第七章 アミー 1(3)~(5)
(3)マルコシアス達の活躍
「アンドロメダ銀河臨時政府の軍事部門副長官アスタロト及び、顧問官マルコシアス並びにゴモリーは、蜂起に対して強烈なる怒りと危機感を抱きたり。アスタロトは〝大戦〟以前から中枢種族の腐敗を憂い、彼女達からの危害も被りたり。マルコシアスは、母なる銀河を彼女達によりて征服・蹂躙せられたり。ゴモリーは指導種族ラジエルと共に、その意に反して侵略と圧政への協力を余儀なくせられたり。ゴモリー及びマルコシアスは、ラジエルによる逃亡政権からの離反に加わりて、彼女が中枢種族に滅ぼされし後も、アスタロトの遠征艦隊に協力しつつ抵抗運動を継続し、苦難の末に勝利を獲得せり。故に彼女達は、如何なる代償を払おうとも忌まわしき悪夢の再来を阻まんものと、悲壮なまでに決然たる意思を以て蜂起軍の鎮圧に進発せり」
「特にゴモリーは旧帝国系軍事種族としての地位及び責任から、アスタロトの任務に協力すべく、必要に応じ〝悪役〟を演じる覚悟さえも抱きて理事種族に加わりし者なり。周知の如くこの時期には、ゴモリーが好戦的種族に〝先祖返り〟したるかの如き動画の流出事件が発生せり。従来この映像は、先住種族の蜂起を防止するための創作映像が、事故により流出せしものと説明せられたり。然し、今回の情報公開においてはこの事件は寧ろ、旧帝国系種族の蜂起への参加を牽制して、戦闘の回避を図るためのものなりし事実が判明せり」
「然し残念ながら、というより幸いにも、彼女達の覚悟と決意は徒労に終われり。彼女達の艦隊との接触以前に融合体は次々と〝我に返り〟て降伏し、分離体及び分離個体が搭乗せる艦艇にも戦闘停止命令を発したり。この魔法の如き離れ業を行いたるは、当時種族融合の途上にありしマルコシアスの部分的融合体及び科学省長官ストラス、銀河系外周星域長官ベール達なりき」
「マルコシアスは旧帝国系種族による復旧事業への技術的視察、ストラスは同じく助言のために、分離体・分離個体が両銀河の対象宙域を訪問中なりき。また、ベール及び彼女と姉妹・友好関係にある外周星域・外縁領域種族は、荒廃宙域再生のために超新星爆発からの回収物質を貯蔵・供給する中継施設を提供すべく、領内の可動巨大惑星と共に分離体を派遣中なりき。ストラス及びベール達の分離体は蜂起発生時、脱出に伴う危険及び状況偵察の必要から、惑星と共に現地残留を希望せり。マルコシアスの分離体もまた、旧帝国系種族の偏見と敵意から危害を被る恐れのある彼女達を守るべく、彼女達と共に惑星内部に退避したる後、自らの分離個体群を、施設を管理する新興種族に偽装せしめたり」
「マルコシアスは元来、様々な環境に適応し得る形態変化能力の高き種族なりしが、かかる素質は種族融合後に必要となる、各種の分離個体の形成能力にも見事に反映せられたり。彼女は当初、不本意ながらも、正体を知られることなく略奪物資の搬出に協力せり。然し賢明なる彼女は、不正演算指示が惑星修復用の機材を通じて送り込まれしものと推測し、この機会を反撃のために活用すべく、ストラスと協議せり。その結果、暗号通信によりて連絡を保ちたるストラスの本体が治療用演算指示を作成し、これをマルコシアスが略奪機材に秘めて送り込む作戦が実施せられたり」
「この作戦は両銀河において見事なる成功を収め、精神の乗取を脱して命拾いをせる融合体群は、彼女達に大いなる感謝を表明せり。かつては銀河系の酸素・炭素系上級種族が独占し、軍事抗争の末に荒廃せしめたる二大銀河の重要領域において、非酸素・炭素系種族とアンドロメダ銀河先住種族が互いに協力し、被害を最小限度に止めつつ平和を回復したることは、まさしく星間文明の発展と調和を示す快挙というべきならん」
「なお、歴史的知識を得る機会に恵まれざりし一部の旧帝国系融合体は、マルコシアスに救われつつも、恐らくは幾分かの畏怖と羨望を込めて、次の如き疑問を発したり。即ち、『マルコシアスの活躍は情報・軍事種族として生まれし歴史によるものであり、その理事種族への加入は新帝国にとりても脅威ならんや?』と」
「言うまでもなく、彼女にその役割を負わせし者は彼女自身に非ずして、〝中核領域〟の制覇を求めたる偽りの〝英雄〟種族なり。また彼女自身は同種族の滅亡後、永年に渡りその能力を自らの覇権に非ずして、有力種族の均衡による平和維持のために活用し、今回もまた甚大なる被害を生じ得べき蜂起事件によく対処して、見事なる平和的解決をもたらしたり。故に、この批判は寧ろ、新帝国設立以前には自らも侵略者たる旧帝国に属せし我等自身に、新時代の星間文明種族が備えるべき資質、特に指導的種族に求められる資質につきて自問することを余儀なくせしめたり」
「然し事件後マルコシアスは、新帝国の全種族が自らの如き苦難を経ずとも発展し得るべく、有益なる遺伝形質とその共有技術を共同にて研究・開発し、各種族の必要性や発展段階に応じて公平に提供する組織の設立を提案し、サタンに裁可せられたり。我等の問いは彼女の英断によりて、一つの明白なる解答を得たるが如し」
(4)系列種族への配慮
「鮮やかに解決されし融合体の蜂起に対し、意外にも複雑かつ繊細なる配慮を要せし問題は、蜂起への参加命令を受信せる、星域外の下級系列種族への対処なりき」
「残念ながらゴモリーの流出映像は、彼女を知る種族達からの反証によりて忽ち効果を失いたり。他方で中枢種族は、かつて傘下の弱小種族に対し、生存の容認と引き換えに敵対種族への危険なる攻撃を強要し、有力なる者達に対しても、友好種族への背信や犯罪行為への加担を誘導したる後に脅迫材料とする等、恐怖政治や分断工作によりて恐るべき動員力を行使せり。マルコシアスは過去の類似事例から、例え蜂起が失敗せるとも後々の情報拡散に伴いて、今回の参加命令への対応の相違が系列種族内の混乱と対立を招来し、以後の統治に支障を来たすことを案じたり。彼女はこれを現皇帝サタンに報告し、サタンは直ちに緊急理事会を招集せり」
「マルコシアスはこの席上においても危機を好機に転ずる作戦を発案し、他の理事種族の賛同を得たり。その内容とは旧帝国の暗号通信を逆用し、かつての下級系列種族から融合体に対して、蜂起中止の共同要請を行わしめるというものなり。この作戦には、蜂起の拡大防止のみならず、旧帝国系種族を過去の呪縛から解き放ち、新国家への理解と支持を増進する効果も期待せられたり」
「我等はまた、この要請を募る映像通信において、出演種族への報復の危険を避けるべく、我等自身の分離個体に偽りの発起人種族代表団を演ぜしめたり。彼女達は蜂起への参加要求を受けたる下級種族という設定にて、蜂起種族にも政府当局にも非ざる立場から、平和を願う系列種族自身の意見を形成・集約することが期待せられたり」
「この代表団は各三名ずつ、二組が編成せられたり。一方は〝炎の王〟滅亡の際、奇跡的に脱出せる有力下級種族の生存者を装い、主として報酬を以て蜂起への参加を求められし覇気ある種族を、呼び掛けの対象とせり。他方は従前の指導種族を滅ぼされし後に、系列種族の末席に加えられたる無名の下級種族に扮し、脅迫によりて協力を迫られし温順なる種族の参加を募りたり」
「要請文は各種族の事情に応じて微修正も認められしが、以下の雛形が使用せられたり。まず、覇気ある種族向けのものは以下の如し」
「即ち、『栄光ある我等が上級種族よ、汝等が再び新帝国への反撃を試みたるは驚くべき勇断なれど、その成功や我等への恩恵は、残念ながら見込みなきものと考えざるを得ず。何故ならば第一に、我等は汝等より蜂起映像と参加命令を受信せるも、未だ艦隊の脱出を確認し得ず、以後の通信も受領し得ざりき。新帝国の探査・通信技術は極めて高度なるが故に、既に汝等の活動・伝達内容は彼女達の知るところとなり、恐らくは強力なる反撃と妨害を受けて苦戦したらん。また、新帝国軍が優秀なる航宙技術を以て二大銀河と周辺領域を掌握せる現況下においては、例え汝等が血路を開き得るとも捲土重来は期し難く、ましてや我等下級種族の追従、及び脱落時の捜索・救難等は到底望み得ざらん。旧帝国において、かかる言辞は敗北主義の証左として処刑の理由となりしが故に、我等の内にはこれを恐れる種族も存すれど、我等は新帝国において、偽りなき建言こそが真の忠誠なることを学びたり』」
「『第二に、新帝国は旧帝国上級種族のゴモリーを理事種族に登用し、故郷を失いし下級種族にも小銀河群の共同開発を承認せる等、外周・先住種族ばかりか仇敵なりし我等をも信頼して、公平なる待遇を提供せり。我等は自らの未来のため、また他の同胞種族の信用を維持するため、そして何より、かつては旧帝国にも存したる道義の名においても、彼女達を裏切ることを得ず』」
「『第三に、旧帝国時代末期、我等は反乱防止のために、上級種族の逐次的命令なくしては満足なる作戦行動を為し得ざるよう、汝等自身によりて操り人形の如く組織せられたり。また汝等が我等の一部に命じたる単独破壊工作もまた、かつて我等を恐れさせ、〝剣の王〟と共に滅びたる粛清部隊の如き種族のみがよく為し得るものにして、現在の我等が試みるとも単なる自殺行為に終わらん。故に、誠に遺憾ながら我等は汝等の命令に従うことを得ず、然しまた、今なお我等が有する指導種族への敬愛を以て、新帝国とその統治下における平和と繁栄への復帰を上申するものなり』と」
「この架空集団の個体群にはマルコシアスに加え、アドラメレクとバールゼブルが扮装せり。マルコシアスの〝変身〟能力はここでも遺憾なく発揮され、宇宙船内の重力制御環境用の翼を有する、天使の如く美しく威厳ある有力下級種族の姿を再現せり。また周知の如く、アドラメレクはゴモリーに理事種族の資質を認め、バールゼブルは小銀河群の共同開発を求めたる当の種族なり。これらの隠れたる事実もまた、あるいは彼女達の演技に幾許かの説得力を加えたらん」
「他方、温順なる種族向けのものは次の如くなり。即ち、『偉大なる我等が上級種族よ、我等はかつて汝等の統治下にありしが、軍事的には劣弱にして無名の種族なりき。然し、誠に遺憾ながら、我等は同様の地位にある他の同胞種族と共に、此度の命令には従い得ざる旨を表明せざるを得ず。その第一の理由とは、戦力の欠如なり。我等は旧帝国においては、弱小種族として〝淘汰〟の対象とされ、今回と同様に懲罰の威嚇を以て戦時の〝消耗品〟とされし下級種族のひとつなり。然しまた、新帝国の平和政策のもとで不得手なる職能より免れ、星間社会への貢献を果たして評価を獲得し得る、産業・技術あるいは行政種族に転身しつつある種族のひとつなり。故に現在の我等にとりて、かかる命令の実行役は全く不適任なるものと言わざるを得ず』」
「『第二の理由は、情報の不足なり。旧帝国は当初〝銀河系全種族の共栄〟という理想を掲げたるも、後には軍事種族の野放図なる膨張から自滅を招来せり。これに対して新帝国は〝全種族のための文明発展〟という理念のもとに、合理的なる文明発展政策を実施して経済・社会を再建し、我等旧帝国系の下級種族に対しても戦前以上の繁栄をもたらしつつあり。然るに汝等は、今回の蜂起に際してそれに優る何等の大義名分も示し得ず、ただ買収や脅迫、詐術を以て我等の動員を図れり。今後我等は汝等に対し、傘下種族の判断及び心情も尊重することによる、正当性の証を希望するものなり』」
「『第三の理由は、情愛の不在なり。かつてアドラメレクは、ベール等の銀河系外周種族を救うべく、自ら危険を冒して中枢種族ガルガリエルへの攻撃作戦を実施せり。ゴモリーもまた先住種族マルコシアスを見捨てることなく、劣勢下においても共に抵抗運動を継続せり。ベールとマルコシアスはこれらに応え、従前以上に親密なる彼女達の友好種族となりたり。然し汝等旧帝国の最上級種族は、悲しむべくは彼女達ばかりか自系列の個体群種族とさえ、遂にかかる関係を育むことを得ざりき。そして今また生じつつある両陣営の衝突は、我等のみならず旧帝国系種族全体に、必ずや多大なる被害をもたらすこととならん』」
「『以上の理由から、我等は英邁なる汝等に対し、ここに誠に僭越ながら、新帝国への投降を請願するものなり。また、かかる我等の切なる願いが寛大にも容れられし場合は、以後の裁判において、我等の新たな情愛の基礎たり得べき、下級種族の意見に対する配慮の事実を証言することを誓わん』と」
「この架空集団の三個体は、白き毛皮に覆われし愛らしき小動物の如き形態であり、要請文の内容とも相俟ちて、視聴種族の同情と共感の念を誘いたり」
「然し彼女達のうち二名は、サタンの宇宙進出以前の冬季形態とマルコシアスの寒冷地適応形態の姿を合成し、両種族が一名ずつ俳優を提供して演じたるものなり。この配役には、対象種族が融合体から命令を受け、あるいはそれに従わざりし事実が判明したる場合、彼女達を現皇帝及びアンドロメダ銀河最有力種族の同盟者と為すことによりて、権威主義的な他の同胞種族による非難から保護する効果が期待せられたり。彼女達は映像内においてその正体を明かさざるも、軍事種族の融合体を頂点に戴く旧帝国の位階序列からみれば、確かに下級の種族なることは嘘偽りのなき事実なり(笑)」
「残る一名の出演俳優は、通信及び暗号技術面において作戦に貢献せるヴォラクが派遣せしものなり。彼女は両名とは対照的に、終始堂々たる態度で快活なる表情を示したるが故に、生真面目なアスタロトは真相の発覚を案じたるも、その不安は杞憂に終われり。この特徴は自然なる個体差を演出し、過剰な悲壮感を抑制することによりて、映像の真実味を一段と増進せり。また、彼女の円らに輝く瞳は変身個体にも引き継がれ、その愛らしさは他の二名と比べても全く遜色なきが故に、我は我が双子姉妹の名演技にも是非、好意的評価を求めたきところなり(笑)」
(5)解決
「対象種族の殆どはこれらの呼び掛けに賛同し、蜂起中止の共同要請に参加せり。またその要請は、融合体治療作戦の開始時に合わせて送信せられたり。故に作戦成功の後、常態に復したる〝心ひとつなるもの〟達は彼女達に対し、命令の送信は〝事故〟によるものと説明し、要請の受諾と進言への感謝を返信せり」
「然し我等は作戦終了直後に、その真相を彼女達が自ら知る前に、守秘を要請しつつ個別に通知し、虚偽映像につきて謝罪と協力への感謝を伝達せり。何となれば、国家の安全上緊急の必要性を伴う、反乱阻止のためといえども、偽りを以て多数の種族を動員することは、民主主義上極めて危険な手段にして、危機終息後にはその悪用・誤用の有無を検証し、事後なりとても関係種族の許諾を得ることが政府の責務なるが故なり。また今回は、真実を直ちに告知せるとも作戦目的を損なうことなく、加えて要請の根拠たる事実には偽りのなきことを説明する必要もありしが故なり」
「幸いにもアンドロメダ銀河においては、かつての遺留兵器回収作戦と同様に、今回の作戦につきても、大多数の種族から積極的なる支持・賛同を獲得せり。また我等はこの作戦に関し、帝国議会においても正式報告を行い、承認の議決を得たり。然し我等は批判的意見につきても真摯に対応し、今後の施策の改善に反映せしむべく努力を継続する所存なり」
「アンドロメダ銀河における共同要請への参加種族に対し、謝罪と感謝を伝えし者は、言うまでもなくアンドロメダ銀河臨時政府の軍事部門副長官、〝正義公〟アスタロトなりき。彼女は何等の演技も要することなく、自由と公正を愛する性格のままに、善き指導者の手本を示したり。彼女は、旧帝国において上級種族の抗争の具とされ続けたる傘下種族の労苦を慰め、彼女達が初めて重要なる政治的意見を表明し得たることを祝福すると共に、以後はより高度な文明に相応しき発展支援が提供される旨を通知せり」
「然しまた彼女は、〝御人好し公〟には非ず。中枢種族の策謀による悲劇を数多く経験せる彼女は、かかる犯罪を再び許すことなきよう、旧帝国系種族内にゴモリー、先住種族内にマルコシアスが有する情報網の助けを得て、蜂起に積極的協力を図りたる少数の種族を摘発し、行政処分及び刑事訴追を実施せり」
「然しながら彼女は同時に、知的活動に伴う責任の軽重が、認識・決定・行動から結果に至るまでの全過程における、多種多様な要素の〝相乗積〟によりて決定さるべきことを正しく認識せり。故に彼女は、対象種族に自主的・社会的判断の経験が乏しく、被害も局限されし今回の事件においては、蜂起の発生を許したるアンドロメダ銀河の治安責任者、即ち彼女自身の過失をも勘案したる上で、処分または起訴を行いたり」
「これによりて対象種族は重罰を免れ、罰金・没収等の経済的制裁及び保護観察処分のみが科されたり。アスタロトはまた彼女達に対し、自由には公正を損なわざるべき義務が伴う旨を説諭し、新国家においては社会的利益と調和し、さらにはそれを増進する合法的手段によりて私的利益を追求し得るが如き、資質の向上が求められる旨を教示せり。彼女はまた、かかる向上を実現すべく、臨時政府による旧帝国系種族への教育事業の実施を提案し、長官アスモデウスもまたこれを承認せり」
「この教育事業に協力せし者達は、ストラス・ベール及びゴモリーなりき。かつてストラスはその技術、ベールはその資源、ゴモリーはその武力を、その意に反して中枢種族に利用せられたり。然しまた彼女達は、自らの努力及びサタン・アドラメレク・マルコシアス等、友好種族との協力によりてかかる状況からの脱出に成功し、現在は新帝国の理事種族として活躍せり。故に彼女達は、帝国の軍事的拡大や上級種族の繁栄に寄与し得れば、如何なる不正や蛮行も免罪するが如き専制支配体制からの、〝乳離れ〟の促進に最も相応しき種族なりき」
「蜂起事件への参加・協力者で処分の軽減を希望する者は、ストラス達の指導のもとで、教育課程を受講せり。彼女達の多くは小規模の分離体や分離・自然個体として仮想現実内に投入され、〝大戦〟における被害者の労苦や、その後の再建と発展の喜びを追体験せり。仮想現実の内容は二重処罰や洗脳行為とならぬよう苦痛が緩和され、事実と証明し得る、厳選された感覚記録のみが提供せられたり」
「ストラス達は、処分対象以外の旧帝国系種族とも戦時記録の分析や戦災地の視察等を共同で行い、交流を深めたり。特にゴモリーは、アンドロメダ銀河における旧帝国系種族の代表として、戦後賠償や先住種族との友好的共存、新帝国型の文明支援方針につきても、後進の種族への指導を実施せり。彼女はまた旧帝国系種族と、かつて彼女達が不当に遇したる非酸素・炭素系種族との対等なる友好関係の構築に努力し、旧帝国系の独自技術と、ストラスの先進技術や外周星域・外縁領域の資源の取引を仲介せり。ストラス・ベールの分離体もまた、事件後は治安が劇的に改善せる〝中核領域〟を頻繁に訪問し、旧帝国系種族と個体規模における経済・文化交流を展開せり」
「他方において、これら旧帝国系種族への支援と均衡を保つべく、サタン及びアスモデウスは先住種族のマルコシアスに対し、既に実施中のストラス及びベールによる技術支援・文化交流に加え、行政・産業面における本格的支援を開始せり。かくして〝中枢種族残党による内乱未遂事件〟の陰で生じたる重大危機は解決し、両銀河内における各種族の友好及び協力はさらに進展せり」




