言われました。

ぼく?

両手をつかまれて動けないんですけど?

ちなみに優奈の方が身長高いからなんか襲われてるような図になってるんですけど?

ちなみに仲間内で一番腕力あるのも優奈なんですけど?


「ほらあのそのそろそろ皆も戻ってくるしさ何か誤解されたらアレだしそろそろ」

「私は構わないが?」


近い近い近い近い近い近い!

あっなんかすごくいい香りする!

優奈のショートカットの髪がさらさらと揺れてきりっとした大きな目がああこんなにもゼロ距離でまずいこれはまずいきっと何かよくないことが3秒以内に


「……何してるの?」


凍えるような声とともに視界の端が歪んだ。

左側頭部に強烈な衝撃が来たと同時に、ぼくは部屋の隅っこへと弾け飛んだ。


「何をするんだ凛! 先輩を足蹴にするなんて!」


立ち上がって激昂する優奈。


「……音也は蹴られて踏まれて罵倒されるのが何よりも好きだから」


きっ、と優奈の目をにらんで根も葉もない噂を流しているのは、身長151cm中学3年生15歳の凛。

長身の優奈と並ぶと親子にしか見えません。


「踏まれるのが好きだと? 馬鹿を言うな! 私を守ってくれた先輩がそんな救いようもない手遅れのクソド変態であるはずがない!」

「……」


こっちに近づいてきた凛は、いつも通りの黒ストッキングでぐにぐにとぼくの顔を足で踏みつける。


「音也?」

「は、はい……」

「黙って踏まれなさい」

「ふぁ、ふぁい……」


理不尽。

だがまずい。脳がとろける。

薄い黒ストッキング越しに伝わる、小さくて見た目だけは超絶可憐な美少女のおみ足の感触といったら正直ヒトとしての尊厳とか何かどうでもよくなって宇宙的なスケールで物事を見ようぜボーイエンガールズ。

あれ? ここで世界一周とか終わってもいいんじゃない?

もうずっと踏まれてればいいんじゃない?


「25デニールがいいんだよね……音也はね……」

「ぐぬぬ………いい……」


はっ。いかん。恍惚の声を抑えきれない。

ちなみにデニールとは糸や繊維の太さを示す単位で、ストッキングで25デニールというと「素足が透けて見えるくらい薄い」くらいの厚さである。

生足のぐにぐにとした弾力感、ストッキングのすべすべとした肌触り、その両者をあますことなく堪能できる黄金比だ。


「やめないか!」


優奈が一喝して凛が踏みつけをやめる。ちっ。


「凛、きみは先輩を何だと思っているんだ!」

「……童貞」

「待ってその返しおかしくない?」


思わず突っ込んでしまう。


「そ、そうなのか……なるほど先輩……そうなのか……」


驚きつつも赤面を隠せない様子の優奈さん。

いじめかな?


「まあ先輩の初めての相手はその……うん。とにかく凛。きみは先輩に敬意を払うべきだ」

「……なんで?」

「いくら幼馴染とはいえ、その、人を足蹴にするなど許されることではない」

「……」

「だから、あの、」

「……」

「くっ……可愛いなぁ……!」


おい。


「そんなに可愛いのに先輩と幼馴染だなんて……卑怯じゃないか……!」


背が高い反動か、優奈は可愛くて小さい女の子に弱い。

もう際限なく骨抜きになってしまう。

そして凛はとてもかわいい。

だから基本的に、優奈は凛に弱い。1歳年下の少女に立ち向かえないのだ。

まあ言い分は分かる。

凛はそれくらいすさまじい美少女なのだ。

黙ってにらまれたら己の存在を全否定したくなるくらい。


「だが……だが、先輩のことはあきらめん! 絶対にな! 音也先輩の童貞は私がもらう!!!」


すさまじい捨て台詞とともに部屋を去っていく優奈。


「風呂上がりの発情猫が……」


吐き捨てるようにつぶやく凛。

なんか優奈ってお風呂から上がるとお酒飲んだみたいに酔っ払っちゃうんだよね。何でだろう?


ほどなくして宿の外が騒がしくなってきた。

どうやら他の旅メンバーも帰ってきたらしい。


「……寝るから」


楚々と寝床に入る凛。


「うん。おやすみ」

「……………………………………おやすみ」


たっぷり間を空けてからの返答。

あーこりゃ相当ご機嫌ななめだなー。

明日から大変だ。


その後、優奈とともに帰ってきた旅メンバーと一緒にインド旅行への予習・手続きを行った。


インドかぁ……。


悪い噂しか聞かないし、なんか心配だなー。


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