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恐怖のアクマ鎮座ましまし



やったうっほーいやっほほーい! 二話目掲載出来ました。正直眠い。でもテンションなら誰にも負けない!今はそんな気持ちです。

ちょっとでも興味を持ってくれた方、どうもありがとうございます。



一章『おかしな先輩と、猫かぶりの同輩と、アクマな後輩』

 『恐怖のアクマ鎮座ましまし』


私立『太桃高等学校』とは。

首都から三十分の距離の朱雀市の中心から西南に位置し、程よく交通機関に恵まれ、程々に高い学力と、高い授業料で有名な、所謂お嬢様、お坊ちゃまな学校である。 

 当然の如く長い歴史と格式を持っていて、入学生にも『それなりの家督の嫡子、もしくはその関係者が集う場所』なのだという暗黙の了解もあるくらいであった。

 しかし、校則自体に厳格な決まりはない。もちろん一般に公募も行っている。勉学と金銭に困らない人間ならばよほどの事が無い限りは、それなりの割合で入学する事が出来る。

 当然、転入も可能ではある。

 ただし転入の手続きに関しては高いハードルが幾つも設けられている。格式ある学校と云うものには色々事情があるからだ。

 しかし、今回の転入に対して、これらのハードルは全く必要がなかった。

 簡単である。この学校の総締めというべき理事長によるたった一つの推薦状。

それ一つで片は付いていた。一応簡単なペーパーテストを受けてもらったが、その生徒は高い成績を出し、学力にも問題がなかった。

 ただし、一つだけ問題があった。

 それはその生徒が、一体いかなる経歴の人間なのか一切が不明な事、だった。理事長の推薦状がある位だ。半端な家系ではないのは予想が付く。ただ、それがどこそこの家だと、事前に知らされていない身としては心苦しい。少しの粗相がこの学校では不祥事に変わる。

 太桃高等学校、学校長、鶴山 秀男は大きくため息を付いた。

 豪華な調度品が並ぶ来賓室のいかにも高価で座り心地の良さげな一席に座りながらも、その顔は優れなかった。

 その体型はメタボの一言に尽き、禿げかけた頭に、老けた顔には四十六歳の中年も六十の老人にすら見えた。

 理事長の『気まぐれ』には慣れていたつもりだったが、それでも禿男はその『気まぐれ』に対する心労は、いつまでたっても減らないままだった。それも、滅多に学校に口を出さない事を考えればまだ楽な方ではあるが。

 禿げかけた頭を摩りつつ、秀男は緊張を崩さないまま静かに目の前の扉を見つめ続けた。

 コンコンコン。

 やがて、控えめなノックの音が響いた。

 「―――! ど、どうぞ」

 思わず、声が上擦った。いけない、と自分を秀男は戒める。とにかく腰を低く対応しようと思った。下手な事はせず、笑みを浮かべていればいいのだ、と。秀男は給金の為、と思えば、その程度の屈辱、幾らでも耐えられた。

 「………失礼します」

 「―――いやぁ! どうも、私が校長の鶴や、ま………」

 丁寧に開けられたドアの向こうにある顔を見た瞬間、秀男は失礼や無礼などといった単語を頭から弾き飛ばして、口を半開きにして停止した。

 「………………」

 入室したや否や、秀男のこのような反応に、真熊 婁士はたった一行、こう思った。

(こんな反応、こっちはとっくに慣れてるさ)

 秀男が見つめていたのは、婁士の顔。オールバックの赤毛。牙のような犬歯、そしてなにより強烈な存在を放つ、鋭い、猛獣も失禁させる勢いの三白眼。

それはまるで獣、否――まるで物語に現れる、悪の権化。





 ――――これはアクマの顔を持つ真熊婁士を中心とした、様々な人々の物語。





 「………ね、ねえ、あれが噂の転入生?」

 「………そうみたい」

 「………なんなんですの一体」

 「………コワ」

 「………正直私、直視出来ないわ」

 「………私も」

 ひそひそ。ひそひそ。

 太桃高等学校二年二組はある種、緊張状態にあった。廊下にはいつの間にか人気店開店待ち並みの密度で人だかりが出来ていて、それぞれが声を潜めて噂し合っていた。

 前日より異例の転入生という存在には校内学年を問わずに話題の的だった。はやる気持ちを抑えきれずに一刻も早く見に来た生徒と、それに釣られた生徒達。

 質問したい事は山ほどある。

 しかし、彼らは絶対に教室に足を踏み入れようとは思わなかった。

 二組は休み時間にも関わらず二組の生徒全員が一向に席を立たずにいる。何か作業をしているわけではなく、ただ単に座っているだけだがその瞳は伏せられ、誰も口すら利かない。

 野次馬の如く集まった生徒はまずこの光景を見て、そのあまりの緊張感に息を呑む。

 そして、その諸悪の原因たる存在を見て、息を咽、そして納得し、こう安堵するのだ。

 ―――ああ、このクラスじゃなくて良かったな、と。

 そして安堵して尚、離れられない。それはその緊張の糸がいつ切れるか分からない状況で動けなくなってしまうのだ。

 そんな事が起きてしまったのだ。

 たった一人の生徒(しょあくのこんげん)によって。

 そして、転入してからたった三十分弱で諸悪の根源にまで祭り上げられた真熊 婁士は最後尾の席で机に突っ伏したまま、『帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい』と半ば本気で呟いていた。

 それがさらに生徒の恐怖を煽っているとは知らずに。

 「こえええ………。何かブツブツ言ってる」

 「やっべえぇよおい………」

 「………私もういやぁああ……!」

 「落ち着け……! 死ぬぞ……!」

 ひそひそ。ひそひそ。

 その顔を見た後では婁士のその突っ伏した姿ですら、ある種恐怖のオーラ的なモノを纏っているように見えて、とてもじゃないが顔を直視するだけでパニックすら起きかねなかった。

 婁士は本気で帰ろうかな、と思った。しかし転入初日にサボればもう確実に不良になる、と思うとそうも出来ない。根が真面目なのだ。

そしてその他生徒も動けないまま。

地獄のような時間の中その場にいたありとあらゆる人物はこう思ったという。

早く授業の鐘が鳴ってくれ。

それは大半の学生が初めて思った、授業に対する狂おしい程の欲求だった。












眠ります。ぐっすりと。

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