きさらぎ駅1
ガタンゴトン、ガタンゴトン……
電車に揺られていた。
眠ってしまっていたかもしれない。
瞼をこすると、自分がどこにいたのか、周りを見回した。
夕日が窓から差し込んでいた。
自分は電車の座席に座っていた。
ぼくはもう一度当たりを見回す。
人っこ一人見当たらなかった。
眠る前は隣にお姉さんが座っていたはずだった。
「ねぇぼく、どこから来たの?」
確か、そんなことを聞かれたような気がする。
「お姉さんも、ぼくと同じ駅で降りるって言ってたと思うんだけど……」
降りる前に起こしてくれなかったのだろうか……。
そういえばぼくって、子供だったっけ?
などと変な考えを思い起こしながら。
やっぱりぼくは最初から子供なんだったと、思い直して。
仕方ないので、とりあえず次の駅で降りることにした。
誰もいない。
誰も乗っていない。
しかし、待っても待っても駅にはつかなかった。
ぼくは次第に不安になり、座席を降りると、ほかの車両に人が乗っていないか調べることにした。
「いない。」
「あれれ。」
「おかしい……。」
車両を回ってみるが、誰も乗っていなかった。
誰も乗っていないなんてこと、あるのだろうか。
「まさか、これって……幽霊電車?」
そんな考えが脳をよぎると、だんだん怖くなってきた。
不安が恐怖に変わろうとしていた時、最後の車両で、一番前の運転席に人影が見えた。
「よかった。やっぱり人、いるじゃん」
考えてみれば、電車が動いているのに、車掌さんがいないなんてありえない話だ。
ぼくはちょっとだけ安心すると、車掌さんのいるドアの前まで歩いて行った。
ガラス越しにドアをノックしようとして。
その時だった。
ガランガランガランガランガランッ!!!!!!!!!
奇妙な大きな鈴を鳴らしたような音が電車内に響き、ぼくは耳をふさいだ。
「うるさっ! なんだ!?」
と、その音は更に大きくなっていき、耳を塞いでいるのに直に聞こえてくるようだった。
脳みそまでじんじんするような不快音。
ぼくは気が遠くなり今にも倒れそうだった。
そうして意識がなくなろうかという時、電車は勢いよくトンネルへと入っていき、それと同時に耳をつんざく轟音は嘘のように静まった。
トンネルに入ると、電車内は真っ暗になり、今度は視界を奪われる形になった。
真っ暗な電車の中、一人、ぼくは恐怖におびえ、立ち尽くしていた。
長い。時間だった。
今か今かと待ち続けた光はともらず、電車のガタンゴトンという音だけがぼくの味方だった。
一生抜けないのではないか、そう思えるほど、長い時間を走り続けていた。
しかし、やがて一寸の光が差し、それがトンネルの出口であると気づいた時、ぼくははっと我に返った。
その時ぼくは涙が出そうだったが、こらえていた。
早く帰りたい。
お父さん、お母さん。
そうぼくは願った。
でも帰れない。
お母さんは病院で赤ちゃんを産むために、お父さんは仕事でいけないからと、ぼくだけが田舎のおじちゃん家に預けられることになった。
出口が大きくなってくる。
電車はトンネルを抜け、ようやく、駅が見えてきた。
ぼくは緊張から解放されて、足からガクガクと力が抜けていった。
自分は本当に幽霊電車に乗っていたんじゃないかと思った。
でも、駅はちゃんとあった。
あそこがぼくの行くはずの山堀駅だったらいいな。
そう願いながら、ブレーキをかけていく電車に揺られていた。
電車がゆっくりとホームで止まる。
プシューとドアが開いた。
ぼくはくずおれそうな足になんとか鞭を打って、ホームに降りた。
振り返ると、電車はジリリリとなって、再びドアが閉まる。
閉まっちゃった、そう思いながら、ぼくは最後に運転席を見て、言葉を失った。
「え……?」
……運転席に乗っていたのは、人間ではなく、顔のない、のっぺらぼうのようで、口だけが頬まで裂けていて、不気味に笑っていたからだ。