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迎合。それはアクマの導き


婁士のキャラは随分前から決まっていたはずなのに書いてみると意外と難しい(ほんとにっ)。そこで何も考えずに成りきって書きます。出来た。もしかして天才じゃなかろうか。いや、今度はキャラに成りきりすぎて文が若干意味不明に! 

 








 七月の上旬。

 夏の日差しが近づく中、真熊 婁士は一人、人の居ない場所を探して歩いていた。

 先生が軒並み転入生にビビるサプライズの後。休み時間なのに誰も席を立たたないばかりか喋りもしない状況を見て、婁士は今まで経験に則って休み時間中は別の場所で時間を潰そう、と考えたのは四時間目の終わりごろだった。

婁士はベタに屋上、とも考えたが現実問題、施錠されて入れなかった。

仕方なしに婁士は手近かな空教室を探す事にしていた。今日だけじゃない。これからの学校生活で使えそうな人の居ない、一人になって落ち着ける場所を。

「どこの学校も変わんねぇな……」

 無意識に婁士呟いた言葉には様々なニュアンスが込められていた。今までの学校と変わらない。今までの人間関係と変わらない。つまらない生活。そしてケンカ。

 違う、と否定する。それらは確かに詰まらない。しかし、

「……………一番つまんねぇ奴なのは、俺だろ」

それはどこか慟哭にも似ていて。自嘲的に口元を吊り上げた姿は滑稽な道化師のようだった。婁士は知っている。一番変わらないのは自分で、一番変わるべきなのも自分だと。それが出来れば苦労はしない。

それにしても空き教室が多かった。手短に近くのドアを開けようとしても開かない。どうも、ここのセキュリティ管理は物凄いらしい。空き教室で鍵が開いている部屋が一つもないのだから。

人の居ない方に歩いていく。その時、婁士は思い出した。この学校はおぼっちゃん校なだけあってその校舎の広さは異常だった。そこらのマンモス高(定員の多い学校)を遥かに凌駕している事に。まず校庭の広さが陸上競技の公式グラウンドである時点でどのくらいかは想像が付くだろう。そもそも中庭の広さ自体が普通の校庭近くあるのだから、しかるべき校舎はそれに合ったジャンボサイズだ。普通の学園だったならば全学年を収めるのに一階だけで事が足りる。

 それを何も考えずに、どころかちょっと感傷に浸って無意識に歩を進めるなどしていればどうなるか。想像に難くない。

 端的に言えば、婁士は完全に迷っていた。

(あれ?)

 婁士は慌てて辺りを見渡す。誰も居ないのは当然だ。居ない方に歩いてきたのだから。目に付くのは無機質などこまでも続く廊下。

出来れば人に会いたくはない婁士だったが、背に腹は帰られなかった。数秒悩んだ後、とりあえず手じかな教室を眺めていく。

 「………ん、第三図書室?」

 婁士は空教室を覗いている内に、電灯の光が灯っている幾分幅の広い部屋、図書室を見つけた。

 「―――――――第三図書室?」

 婁士は首を傾げた。その言葉に軽く違和感を覚えたからだ。

 「『第三』図書室?」

 ―――第一、第ニぐらいまではまだ分かるが、第三ってなんだよ。

 「………多いな図書室。そんなにいらんだろうに…………」

 と、呆れて呟く。

 でもまぁ、と気を取り直す。ここには人が居るかもしれないのだ。

 扉に手をかける。鍵は掛かっていなかった。

「失礼します」

 婁士はおそるおそる中を見渡した。図書室の中に人の気配は感じず、実際、婁士の見渡した限りは誰も居なかった。

 まるで人が使った後が無い。教室二つ分くらいの広さに、人が座るカウンター、そして横幅二メートル程度の本棚が無数に並んでいる。もちろんカウンターは無人でどうも誰かがいた様子も無さそうだった。備え付けられたパソコンも電源が落ちていて、わずかにホコリを被っている。

 電気も付いていて鍵も開いているのだから、人はいるのだろうが。

 お化けかなにかの部屋だろうか、などとふざけた事を婁士はおどけて考えた。

 そう、そこはまるでお化けの住む場所にすら遠慮しそうな無機質な部屋で、まるで何かが生きる為の部屋ではないような、そんな気さえ婁士は感じる。締め切ったカーテンもその要因の一つだろう。図書室には、電灯の無機質な光しかないから。

 備え付けられた時計が音を奏でる。やけに大きく聞こえたのは婁士の勘違いだろうが、どこか嫌な音に感じた。時計の針の音は、一層孤独を感じるような一人を意識させられる音だから。

びゅおおお。

 「うお?」

 突風が突然部屋を包んだ。風が部屋を廻り、そしてドアを潜って廊下に流れていく。

 よく見れば図書室の奥の、本棚の上から辛うじて見える窓の上部から鮮明な景色とひらめくカーテンが見える。窓が開けっ放しになっているようだった。人がいるならばそこにいるかもしれない、と婁士は閃いた。確かめようとして、しかし誰も居なくとも図書室で大声を出すのはまずい気もする、と考え直す。

 本棚を縫って、その窓に向かって近づいていく。

 風の音が部屋に響いた。と、同時に婁士は部屋の奥に辿り着く。窓から入る光は夏を控えた太陽そのもので、婁士は一瞬眩しさに目が眩んだ。

 「――――ん、志穂くんかい?」 

 日光を遮る為に手を翳すと、そこに人を見つけた。

 凛として涼しげな、風鈴を鳴らすような綺麗な声だった。その人は本に目を落としていて、婁士の方を見ていなかったので誰かと間違えているらしい。

 綺麗な女性だった。制服を着ているから歳はそんなに離れているわけではないだろうに、婁士はその女性が大人びて見えた。全体的に線が細く、しなやかな白魚のような指が本のページを捲る様だけで絵になっている。 肩まで伸びたさらさらとした髪。それが風によってなびいて、白い頬を撫でている姿は酷く幻想的だった。

しかし、婁士にはなんと表現すれば分からないが、その女性の意思の宿った強い瞳が、女性に存在感を与えている、そんな気がしていた。

 婁士が何も言わずにいると、女性はそのまま静かに本を読み続けていた。

 「…………………………?」

 ふと、婁士、ではなく女性が勘違いした志穂、とやらが何も言わない事に気が付いたかゆっくりと女性はこちらに視線を向けた。

 その視線は婁士には固まった。理由は自分でも分からなかった。

 視線が絡む。

 婁士と女性はたっぷり数秒は見詰め合っていた。

 それは本当に不思議な物を見るような視線で、まるで存在しないはずの物が目の前にあった、そんな時のような顔だった。

 「…………………………………………………」

 「――――っ!」

 婁士は思い出してばっと顔を手で覆った。

 ―――そりゃ、そんな顔するよな。こんな化け物みてーな野郎が目の前に居たら。

 自分の失態を呪った。こんな人気のない場所で二人きり。

 「―――何故、顔を隠すんだ」

 しかし、女性はそんな風に、ごく普通に聞こえる声音で婁士に尋ねた。婁士は内心、驚いていた。うまく言葉が出ない。

 「………だって、怖いだ………ですよね。俺の顔が」

 だが、その言葉に女性は口端を鋭角に上げた。

 「君が、怖い………? くくく、成る程、おもしろい意見だ。参考にしよう」

 女性は、初めて会った婁士に怯える様子もなく、真っ直ぐに婁士を見上げた。

 「ふむ、さては君が噂の転校生かな」

 尋ねるような言葉だったが、声には奇妙にも確信が篭っていた。婁士はその言葉の意味を理解した。女性のその婁士の迫力を意にもしない態度に、奇妙な感覚を覚えつつも婁士は望まれるままこう言った。

 「どうして分かったんだ………ですか、と尋ねた方がいいですか」

 女性は笑う。薄幸の美少女なら絶対しない類の、ニヒルな笑い方だった。

 「いいね、良い質問だよ。さて、理由は二つ。『悪評は千里を走る』、という通りなんだけどね。君の噂は今や学校中で持ちきりだ。内容は、―――聞きたいかい?」

 「いい。聞きたくない、です。………それで、二つ目はなんですか」

 「二つ目は、君がここに居るから、それだけさ」

 女性は両手を広げた。婁士は首を傾げる。

 「俺が、図書室に居るのがそんなにおかしいか? …………のですか?」

 「くくくく。いや済まない。説明の仕方が悪かったね。これは内事情があってね。この学院の人間は滅多な事ではここに来ないよ」

 ―――――そう言われれば、確かに人の気配がしなかったしな。

 婁士は納得する。

 女性はからかうような表情で婁士に訊いた。

 「―――内事情が聞きたいかい?」

 「正直は。でもまあ、あえて聞き……ません」

 「………ほお、どうして?」

 女性は婁士に尋ねる。

 「貴方が言いたく無さそうだから」

 「……………………………」

 きょとん。

 そういう音が一番似合う、そういうぽかんとした表情で女性は固まった。

 「…………………………く、くく、あはははははははははは!」

 そして大声で笑い出す。

 「はははははははは!」

 「……………………………」

 「いいね、君は面白い! こんなに笑えたのは久しぶりだ。えーと、ああ、自己紹介がまだだったね。私は翼だ。名前で呼んでくれ。私の名は翼。君の名前は」

 「真熊 婁士」

 「真熊婁士、婁士か。婁士、君にまず言って置く事が在る」

 「なんで、すか」

 翼、そう名乗った女性はまたおかしそうに目元を細めてこう言った。

 「君の敬語は酷く不恰好だからやめたまえよ」

 婁士を怖がらず、恐れない、不思議な空気を纏った翼。

 ―――不思議な女性だ。

 婁士はそう思った。

 怯え、恐れ。

 以前からその兆候はあったが、婁士が中学に上がる頃からそういった視線は段々と増えていった。身長も伸び始め、歳を重ねるごとに鋭くなる瞳にいつしか、自覚の無いまま婁士は周囲の人間から離れられていた。代わりに近づいて来たのは、戦いの日々。始めは同輩、やがて先輩そして見知らぬ誰か。襲われるたびにさらに周囲の人間は離れていき、そして向かってくるのは身勝手な理論で喧嘩を仕掛けてくる誰か。それすらも、なし崩しに減っていった。

 どこかで諦めていた。そういった人生が続くのだと。毎日のように続く恐れと嫌悪の視線は消えないのだと。だからその翼の自然な態度に、婁士は困惑していた。それが何という感情だったか、すぐには思い出せそうに無かった。

でも、こんな出来事も悪くない。そんな風に思った。

















変なところで切った。なんでここで切ってしまったのだろうか。次回に期待。

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