死体錬金術
城に帰った弁慶達は、功労賞の発表というイベントに参加していた。
これは要するにボスを倒したときの貢献度ごとに褒美を与えるイベントだなと彼らは判断したが概ねその理解であっていた。
しかし、ここで問題が起きる。なんと、弁慶達はいつの間にか木下藤吉朗秀吉の部下になっており、その功績を秀吉の物にされていたのだ。
この事については、南蛮の人間や女であることが原因であったが当の本人達は気付いていなかった。
「勲功第三!足軽大将、木下藤吉郎秀吉!加増千貫文!」
「ははぁ、ありがたき幸せ!」
おぉ、というざわめきと共に何やら袋のような物を秀吉が渡されていた。
そんな様子を見て、不思議そうに弁慶達は小声で会話する。
「なんで私らの手柄が奪われてんだい」
「まぁ、仕方なかろう」
「おう、じゃあなんで大将首を取ったのに上から三番目なんだ?あと、文ってどのくらいだ?」
「元は今川の家臣だったとか、大人の事情だな。我輩も知らんが、いろいろあるのだろう」
「取り合えず、アイツはいつか殺す」
「バレないようにな」
目出度い場所で、まさかこのような殺伐とした会話が繰り広げられていようとは当の秀吉本人は知らなかっただろう。
なお、後に一悶着あって火縄銃と幾許かの金で慈円と秀吉は和解したのだった。
一方、その頃。
亜利栖達は戦が終わった事に気付き、外に出ていた。
というのも、村人達の何名かが逃げ帰ってきていたり寺の方から戦が終わったから支度をせいと召集があったからだ。
「どういうことなのでしょう?」
「なんか後悔してる」
「多分、勝ったんだよ!」
「和尚来てたから、埋葬する」
話がこんがらがりそうな感じではあったが、話を纏めるとだ。
逃げ帰って来た者達は村八分というハブられるリスクを背負って戦場から帰ってきた。
そんな彼らは勝ち戦だったことに後悔している。これは褒美とか今後の進退に関わるからだそうだ。
でもって和尚さんが来たのは、寺の方で戦場の死体を埋葬する人手を集めるためなんだとか。
「そうですか、勝ったのですね」
僕は納得してうんうん、と頷く。
とはいえ、和尚の手伝いと言うのは大事らしい。
何故かというと、死体から物を奪ってもいいからだとか。
死んだ人の物すらリサイクル、すごい時代である。
あぁ、でも僕の力を使えば新品になるのか。
そう思ったら、悪くないのかなと思った。
しばらくすると、弁慶達が帰ってきた。
二人がいない間は心細く、何日ぐらい経過したか曖昧だった。
いつ死の危険があるか、夜も眠れない日々である。
それが、ようやく終わる。
「お帰りなさい」
「おぉ、亜利栖見ろよ!銃だ、あと馬拾った!」
「えっ、勝手に持ってきていいんですか?」
「バレなきゃいいだろ、それよりお前の力で改造してくれよ。私はAKみたいなクラシックなのがいいな」
そう言って、慈円は私と出会うや否や火縄銃を渡してきた。
AKってなんでしょう、銃なんだと思うんだけど分からない。
弁慶の方を見れば、怪我はあれど元気そうにしていた。
一応、鑑定してみれば破傷風という状態だと気付く。
思わず私は悲鳴を上げて、弁慶の傷口をどうにかしなくてはと騒ぎ立てた。
「なぁ、破傷風ってヤバイのか?」
「うむ、なんか死ぬ奴だと聞いたことがある。なるほど、毒か」
「わぁぁぁぁ!なんで二人とも冷静なんですか、消毒しましょう!酒、酒はどこですか!」
私の声を聞いて、村人達が困った顔をしながら酒を持ってきてくれる。
それを使って私はアルコールを生産することにした。
これさえあれば消毒できる、そう思ったのだ。
村人達がすごく悲しそうな顔をしていたが、良く見れば村人の何人かも破傷風であった。
どういうこと、鑑定がなかったらみんな死んじゃうよ!
子供達に指示を出し、破傷風という状態になっている者達を集めてアルコールで消毒する。
皆、傷を負っていて矢を喰らったらしい。
この時代の矢には毒でも塗ってあるのか、聞けば糞尿を使っているらしい。
衛生状態が一気に悪くなるわけである。
状態として破傷風となっているが、みんな元気そうなので感染した状態と言うことではないだろうか。
「フハハハ、根性で治るだろ」
「治らないですよ!体内にナノマシンを、ナノマシンなんてないですよ!」
「なぁ、亜利栖の力でウイルスをどうにかすればいいんじゃないのか?」
私が振り返って慈円を見ると、慈円はどうだと言わんばかりにドヤ顔していた。
しかし、出来るのだろうか。いや、やらねばならない。
私はすぐに破傷風に感染した者達を使って治療を行なうことにした。
「血液を材料として、細菌を生産?炭素と水素とか有機化合物に変える?」
「そうだ、指を突っ込めばいいだろう」
「傷口小さいんですけど」
しかし、弁慶の案は採用されて刃物でグリグリすることで傷口を広げることが決定した。
村人はすごく嫌がったけど、命には変えられない。
ごめんねと言いながら、彼らの傷口に指を刺して生産を発動する。
結果、以外とすんなりする事が出来た。目には見えないが無事別の物に、仮に言うならば分解が出来たといったところか。
鑑定でも負傷状態なので大丈夫そうである。
「なぁ、亜利栖の能力で傷口塞げないのか?」
「慈円、そんなことが……できちゃった」
「おぉ、凄いな!亜利栖は何でも出来るな!」
慈円と弁慶が大喜びしているが、村人達はキョトンとして凄い顔になって平伏して来た。
そ、そうだよね!普通はこうだよね、おかしいよね!
ありがたやとかやめて、僕は神様じゃないんだよ!
でもやってることはこの時代の神様と一緒、むしろそれ以上かもしれない。
死なれたくないので恐縮しながら治療をするのだった。
そして、一晩が経った。
今日は和尚の呼びかけによってみんなで死体を片付けることになった。
ソレに対して慈円が言った言葉に衝撃が走る。
「なぁ、亜利栖の能力で死体も利用できるんじゃないか」
「僕の汎用性凄いな!いや、本当に!」
何故か村人もやる気に満ちていて、和尚と一悶着あった。
そりゃ、和尚も寺の仕事で死体を埋葬すると思っていたら死体を寄越せと村人に詰め寄られたのだ、ホラーだよ。
しかも、弁慶が破戒僧だからって逆ギレするし、それに対して村人が怒り心頭だし、大丈夫かな?なんかへんな宗教団体としてませんか?僕、公安の方にマークされるのかな?この時代、公安いなかった。
もう勝手にしろと、和尚もキレて死体は融通してもらうことになった。
和尚さんごめんね、苦労を掛けるよ本当にね。
で、死体がみんなに運ばれて山になっていた。
凄く臭いし不衛生、和尚がなんか見に来てたけどこれは恐らく感染症を防ぐ仕事の一環としてちゃんと埋葬するか見に来たんだと思う。
「いいか、私は考えた。コイツらを原子レベルまで分解すれば材料になるってな。だから、まずは肥料と肉と鉄にしよう」
「誰も死体から作った肉なんて食べたくないですよ」
「馬鹿、お前馬がいるだろ!あれに合成してデカくするんだよ!別にアイツは珪素発祥生物じゃないから一緒の成分だろ、いけるいける!」
「恐ろしい、錬金術ですね」
ともあれ、やってしまうのですが現実味がなくなる今日この頃。
死体の山に手を翳すと、光に包まれてポンと一瞬で土と肉塊と鉄のインゴットが表れる。
うわーい、ブヨブヨ。吐きそうになりますよ、えぇ本当にね。
そんな光景を陰ながら見ていた和尚さんが悲鳴を上げてぶっ倒れてしまった。
可愛そうな和尚さん、頑張って生きて。