第四章 ストラス 1
(科学長官の報告)
遠征より帰還せし〝賢明王〟は、全銀河系に対し、以下の如く報告を行いたり。地球に対する放送において彼女は、古風な眼鏡を着用せる、賢げな少女としてその姿を現せり。
「此度の〝アンドロメダ戦役〟においては、『新帝国艦隊が公式発表と異なる大規模戦力を以てアンドロメダ銀河に侵攻し、旧帝国中枢種族を超新星兵器によりて殺戮したる後、先住諸種族の再征服を行いたり』との風説が流布せり。かかる誤解に対し、同銀河遠征艦隊の技術部門副司令官なりし我、科学長官ストラスは、ここに銀河系全域への一斉通信によりて実際の遠征経過を報告するものなり。なお、この通信中において各種族を示す人称代名詞は、表記の統一及び公正のため、配信対象種族の遺伝学的基本形態たる性別のものを使用せり。また、この配信版は新帝国理事種族の生物学的特徴に関する表現につきて、太陽系第三惑星〝地球〟向けに配慮が加えられしものなり」
1 アンドロメダ銀河へ
「今次大戦即ち〝第二次帝国内戦〟は、当初〝銀河系内戦〟として開始せり。この戦いにおいて衰亡せる旧帝国の残党は、アンドロメダ銀河への逃亡後にその〝中核領域〟を占領し、同地を拠点として新帝国に逆襲を企てたり。然し、この〝銀河系襲撃〟の失敗及び苛酷な統治への不満は、政権より離反せる種族及び一部の先住種族による蜂起を招来せり。彼女達は同銀河の〝中核領域〟と〝外縁領域〟の中間を占める〝境界領域〟の方面に移動しつつ戦闘を継続し、新帝国に救援を要請せり。先遣されし偵察艦隊の報告によれば、旧帝国派は劣勢にして、早期の平定が可能と見込まれしがゆえに、新帝国政府は遠征艦隊の派遣を準備せり」
「然しながら艦隊進発の直前に至り、旧帝国派の反攻による優勢の回復及び、従来は局外中立を保ちたる〝外縁領域〟の先住種族による、反乱勢力及び偵察艦隊への攻撃が通報せられたり。現皇帝はこれを憂慮し、遠征艦隊の正副司令官たる種族融合体アスタロト、アスモデウス及び我ストラスの本体に加え、彼女自身を含む他の理事種族の大型分離体をも派遣することを決定せり」
「各融合体及び分離体は、種族複製の制限法規に違反せずして能力を増すべく、特別なる強化外殻を伴いたり。この外殻は、各種族の量子頭脳が設置されし惑星または小惑星の周囲に展開し、各々独立の機動・防御・攻撃及び情報処理能力を有する多数の機能単位からなる、自動機械の集合体なり。また、各理事種族は良好なる連携を保つべく、大規模かつ恒常的な超空間通信によりて精神を連結せり。この超空間通信は、我及び姉妹種族のアミー、ヴォラクによる遠隔融合体の形成の際に使用せる技術を、より高速化・長距離化せしものなり。さらに、各種族の惑星または小惑星は、強大なる中枢種族の攻撃に備え、巨大なる複合円環の形状を有する恒星包囲型構造物の内側に分散して配置せられたり。この巨大構造物は、〝銀河系戦争〟において滅びたる中枢種族、皇帝領防衛司令官オファニエルの遺留品を修復し、統一場障壁発生装置と超空間駆動装置を搭載して、超大型の遠征用母艦へと改造せしものなり」
「遠征艦隊は本艦隊・分遣艦隊及び後方艦隊より編成せられたり。本艦隊は前線正面において、旧帝国派種族・先住種族に対する戦闘及び交渉を実施する、通常作戦部隊なり。この艦隊は、遠征艦隊の総司令官アスタロト及び麾下の新帝国軍艦隊、民政部門副司令官アスモデウス、銀河系外周星域長官ベールの分離体及び傘下の補給艦隊から構成せられたり」
「分遣艦隊は敵支配領域の内部に潜入し、特に中枢種族の発見及び捕捉を任務とする、特殊作戦部隊なり。この艦隊は、技術部門副司令官たる我ストラス、我が姉妹種族アミー及びヴォラク、また〝皇帝領の戦い〟においてアミーと共に中枢種族と戦いたるバールゼブル及びグラシャラボラスからなり、我以外の四者は分離体なりしが、各々指揮下の艦隊を伴いたり」
「後方艦隊は戦線の背後において、銀河系との連絡・輸送及び政策的配慮を担当し、非常時には戦闘及び交渉にも参加する、後方支援部隊なり。この艦隊には、帝国本土の本体と超空間通信によりて常時連絡を保持せる現皇帝の分離体、その助言者として他種族の心理分析に詳しきアドラメレクの分離体、両者の護衛として強力な武装を有する帝国本土防衛司令官アモンの分離体、及び彼女が率いる本土防衛艦隊の一部が所属せり」