表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/36

第三章 アモン 1~3

(防衛司令官の勧告)


 大いなる戦いの後、短髪の美少年の如き少女の容姿かたちをとりし〝強健侯〟は、地球において以下の如く勧告を行いたり。


「アンドロメダ銀河の平定及び講和条約の締結による今次大戦の終結に伴い、旧王朝の政権は公式に消滅し、その権利・義務は新政権に承継されることが確定せり。銀河系の中央星域と外周星域の境界に位置せるここ太陽系第三惑星〝地球〟において我、帝国本土防衛司令官アモンは、銀河系外周星域長官ベール及び同副長官アドラメレクとの連名において、本惑星に潜伏せる旧帝国系武装組織の構成員に対し、寛大なる処遇を約して投降を呼びかけるものなり」



1 長官達 ……現皇帝の選択


「我等は、これより行ういささか長き説明によりて、汝等の誤解を払拭しることを望むものなり。かつては我等もまた、反対者なりき。然し同時に、自らの正当性をも絶対視することなく、問い直し続けたる者なり。例えば我等の、大戦勃発に至るまでの懊悩おうのう逡巡しゅんじゅんの過程は、その証左なり」


「発展途上種族に対する文明開発計画は、帝国の草創期より実施され、またその存在意義のひとつともなりし重要事業なり。然しこの計画に対し、銀河系における覇権の維持とアンドロメダ銀河侵略のための軍事種族育成を図るべく、前王朝のもとで違法かつ非道なる干渉が行われし嫌疑が発見されし時、当時文明開発省の長官なりし現皇帝は正義と忠誠、良心と義務の狭間で苦悩せり。彼女の依頼を受けて当該事件を調査せる科学省長官ストラスもまた、同省に委任されし先進種族への融合体複製計画に同様の意図が隠されしことを確認し、葛藤に苦しみたり」


「現皇帝は秘密の保持を誓約しつつ、計画に対する干渉の中止を求めて先帝に直訴せんと試みたるが、彼女の民政部門副長官アスモデウスはこれを制止せり。外交関係が広く、帝国の内部事情に詳しき彼女は、当時の皇帝諮問機関たる枢密院を構成せる〝中枢種族〟の腐敗及び権力闘争は深刻であり、かかる情報は認識の時点で関知者の地位に危険を及ぼし、直訴に至りては訴願者の暗殺さえ招来しうべきことを指摘せり」


「ストラスもまた、帝国に関する社会科学的統計及びその矛盾を分析したる結果、かくも大規模にして背信的な秘密政策はもはや内部的手段では変更不可能であり、また対外的な真相の暴露による是正の試みも事実の隠蔽と侵略の早期決行、あるいは責任の所在を巡る中枢種族間の内戦をもたらす可能性が高き旨を報告せり。残念ながら、これらの予測は後に全て現実化せり」


「かかる閉塞状況は、永き歴史を有する知的種族の融合体さえも絶望あるいは自暴自棄に導き得るものならん。然し、アスモデウスは再び、かかる逆境に置かれし現皇帝を助けたり、彼女は従来、職務遂行のため精力的に多数の種族と交流・交渉を重ね、〝未来あるもの〟の文明開発に貢献せし実績から、〝熱情王〟の別名を得たる種族なり。彼女は現皇帝に、いかなる道を選ぶとも安全の保証はなき以上、自衛策を講じたる上で良心の声に従うべしと勧める一方、自らの友好種族グラシャラボラス及びアドラメレクを通じ、親衛艦隊の一部及び外周星域に事実を通知して協力を求めたり」


「ストラスも同様に、種族複製計画の成果を軍事的圧制と他銀河侵略ではなく、先進種族の相互理解と能力向上という本来の目的のために用いることを望みたり。彼女は複製実験において自らと心を結びたる被験種族、アミーとヴォラクを親衛軍と正規軍に派遣して、来るべき事態に備えたり。さらに彼女は科学的予測に基づき、事態の打開が遅延するほど内戦の発生確率・予想規模は増大し、当時既に量産段階にありし超新星兵器の配備状況を考慮すれば、帝国全土の壊滅さえも危惧される旨を指摘して、現皇帝の決断を促したり」


「現皇帝は予てより、発展途上種族に対して、次なる基本的知識の普及に努めたり。即ち、『国家は自存のために軍事力等の強制力を有するも、その権力が国内矛盾の抑圧・転嫁に向けて恣意的に濫用らんようされし場合には、存立目的たる社会的利害の調整を阻害し、却って自らの衰退または滅亡を招来せん』と。後に彼女は当時をかえりみて、『かかる悲劇がよもや帝国全体に渡りて生ずることまでは、予測・予防し得ざりしことを悔いるなり』と述懐せり。もとよりそれは、現皇帝のみの過ちには非ざること明らかなり。然し彼女は、戦闘種族の量産という目的のためにその発展を歪められ、銀河系の星々の大海に儚く消えし幾多の種族をいたみ、事態の改善に身命を捧げんと決意せり」


「現皇帝は、当時の中心星域への帰還を装いてその外縁部に到達するや、公開通信によりて事実の通報及び是正の請願を行いたり。然し、これに対する回答は、現皇帝に同行せる軍事部門副長官、即ち我に彼女の処刑を命じる追討勅令であり、勅命に異議を申し立てたる我をも討滅すべく派遣されし者は、我と同一の星系で文明を育みたる姉妹種族カイムなり。我は苦渋の選択によりて彼女を撃破せるも、心身、特に士気の面において深刻なる損傷を被り、戦闘不能に陥りたり。直属の護衛戦力を失いし現皇帝とアスモデウス、及び傷つきし我を助けたるは、救援に参じたる科学長官ストラスと、正規軍のアスタロト艦隊なりき」



2 三姉妹 ……ストラスの新技術


「ストラスは優秀な技術を有するのみならず、技術の開発・利用者として不可欠の良識及び責任感をも備えたる種族なり。彼女はかつて、双子種族のアミーとヴォラクを生みたる種族融合体の複製計画においても、その資質を実証せり。彼女は複製実験と同時に、両種族間の正統性を巡る紛争を予防し、さらには他種族間の紛争防止にも応用すべく、両者の同意を得て複製体相互の恒常的な亜空間通信による交流を構築し、超融合体とも称すべき共同体の形成実験をも行いたり。彼女は経過観察に万全を期して後遺症発生の危険を防ぎ、また万一の失敗時にはその責任を負担すべく、自らもまた被験種族の一部複製体と融合して、通信回線を接続せり。実験は成功し、アミーとヴォラクの双子姉妹にストラスを加えたる三姉妹種族は、銀河系最高の創造的演算能力と、種族の共有記憶を暗号鍵とせる秘話通信能力を獲得するに至れり。これらの能力は、新帝国陣営における戦略立案と戦闘管制にも大いに貢献せり」


「彼女は現皇帝による公開請願後に彼女を擁護すべく、親衛軍・正規軍の通信回線を含む帝国内のほぼ全ての超光速通信網によりて、さらなる通報と請願を行いたり。この通信は現皇帝の請願に説得力を加え、またより広き伝達性も有するが故に、彼女はこれに事件の平和的解決への望みをかけたるが、不幸にも既にこの時点において、事態は当初の予測よりも早く帝国の内戦と我等への襲撃、さらには皇帝弑逆へと悪化せり。然し他方でかかる社会の混乱は、その後に現皇帝がより広範なる支持を獲得すべく、開発途上星域及び銀河系外周星域におもむく猶予を提供せり」


「我等の救援に到来せしストラスは、アスタロト艦隊の助けを得てカイムの再生可能なる残骸を発見・回収せり。彼女は種族間融合実験の成果を応用して、我との融合による修復及び再生を図ることを提案し、現皇帝もまたこれを推奨せり。カイムは復活後、この温情ある措置及び戦争の真因につきて告知され、我等が陣営への参加を誓約せり。また融合の結果、相互の直撃への躊躇によりて両者が完全な破壊を免れたることが判明し、我等姉妹種族の士気及び相互の情愛はさらに著しく増大せり」



3 正規軍 ……アスタロトの進言


「アスタロトは〝正義公〟の別名の如く生真面目にして、社会的公正の実現への使命感が高き種族なり。また、カイムの情報提供からは、我に下されし現皇帝の追討勅令及び、我が姉妹種族カイムに下されし我等の処刑命令が、いずれも中枢種族バラキエルによる独断と、先帝名の潛称による所為しょいなりしことが判明せり。バラキエルは国璽こくじ、即ち皇帝認証符号の使用を管理せる皇帝秘書官長なりき。然し、彼女は他の中枢種族と異なりて、親衛軍または正規軍に有力なる従属種族を有せざりき。故に彼女は、自らの私兵軍団の司令官カイムに命じ、他種族に先んじて現皇帝を討伐せしむことにより、枢密院における自らの地位を高からしめんと謀りたるなり。〝正義公〟は、悲憤慷慨ひふんこうがいせり」


「バラキエルの賭けは失敗せり。後に、主戦力を失いしバラキエルは他種族からの攻撃を受け、滅亡したることが判明せり。アスタロトはこれに先立つ中心星域での内戦勃発当初、政治的中立のため自艦隊に対し、中枢種族間の戦闘への介入を禁じたり。然し彼女は、かかる策謀の事実及び戦闘拡大による同星域の無政府状態化を確認し、もはやいかなる中枢種族にも帝国を統治する能力なしとして、この命令を撤回せり。彼女は現皇帝に対し、状況は極めて困難なるも、内戦によりて混乱せる正規軍艦隊を糾合し、親衛軍や外周星域内の友好種族とも協力して、壊滅を免れたる宙域を防衛すべしとの意見を上奏せり。また時を同じくして、バールゼブル艦隊からは、中枢種族による超新星兵器の使用及び先帝の消息不明が通報せられたり」


「これらを受けて現皇帝は、帝国の混乱と破壊を終息せしむべく、止むなく新王朝の創始を宣言せり。彼女は友好的なる軍事種族、親衛軍のバールゼブルと正規軍のアスタロトに対し、中心星域の治安回復及び敵対勢力の星域外進出阻止を命令せり。また彼女自身はアスモデウス及び我と共に開発途上星域に帰還し、さらには銀河系外周星域へ赴きて、事態の説明及び協力要請を行うことを決定せり。新型駆動機関を装備せる秘匿艦隊の出現や、諸侯及び軍司令官の分離・独立等、状況は依然として楽観を許さず、両星域における理解と支持が戦争の帰趨及び戦後の復興を左右すると考えられしためなり」


「その後幸いにも、親衛軍種族の多くは内部抗争によりて損耗したる後、バールゼブル艦隊の追撃によりて壊滅または投降せり。当時の親衛艦隊は、傀儡かいらい化されし先帝のもとで、実質的には中枢種族とその系列種族が兵力を拠出して運営せられたり。故に、内戦勃発後間もなく彼女達もまた同士討ちを開始し、バールゼブルの介入と優勢が明らかとなるや、一部の超空間駆動を有する種族のみがアンドロメダ銀河に逃亡したるなり」


「一方、正規軍は親衛軍よりも中枢種族による系列化が及ばず、加えてアスタロトが我及びカイムの戦闘事件を周知し、先帝なき後の抗争によりて同胞相討つことの悲劇を強く訴えたり。故に、彼女達はその大半が新王朝に帰順して、帝国からの分離を企てたる諸侯や軍司令官に対する平定・復帰作戦に参加せり。さらにこの作戦においては、アスタロトの技術部門副司令官ヴォラクが姉妹種族のストラス・アミーと心を結び、量子戦及び戦闘管制演算を行いたり。彼女達は相手方の通信及び探知を妨害しつつ、完璧なる包囲陣形を形成して降伏を促すことにより、双方の犠牲を最小限に止めることに貢献せり」


「なおアスタロトは、正規軍の上官として我を当時の職に推薦したる、前任者なり。彼女はそれまで長らく開発途上星域の軍事部門副長官として現皇帝を補佐及び警護し、彼女の〝未来あるもの〟への深き愛情と配慮に学びて、深く敬愛の情を抱くに至れり。また、かつてはこの太陽系第三惑星〝地球〟の文明化に際しても現皇帝を補助せしことにより、彼女は愛と豊穣の神イシュタル、我は畜産の神アメンとして人類に記憶せられたり。今や汝等人類の文明は偉大なる発展を遂げ、星間社会に参加して多大なる貢献を為し得るまでに発展せり。アンドロメダ銀河遠征に先立ち、総司令官として当地を再訪したる際は、現在の我と同様に、彼女の胸中もまた感無量の思いに溢れたらん」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ