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第七章 アミー 1(1)~(2)

(旧皇帝領副長官による公表)


〝救国伯〟アミーは、〝大戦〟後の二大事件に関する情報公開の直後、その概要を説明せり。彼女は日頃より、自らの分離個体が双子姉妹ヴォラクのものと混同されがちなことにつき不満を抱きたるが、今回は持前もちまえ稚気ちきを発揮して、冒頭からその対策を講じたるが如し。



1 内乱未遂事件



(1) 融合体の蜂起


「〝大戦〟終結後における〝中枢種族残党による内乱未遂事件〟及び〝先帝種族分離体の保護事件〟に関する機密情報の公開に伴い、我、旧皇帝領の技術部門副長官アミーは、新帝国の理事種族を代表して、各種報道媒体を通じ、ここにその概要を公表するものなり……おっと(誤ってヴォラクを示す目印を使用せることに、ただ今気づきたるかの如く驚き、髪飾りの位置を左から右に付け替える)……アミーなり〔背後にて、他の理事種族達のものとおぼしき笑い声〕」


「両事件の経過に関しては従来、国家安全保障及び政治・社会的影響への配慮から非公開の部分が存在し、かねてより星間社会ではこれにつき、様々なる推論あるいは憶測がされしところなり。然しこのたび、帝国周辺における軍事的脅威の著しき低減が確認され、また現在進展しつつある民主化のさらなる促進のためにも、公益上の重要事実は可及的速やかに公開し、星間文明の発展に寄与せしむべしとの配慮から、機密指定の解除が決定せられたり。なお、この配信版は、各種の言語表現・伝達内容につき、太陽系第三惑星〝地球〟の人類向けに配慮がなされしものなり」


「〝内乱未遂事件〟に関しては従来、以下の如き公式説明がされ来たれり。即ち、〝大戦〟において敗れたる旧帝国中枢種族の残党が、かつて支配せるアンドロメダ銀河先住種族のうち、ごく一部の好戦主義者達を扇動し、内乱を生ぜしめんとはかりたるも、その他の旧帝国系及び先住の種族を含む多数の種族の協力によりて、未然に摘発されしものとの説明なり」


「然しこの時実際には、新帝国は二大銀河の双方において深刻なる脅威に直面せり。即ち、〝大戦〟終結後に拘束されて行政処分を受け、あるいは軍事裁判を待ちつつ戦災復旧事業に従事せる、旧中枢種族を中心とする上級種族の融合体もまた、一斉に蜂起を開始したるなり」


「新帝国の精密攻撃技術、及び政治交渉と人道的配慮を重視せる作戦によりて、彼女達の多くは損害少なくして終戦を迎えたるが故に、残存兵器は膨大な量にのぼれり。各種族は武装解除後も自己防衛に必要なる最小限度の軍備保有を認められ、また少数の責任ある地位の種族には、しばらくの間新帝国の非常事態に備える予備戦力として、解体予定兵器の一時保管が委託せられたり」


「然し、これらの兵器は性能面において新帝国のものに及ばず、分散されて即時の一体的運用も困難なりしが故に、軍事的脅威とは看做みなされざりき。また指揮系統上も、四大中枢種族のうち親衛軍総司令官〝剣の王〟及び軍需省長官〝炎の王〟は滅亡し、情報省長官〝啓示の王〟及び民需省長官〝慈愛の王〟は降伏後に新帝国への帰順を誓約して、傘下の行政機構も解体せられたり。故に〝事件〟の発生に至るまで、旧帝国残党からの攻撃は、主として二大銀河外の如く文明密度の希薄な宙域に逃亡せる、分離体あるいは分離個体群による破壊工作等、非正規戦的形態のものが想定せられたり」


「〝内乱未遂事件〟の黒幕は、〝大戦〟において滅びたる〝剣の王〟の種族系列に属する、親衛軍提督ザドキエルの分離体及び分離個体群なりき。彼女達は潜伏先のアンドロメダ銀河〝中間領域〟において拘束せられたり。周知の如く、かつて同地には旧帝国逃亡政権に対し抗戦を継続せる、抵抗運動や新帝国遠征艦隊の拠点群が存在せり。現在は軍事施設が撤去され、各種族による共同開発が成果を挙げつつあるも、当時においては遺棄設備等も残存せる、未開発領域なりき。故に、かかる摘発劇が行われるとも驚く者は少なかりき」


「然しながら当時、彼女達の逮捕と時を同じくして、同銀河の中央部を占める〝中核領域〟の旧帝国系種族居住域、さらには銀河系中央部の〝旧皇帝領〟といった警戒度の高き宙域においても、蜂起が発生せり。即ち、かつての中枢種族及びその系列下の種族融合体が突如として警備部隊に奇襲攻撃を行い、脱走を図りたるなり。この報に接したる我等新帝国理事種族は、直ちに最高度の防衛態勢に移行せり」



(2)恐るべき事実


「彼女達の軍事行動は、三つの憂慮すべき特徴を備えたり。第一の特徴は、対象宙域の広範性なり。旧帝国系の種族融合体はそのほとんどが治安上の危険を避けるべく、当時なお二つの宇宙領域において広大な範囲を占める荒廃宙域に分散配置せられたり。彼女達は新帝国との講和条約により、自らが使用せし大量破壊兵器によりて滅びたる惑星の再生事業に従事せり。新帝国政府及びアンドロメダ銀河臨時政府・旧皇帝領政府はいずれも、この処置によりて安全性への配慮は十分と判断し、両宙域においても分離体・分離個体による個別的騒乱への対処のみを想定せり」


「然し、彼女達が各所において一斉に蜂起を実行したる際、各星系の警備部隊は満足なる相互協力を為し得ず、時には他所から来襲せる部隊との共同攻撃を受けて混乱状態に陥り、その多くは防衛態勢の立て直しのため、一時撤退を余儀なくせられたり」


「第二の特徴は、使用戦術の高度性なり。彼女達は講和条約が定める武装解除及び分散処置によりて、〝大戦〟時の如き組織的軍事行動は不可能と思われたり。然し、彼女達は予め連絡を取り合いて周到に準備を重ねたるが如く、警備用の簡易型自動機械(アバドン)等の安全措置を無力化し、保管されし艦艇群を迅速に搬出・活性化して、連携を保ちつつ複数の方面に侵攻せり。彼女達の分離体及び分離個体が搭乗せる艦隊は、巧妙なる戦術を駆使して補給施設や輸送船団を襲撃し、物資を略奪して融合体本体の星域脱出を支援せり」


「さらに、各融合体は旧帝国時代の受信種族別暗号通信を使用して、星域外の下級系列種族にも蜂起への参加あるいは協力を要求せり。彼女達は拒絶時の報復攻撃や過去の戦争犯罪を材料とせる脅迫、成功報酬を提示しての買収・詐術等、相手方の弱点につけ入る手段を多用せるが故に、対象となりし諸種族の著しき動揺が予想せられたり。かかる戦術は自軍の集中による防御及び新帝国軍への直接的打撃よりも、むしろ新帝国の社会的混乱や広域防衛体制の攪乱かくらんを目的とせるが如し。故に、若し他の星域にまで蜂起の影響が及べば、最悪の場合には新帝国の統合と諸種族の安全を損ない、また重要戦犯種族の逃亡を許す結果ともなり得べきことが懸念せられたり」


「第三の特徴は、行動形態の異常性なり。銀河系〝旧皇帝領〟での蜂起における最高位の中枢種族は、〝剣の王〟系列の次席種族にして、軍事省長官を務めし旧中枢種族セラフィエルなり。アンドロメダ銀河〝中核領域〟におけるそれは、〝啓示の王〟系列の次席種族にして、旧帝国では内務省長官の職にありし旧中枢種族ケルビエルなり。先述の如く〝剣の王〟は滅亡し、〝啓示の王〟は〝慈愛の王〟と共に最高位の生存戦犯として、〝帝国本土〟において各々が単独で拘禁せられたり。セラフィエル及びケルビエルもまた、本来ならば隔離拘禁を免れ得ざる地位なりき。然し、彼女達は戦後処理には協力的であり、他の戦犯種族の監督につきて引き続き責任を負うべき者を定める必要からも、回収兵器の管理を含む特別処遇が認められしものなり」


「奇妙なることに、両者は同兵器を他の融合体に分配したる後、何らの指揮・命令らしき通信も行わず、各融合体は相互の交信によりて戦況の認識のみを共有せるが如し。また彼女達は、装備の制約に比して強大なる戦闘能力を発揮しつつ、さながらバールゼブルの自動機械アバドン群が予め設定されし作戦を実施せるかの如く、不気味なまでに徹底的なる全体最適に向けて行動せり。かつて旧帝国の上級種族は、自らの利益のために手段を選ばぬ権力闘争を展開せし者達にして、かかる実態の故にこそ、仮借かしゃくなき専制統治によらざれば統率し得ざりき。然しこの時、彼女達は戦況に関する情報のみを交換しつつ、ある者は自らおとりとなり、またある者は危険なる突進を敢行かんこうするなど、より全体として多数の種族の脱出を可能とする方面へと進攻せり」


「我及び我が双子姉妹、即ちアンドロメダ銀河臨時政府において同じく情報部門副長官を務めるヴォラクは、以上の三点につきて不審を抱き、彼女達の作戦行動及び通信内容を共同にて詳細に分析せり。その結果、彼女達全員の戦闘・言語様式が、かつて〝アンドロメダ遠征〟の直前に出現せる〝先帝〟分離体の如く、〝剣の王〟のものと極めて酷似することが判明せり。其はあたかも、〝中核領域の戦い〟において我等が艦隊に滅ぼされし〝剣の王〟が〝蘇りし屍(ゾンビー)〟となりて再生し、融合体の違法複製を繰り返したる末に、大挙して再び襲い来たるが如し」


「我等はさらに、旧帝国の技術水準及び蜂起部隊の兵力規模を考慮し、三人目の姉妹たる科学省長官ストラスも加えて解析を行いたる結果、次の如く恐るべき結論に到達せり。即ち、『彼女達はその量子頭脳に対し不正演算指示コンピュータウイルスによる乗取ハッキングを被りて、予め蜂起命令が刷り込まれし〝剣の王〟の人格の一部、即ち生存の意思なき戦意と戦術のみを上書きされ、いわばその傀儡かいらいと化して軍事活動を展開しつつあるものなり』と」


「然し、他方では幸運にも、我等にはこれに対処し得る時間的な余裕が存せり。即ち、旧帝国の技術的制約から、彼女達の艦艇は銀河内においては超空間跳躍の精度を欠き、その脱出には日時を要せり。また、新帝国の武器回収作戦により、蜂起への参加・協力を求められし下級種族のうち、突然の要求に応じて直ちに行動を為し得る種族はわずかなりき。我等理事種族は直ちに状況を分析し、対策を検討せり。然しながら初期対応においては、いささかの混乱が生じたることを認めざるを得ず」


「〝大戦〟後、我等新帝国の理事種族は銀河系に加えてアンドロメダ銀河等の統治権をも獲得し、大多数の種族からは、〝サタンの平和(パックス・サターナ)〟のもとで我が世の春を謳歌おうかしつつあると思われたるが如し。然し、我等は中枢種族の如き専制統治を排し、彼女達の如き強権的な政治手法を採用し得ざるが故に、彼女達及びその軍事的支配の後遺症をこうむりたる種族への処遇に関しては、報道・研究機関等の関係者の想像以上に苦慮したる部分が存在せり」


「我等は騒乱の拡大や恐慌パニック状態の発生を案じ、蜂起が発生せる事実の公表を差し止めたり。然し、両星域周辺において理事種族のただならぬ動員を偶然に目撃せる種族の中には、新帝国内の覇権を巡りて愈々《いよいよ》、理事種族間の抗争が開始されしものと誤解し、不安を抱く者達が少なからず出現せり。〝大戦〟の記憶もいまだ生々しき当時とはいえ、理事種族間の友好関係につきて完全なる信頼を得ることかなわざりしことは、我もまた遺憾とするところなり。然し、この点に関しては後刻、改めて説明を行わん」

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