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第三章 アモン 4~5

4 親衛軍 ……グラシャラボラスの願い


「〝純真侯〟グラシャラボラスは〝歴史あるもの〟にありては若き種族なれども、親衛軍バールゼブル艦隊の情報部門副司令官にまで昇任せしは、その苦心と努力によるところ大なりき。彼女は〝未来あるもの〟の時代、近隣星系の三つの種族と交戦状態にありしが故に、恒星間航行技術を開発せるも帝国への加入を留保せられたり。他の種族はいずれも技術水準においては彼女と同程度なりしが、排他的にして好戦的なる性質を有し、彼女の和平提案にも応ずることなく相互に戦闘を継続せり」


「彼女は戦争による資源の消耗及び惑星攻撃手段の発達を憂慮し、侵攻型宇宙艦隊の建造中止及び広域的な星系防衛手段の構築を決定せり。彼女の攻撃戦力の弱体化を知りたる他の三種族は連合してその星系を攻略せるも、母なる恒星を動力源とする、惑星規模の電磁障壁及び対宇宙迎撃兵器によりて撃退せられたり。しばらく後に、彼女の偵察艦隊が三種族の星系を訪れしところ、いずれも相互の対惑星攻撃によりて絶滅に瀕せり。彼女は寛大にも、戦乱に培われし強靱さを以て各種族の存続と復興を支援し、図らずも近隣宙域における指導的地位に就くと共に、帝国への加入を承認せられたり」


「彼女は軍事種族と認定され、その後は親衛軍に所属して文明発展の階梯を上りたるが、本来は戦争を好む性質に非ず、特に宇宙進出後の歴史においては平和的で豊かなる文化の恩恵を享受すること叶わざりしが故に、これを希求し憧れる感情著しく、その苦悩を友好種族アスモデウスに吐露せしところ、現皇帝の知己バールゼブルを紹介せられたり。バールゼブルもまた彼女と同様の経緯から親衛軍に配属せられしが、種族融合化以降はその才知を以て他種族との権力闘争を回避し、あるいは彼女達を教化することによりて、その地位を保持せし者なりき。また、銀河系の多種多様なる文明形態に関する関心と造詣が深く、さらに重要なことに、戦争は政治のための止むを得ざる一手段に過ぎざることを深く認識せる、当時の強権的な親衛軍の司令官には数少なき、賢明なる種族なりき。彼女達は親交を深めたり」


「グラシャラボラスはバールゼブル艦隊への異動を希望して配属されし後、苛酷なる宇宙戦闘における惨害を最小化すべく、高性能なる防御兵装の研究を提案せり。彼女はかつて自らが考案せる電磁障壁の概念をさらに発展させ、あらゆる発射体・照射型兵器のみならず、遠隔素粒子操作兵器にも対応が可能なる、統一力場障壁の展開装置を開発することに成功せり。この新装備は全親衛軍への配備が決定され、彼女は同艦隊の副司令官に昇任せり。然しその開発に際しては、当時既に同艦隊の技術部門副司令官なりしアミーに加え、その姉妹種族ストラス・ヴォラクもまた多大な貢献を果たしたることは、無用の関心を避けるべく秘せられたり。前王朝の疑惑が発見されし時、現皇帝はこれをバールゼブル及びアスタロトに通知すると共に、前者より秘密裏に当該技術を入手せり。彼女はまた〝戦闘中における味方からの奇襲〟に備えるべく、科学省長官たるストラスに依頼して、障壁が蒙りたる攻撃力を自動的に反撃用の動力へと変換出力し得るよう改良したる後、その技術を両者に提供せり」


「〝皇帝領の戦い〟において、バールゼブル艦隊がアミーの航法計算に基づき、非人道的なる超新星化攻撃を行いし敵艦隊を追撃せる際の先鋒は、グラシャラボラスの分艦隊なりき。彼女の艦隊に捕捉されし敵艦隊の司令官は、中枢種族ザフィエルの認証符号付き秘密通信によりて停戦を求めると同時に、バールゼブルの暗殺と引換えに司令官職を与える旨の密約を提案せり。然しザフィエルは、彼女がこれを拒絶するや、超空間駆動による逃走準備に入ると同時に、全力で奇襲攻撃を実行せり」


「後に、同駆動装置は従来に数倍する出力を供給し得るも、旧帝国においては燃費改善の失敗や攻撃優先の思想から、燃料・攻撃兵装の搭載のために防御兵装・損傷対策が犠牲となりしことが判明せり。グラシャラボラス艦隊の力場障壁は、奇襲に耐え抜きたり。少壮の艦隊副司令官が真に憎みしものは秩序の侵犯それ自体に非ずして、一部種族の利益のために惹起されし戦争の惨禍なり。歴史ある旧帝国の中枢種族が、自ら帝国の主要部を荒廃せしめたるのみならず、かかる心情を最期の時まで遂に理解し得ざりしことは、誠に残念なる事実なり」


「グラシャラボラスはその後、旧皇帝領復興開発長官たるバールゼブルの副長官として、同輩アミーと共に、同星域の再建に従事せり。彼女は現在、歴史的・文化的調査及び物質・動力の回収を行いつつ、被災惑星の移動と再生、さらには力場障壁技術を応用せる恒星の再創造計画にも成功し、その歴史上において最も幸福な時期を迎えたらん」



5 外周星域 ……アドラメレクの貢献


「アドラメレクは、その金色こんじき天馬ペガサスの如き分離個体の美しさのみによりて、〝美麗公〟の別名を得たるに非ず。多様な種族からなる帝国においても最大多数の最大幸福を実現し得る、芸術的ともいうべき文明開発政策を立案し得るが故に、かく呼称される者なり。彼女は帝国加入以前から、二つの知的種族が一惑星上で対等かつ友好的に文明を共有せる、希有の存在なり。虹色に輝く金色の孔雀くじゃくの如き〝金色の種族〟は、気紛れなるも天才肌の種族なり。栗毛の騾馬らばの如く壮健にして温厚なる〝褐色の種族〟は、堅実にして努力家の種族なり。両者が有史以前から生物学的共生関係にありしや、あるいは一方が他方を使役あるいは愛玩動物として生成したる後に文明化せしやは定かならず。然し、既に帝国との公式接触の時点において、両者は一体となりて見事なる文明を築きたるが故に、単一種族として帝国への加盟を承認せられたり。その発展の歴史から、彼女は異種族間の利害調整能力に優れ、その才能を自らが所属せる文明開発省において遺憾なく発揮せり。彼女は副長官アスモデウスの推薦を受け、銀河系外周星域における技術・情報部門兼務の副長官に任命せられたり」


「銀河系外周星域は自治領なれど、当時において実質的には準開発途上星域なりき。その広大なる領域は、巨大な液化気体惑星に居住する非酸素・炭素系種族が統治せるも、帝国初期の内戦における敗北によりて銀河中央から分画され、帝国からの派遣軍が常駐すると共に、同じく中央から派遣されし副長官が内政上の拒否権を有せり。また非酸素・炭素系種族は、その多くが〝星を動かすもの〟や〝心ひとつなるもの〟の階梯に相当するにも関わらず、移動時の重力震被害を理由として惑星の星域間移動を制約され、また長官ベールほか数名以外は帝国議員の資格を与えられざりき。さらに星域内においては逆に、酸素・炭素系の少数種族が疎外され、他星域に移住を試みるとも外周星域への政治的・文化的な偏見から入植を拒まれて不満を抱く等の、困難を有する星域なりき」


「アドラメレクは科学省長官ストラスに支援を要請し、衛星軌道配置型の恒星間駆動装置を開発せり。この装置は、必要に応じて多数を併用し出力を増大せしめることにより、亜空間跳躍時の重力震を低減しうる一方、攻撃に対しては脆弱ぜいじゃくで軍事転用が困難なりしがため、帝国の技術移転制限法に抵触せざるものなりき。この駆動装置は量産され、惑星の星系間移動に活用せられたり。また、彼女は自ら多数の分離個体と共に巨大惑星に移住して活動することにより、一定水準以上の適応能力を有する種族にとりては、居住星域や基盤元素の相違が問題とならざることを実証せり」


「加えて彼女は、以下の如き情報を星域内に知らしめ、種族間の相互理解及び分権的な社会改革を図れり。即ち、長官ベールは惑星上の基礎的な生物種が巨大なる群体を形成し、生態系を維持すべく知性を得たる種族なるが故に、星域内のほとんどの種族はあたかも生態学的な共生関係の如く組織化され、母性的なる慈愛に満ちた統治の恩恵を享受したること。然しまた同時に、酸素・炭素系種族を含む各種族の独自的な発想や努力が、星域全体の発展をもたらす場合も存すること。さらには、これらを制限する外周星域の固定的な階層社会が帝国中央による同様の参政権制限を正当化し、彼女達自身の発言力を抑えるものとなりつつあることなり。かように率直なる情報提供に基づく彼女の種族間融和政策は、非酸素系種族・酸素系種族の双方から高き信頼及び支持を獲得し、星域内における文明開発は大いに進展せり」


「現皇帝及びアスモデウスが、アスタロト及び我の分離体と共に外周星域を訪れたる際、ベールは仁愛を以て副長官とその盟友を保護せり。然し、開発計画への干渉によりて多数の途上種族が滅亡せしことが確認され、さらには帝国派遣軍が強圧的なる捜索と、非協力的種族への攻撃を開始せるに及び、彼女は新帝国側において参戦せり。これに対して現皇帝は、外周星域への広範なる自治権の付与と、後続のストラスを通じたる先進技術の提供によりて報いたり」


「〝外周星域の戦い〟は、新帝国側優位のうちに推移せり。アドラメレクの開発せる駆動装置によりて、星域内の主要惑星は安全宙域への避難に成功せり。またストラスによる防衛技術の提供及び、アスモデウスによる派遣軍現地徴集部隊への説得工作の助けを受けて、外周星域軍は勇敢に防衛戦を展開せり。これに対して帝国派遣軍は、その活動に正当性を欠き、装備も旧式なりしが故に、士気を失いて急速に消耗せり。然し、派遣軍司令官たる中枢種族ガルガリエルは、強力なる可動要塞惑星と一体化し、麾下の艦隊に母星破壊や遠隔自爆操作による脅迫を加えて動員を継続せり。外周星域艦隊の損害もまた増加せることを知りたる現皇帝及びアスモデウスは、自らおとり作戦を実施せり」


「銀河系渦状肢間の恒星少なき宙域に移動せし彼女達は、その情報を意図的に漏洩せり。ガルガリエルは自ら艦隊を率いて同宙域に赴き、外周種族の艦隊と共に潜伏せる両者を発見せり。然し、護衛艦隊を外周艦隊の陽動によりて分離されし後、両名に殺到せる中核艦隊の眼前に、何らの前兆となる重力変動もなく、亜空間跳躍のきらめきと共に数千の駆動装置を伴いし高重力暗黒天体ブラックホールが出現したる時、〝外周星域の戦い〟は事実上終結せり。アドラメレクは精密誘導のためこれに随伴して跳躍せるが、力場障壁はここでも十分にその機能を発揮せり。アドラメレクの惑星に対し核融合点火を図りたる必殺の反物質化攻撃は照準を外れ、惑星全体を覆う鏡の如き物理障壁の手前で無数の光の泡と化して昇天せり。要塞惑星が暗黒天体に衝突し吸収されて発生せし莫大なる電磁波と素粒子の放射は無害化され、外周星域の解放を祝福する旭日の如く、彼女の惑星を美しき虹色に輝かしめたり。戦後彼女は帝国史上初の、長官推薦に基づく外周星域副長官として再任せられたり」


「以上の如く説明を行いし理由とは、今なお帝国に残存せる中枢種族による情報操作の悪影響を除くことにより、偏見なき視点から現在の帝国の状況を再認識することを助け、以て不幸なる歴史的経緯から旧帝国軍事組織に参加せし汝等の、武装放棄と社会復帰を奨励するためなり」

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