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幻影の君に愛の祝福を

ハーレムVS逆ハーレムだったわけ

作者: 山崎世界

「みんなおっはよー!」


 私は今日も元気よく、女子寮の食堂に出向く。


「うむ、おはようリリエット」


 最初に声を掛けてきたのは私の一番の親友、背が高くてスタイルがものすごくいいアルトレイア。


 この国の将軍の娘さんで、その父親譲りらしい凛々しさで彼女を慕う女の子も急増中だ。


「おはようございますリリエットさん」


 そして次に声を掛けてきたのは、この国の王女様、フィオレティシア様だ。気品漂う美貌とダイナマイトバディに加えて、その透き通るような声。これぞお姫様! って感じの女の子。いやあたまりませんな。


「……おはようございます」


 ダウナーな雰囲気漂う魔女っ娘特有のとんがり帽子、もといその下には愛らしい蒼髪蒼眼のロリ担当、アイリシア。マントの下からいそいそちびちびご飯をほうばる姿は小動物っぽい。


「おはようございます皆さん」


 そして遅れて登場してきたのは、クール系な女の子、ミスティ。でも知ってるんだ、その仮面の下は甘えんぼで寂しがり屋だってさ。そんなツンとデレのギャップがまたたまらないぐへへへ……。


 さて、今日も一日、張り切っていきますか!


※※※


「ど~して何も起きないかなぁ……」


 夕方、学園も終わったところで私は公園のベンチに座って項垂れる。


 今日も今日とて空振りだ。少しくらいは何かイベントがあったっていいのにさ。前世もそうだったけどホントどうなってんの?


 あ、乙女ゲー転生ですハイ。ちなヒロイン


 『幻影の君に愛の祝福を』乙女ゲーのいわゆる攻略対象ヒーローだけではなく、そのキャラとのイベントに奥行きを持たせるためにサブヒロインとでも呼ぶべきなのかしら? そういうのに無駄に力を入れていたゲームだ。攻略対象たちはそれぞれサブヒロインと浅からぬ因縁が絡んでいて、その辺りをヒロインが解決していくというか大体そんな感じ。


 私はうん。攻略対象はどうでもいい。サブヒロインときゃっきゃうふふ出来ればそれでいい。百合じゃありませんーそのあたり健全なんですぅ。お姉ちゃんとかママとか呼ばれたりするイベントあるらしいけどそれでも12歳以上対象くらいで収まってるんですう。


 前世で私はそれはもうプレイした。ただなんでかしらねぇ? 全然イベントが起きなかった。一日一日挨拶を交わしたりしたら好感度は上がるからそれでいいのかな? とか思ってたのに。


 アルトレイアを例にとって説明すると徐々にこんな感じに変化します。


「うむ、おはようリリエット」

 最初期。


「あ……ふふ、おはようリリエット」

 好感度中。


「……幸せと言うのはこういう感情を呼ぶのだろうな……あ、すまない。おはよう! リリエット!」

 好感度大!


 この仕草一つ一つがもう! 何だ! って。可愛いぞこんちくしょう! って。


 なのに何でエンディング発生しねえんだよちくしょおおおおおおおおおおおおお!!!


 何度ぼっちエンディング迎えたことか! こう言っちゃなんだけどあんた私のこと好きだったでしょ!? 酷くない!? 乙女の心弄んで楽しい!?


 はぁ……はぁ……おっと、うん。こうして乙女ゲー次元に直接乗り込んだからには私には夢がある。そう……幻のエンディング! その名も


   パ   ジャ   マ   パ   ー   ティ  ー  !!!!


「いやあ今年も彼氏出来なかったわーでもみんながいれば寂しくないよね」


 という傷の舐め合い。しかし! ぼっちエンディングばかりだった私には何と眩しいことか……っ! ええい! とにかく乙女ゲーの女の子たちとキャッキャウフフしたいんじゃ私は。


「でもどうすればいいのかしらねぇ」


 そう何度目かは分からない頬杖をついていた時のことだ。アイツと出会ったのは。


「よぉ、相変わらず色々やってるみたいだなリリエット」


「……誰? あんた」


「誰とは失礼だな。攻略対象ヒーローにむか……おっと」


 ん? 今、攻略対象ヒーローって言った?


「なあ、もしかしてだけどあんた転生者だろう?」


「……はぁ? あ、あんた。なにいってんのぉ?」


「そっか。俺、このゲームに関してはそこそこ詳しいから多分力になれると思ったんだけど、勘違いなら、ま、いっか。じゃあな」


 がしっと。その背中を掴む。


「聞かせて。何のことか分かんないけど聞かせて」


「……シオンだ」


「は?」


「俺の名前だよ。まあここの世界でのってことになるけど」


 ん? とこいつは私の顔を覗き込んでくる。近い! 近いってば


「ょ……ょろしくシオン」


「ん」


 悪戯に微笑んでくるこいつは、何とも憎たらしかった。


※※※


「さてはおたく恋愛シミュレーションゲームっつーか紙芝居ゲーすらやったことないだろ?」


「紙芝居? 何の話?」


「恋愛ADVでクリックして選択肢選ぶだけの奴の中でも、一つ選んだらルート確定とかそもそもルート分岐ないのとかそういう温いタイプだよ。で、『幻影の君に愛の祝福を』のジャンルは今時硬派な恋愛シミュレーション。あれだよ。ステータスとか高めたりして、攻略対象たちとエンカウントするために色々歩き回ったりしたろ?」


「攻略対象たちはどうでもいいけど」


「……まあいいや。とにかくだ。ADVの温いやつでもさ、慣れてきたやつなら目当ての攻略対象が攻略できなかったらとりあえずそれでもそのまま一周とかするんだよ。二週目以降の攻略キャラってこともあるからさ」


「ふんふん」


「この幻影の君に愛の祝福を……まあ二週目で解放されるキャラもいるこたいるんだがそれはとりあえずいい。問題なのは、サブヒロインエンドは攻略対象のルートからしか分岐しないってこと」


「……え?」


「パジャマパーティエンドも然りな。攻略対象たち全員分のイベントをゲーム期間内にこなしていかなきゃたどり着けないんだわそれ」


「え? ていうことは?」


 私がやってたきたことは……?


「無駄骨だな。たく、攻略wikiくらい目通せよ今時……てのは、まあ前世の話になっけどさ……リリエット? リリエット?」


「…………は! ど、どうしよう! どうすればいいの! 助けて! シオえもん!」


「誰がシオえもんだ。まあ安心しな。イベント起こすためにやらなきゃならねえフラグは大体、覚えてるから、俺の指示通りにやってけば問題はないぞ。ま、リリエット次第だけどな。てか何で今まで攻略対象たちのイベント探してなかったんだよ。リオンのイベントなんかは適当に会って話してれば発生したはずだぞ」


「だって、その……」


「ガチ百合とかでもないだろ? でなきゃ乙女ゲー主体のこんなのに手出すとは思えんし」


 ぅ……話さなきゃ、ダメよね。


 こいつ、シオンが、手貸してくれようとしてんだから。


(こいつだったら、私のこと、バカにしたりしないかな?)


 いや、何考えてんの私は。


「リリエット……悪いな。変なこと聞いた。忘れて……」


「私、初恋とかもまだだったの」


 恥ずい。恥ずいけど、でも。こんなこと話せるようなやつもそういるもんじゃないし。


「でもそういうのに憧れはあって。だから、少しずつ慣れたいなって思って。『幻影の君に愛の祝福を』を買ったの。でも! いざこう、攻略対象? たちの顔がドアップで迫ってきたりとかするとさ! 恥ずかしくって! だから……」


「それでサブヒロイン方面に逃げたか」


 項垂れる。これは肯定って取ってくれていい。ふ、笑いたきゃ笑えばいいさ。そしてその逃避行動からサブヒロインに熱をあげるようになった滑稽さをね!


「まあ気持ちは分からんでもないけどな……そうだな。どうしてもそういうのが怖いってんなら俺が庇ってやるよ。それなら、まあ、攻略対象あいつらと深い仲になってアレやコレやになったりしないだろ」


 シオンの言葉に、私は何か信じられないようなモノを見た様な心地がして、


「ねえ? 何でそこまでしてくれるの?」


 ああ、何聞いてるんだろう私。臆病で、ズルい。ちょっと嫌になる。


「……攻略対象あいつらはさ、あれでも色々、抱えてんだよ。それをどうにかしてやれればって思ってたんだが、どうにも主人公ヒロイン以外はそういうのの干渉はし難いみたいでな。力になりたいんだ。ま、お前と一緒だよ。攻略対象あいつらが好きなんだ、俺も」


「私と……同じ」


 何だ。何だこいつ。


「それじゃ、これからよろしく頼むぜ?」


 シオンは気障ったらしく握手を求めてくる。ああ、もう。こいつ……こいつ……


「お兄様に何をしていますのこの泥棒猫ォオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 私とシオンの手が触れようかという時に、それを手刀で阻止しようとした人影があった。


 え? 泥棒猫? リアルで初めて聞いたんですけどそれ。


「お兄様ぁ何をしていたんですかぁ? このバスティア、お兄様がお迎えに来ないかお待ちしておりましたのに」


 うるうるシオンに抱きついてきたのはキ、キタ―――――――――――!!!!!! 新しい美少女キタ―――――――――!!!


 誰!? 誰なのこの子!? お嬢様系の可愛い子。令嬢? 令嬢なの!?


「ん? ああこんな時間か。悪かったな。バスティア」


 シオンに頭を撫でられているバスティアちゃん。可愛い。そして羨ましい。シオン爆発しろ。


「それじゃあ帰ろうか。バスティア」


「はい!」


 バスティアちゃんの手を取ってエスコートする様は、今までのラフな姿とは違って、貴族のような気品を感じた。


 あいつ、いいとこのお坊ちゃんだったの? まあ、攻略対象ともなれば当然か。


「バスティアと俺は二週目の隠しキャラだ」


 バスティアちゃんに聞こえないように耳に直接、さりげなく声を届けてきた。


「だから多分、お前の恋の相手になれそうにないから、ま、警戒しなくていいぜ」


「お、お兄様! 近いですー! 泥棒猫に近すぎです!」


 バスティアちゃん必死可愛い。


「ちなみにバスティアの通称で一番通りがいいのは、悪役令嬢(笑)」


「あっかんべー! ですわ!」


 可愛い。


※※※


「はぁああ」


 やばいな。


 男の俺が『幻影の君に愛の祝福を』を何でプレイしていたのか。それを思い知らされた。


 始まりは、そう、リリエット。ヒロインの彼女に一目ぼれしたのだ。


 攻略対象たちの抱える問題に、共に悩んで、時には導いて。容姿だけではなくて、そういう心情に段々と惹かれて行ってしまったのだ。


 まあ前世と今、生きている世界は違うんだしと思いこもうとしたけれど。


「何だよあいつ可愛い過ぎるだろうが!」


 くっそ。思いは募るばかりじゃないか。


 信頼を裏切りたくはないとは思いつつも、ああ、リリエットを騙くらかして、安全だよ怖くないよーって外堀埋めていっちゃおうぜ! って男の本能的な部分がいっぱいいっぱいだった。

 

 それから。


 俺とリリエットで攻略対象たちの悩みを解消していく過程で、攻略対象たちは順調すぎる程にリリエットに熱視線を。そして何故かサブヒロインたちの俺を見る目が段々おかしくなっていったりして。


 ハーレムを目指していたはずが逆ハーレムになっていったりして、俺達の恋模様はどうなるか。まあ、ご想像にお任せする。


ちなみにこれ主人公性転換した設定でいいんじゃね? と一瞬過ったんですがこの子は実は男の子には普通に興味があるんです。ですがちょっと臆病なだけなんです。ココ重要。(メンドくせえとか言わないでほしい)。

この次元のシオンもまあ攻略対象たち大好きで色々面倒なことやらかしてくはずなんですよね

まあそもそも幻影の君とは最初は影も形も無かったはずで、いつから出て来たのだったか。ええ……数奇なモノです。


名称に関してはちょっとネーミングを考える時間がね。ええ。悪役令嬢(笑)ちゃんには特に悪いことをしました。

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