おじちゃん家
ブロロロロ……
ぼくを乗せたおじちゃんのトラックが大きな家の前で止まった。瓦屋根と年季のある木材でできた二階建ての広そうな家だ。
おじちゃんが先に玄関に入ってぼくはその後をついていった。
おじちゃんが帰ったぞーというと、廊下の奥の部屋からエプロン姿で赤縁眼鏡をかけたおばちゃんが出てきた。
「あらま、こんなに大きくなっちゃって。久しぶりだねー、ぼくくん。来るのが遅いから、心配してたんだよ」
「うん、久しぶり、おばちゃん。ふつつつかものですが、お世話になります」
「アッハッハ、つが一つ多いよ。ふつつかもの、が正解よ。こちらこそ、夏の間、よろしくお願いします」
「ぼくくん、駅のホームで寝ていたんだ」
「ええっ? それはまた、どうして?」
二人がぼくを見る。
「……やっぱりぼく、眠っちゃってたんだ」
あの出来事は、やっぱり夢、だったのだろうか……。
「僕もずっと駅の前で待っていたんだけど、なかなか時間になっても来ないから、駅員さんに聞いたんだ。そしたら、駅のホームで寝てるっていうもんだから、急いで駆け付けたわけさ」
「そうなんだ。」
「でも不思議だな。駅員さんは寝てるぼくくんに今の今までまったく気づかなかったっていうんだから。」
「駅員さんも居眠りでもしていたんじゃないかい?」
「いやー、不思議なこともあるもんだね。」
「本当ね。さあ、ぼくくんも長旅でお疲れだろうし、汗もいっぱいかいたでしょう。お風呂が沸いてるから、入っちゃってねー。あ、そうそう、ぼくくんのお部屋の準備もできてるから、あとで案内するわね」
「おばちゃん、ありがとう」
「いえいえ」
「さ、上がろう」
おじちゃんが言って、ぼくはおばちゃんに連れられてお風呂に向かった。
お風呂でさっぱりした後、おじちゃんとおばちゃんと夜ご飯を食べた。
「静かな食卓でごめんね。ぼくくんのお家は賑やかなのかな?」
「ううん。普通だよ」
「そうか。普通か」
「うちには、本当は食卓を明るくしてくれる元気なおじいちゃんもいるんだけど、今週はたまたま街の方で入院しててね」
「どこか身体が悪いの?」
「あれでも年だからね。あちこちをメンテナンスしないといけないんだよ」
「へー。」
食事が終わると、自分の新しい部屋を案内してもらった。
念願の一人部屋だ。
ぼくの家は、アパートで、自分の部屋がなかった。
だからすごく嬉しい。
いつか本当の自分の部屋が欲しいなぁ。
「好きなように使っていいからね」
部屋に入ると、おばちゃんが布団を敷いてくれた。
部屋の壁際には机と椅子があり、大きな窓が一つ、大きな本棚が一つ、机の上には虫かご、机のわきに虫網がかけられていた。
「ぼくくんが来るって聞いて、あの人がすぐに買ってきたの。うちには子供がいないから、はりきっちゃって」
「ありがとうって、おじちゃんに言っておくよ」
「フフッ。ありがとう。そうしてくれると、おじちゃんもきっと喜んでくれると思うわ」
少しして、おばちゃんは一階に降りて行った。
ぼくは家から持ってきた宿題をリュックから取り出すと、それを机の引き出しの上に置いた。
「面倒くさいけど、やることもないし」
ぼくは仕方なしに筆箱から鉛筆を取り出して、国語ドリルを始めた。
やがて眠くなってきたので、最後に宿題の絵日記を開いて、何を書こうか考えた。
考えようとして、あの夕方に起こった出来事を思い出してしまって、ドキッとした。
そのことはできるだけ思い出したくなかったので、おじちゃん家に泊まりに来たことを絵日記に書いた。
明日からどんな日になるのだろう。
消灯すると、ぼくは布団の中に入って、眠りについた。