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VR戦国時代  作者: NHRM
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能力の自覚

弁慶達は二人を除いて不安な気持ちになっていた。

というのも、ゲームとはいえ戦慣れしている二人と違って村人達はそれほど戦闘経験がある訳もなく、織田は仲間に裏切られたり砦を落とされたりと不穏な噂しかないからだ。

戦力差も十倍あり、こちらは二千に大してアチラは二万と勝ち目もない。

これで不安になるなと言うほうが可笑しいのだ。


しかし、そんな彼らに何にも考えていない弁慶は、だったら一人十人殺せばいいだろうと論破。

慈円に至ってはやる前から気持ちが負けてる、使わないなら火縄銃を寄越せなどという始末だ。

秀吉によってなんとか三丁ほど手に入った火縄銃ではあるが、この時代とても高価な物で元々精度も悪く使える物ではなかった。

にもかかわらず、村人を含めた百余りに三丁も融通して貰ったのをチャンスと、使えない奴より使える奴がという理論で慈円は持っている奴から片っ端から奪った。

結果、背中に三丁も持った変な女がいた。


「よしいいか、とにかく突っ込む。でもってキラキラした奴を殺す、首なんかほっとけ。狙うは大将首だけだ」

「でも慈円さん、そこらの足軽大将でも金になりますぜ」

「テメェら、金の為に戦争するのか?違うだろ、土地を守るんだろ?欲なんか出してみろ、死ぬぜ」

「フハハハハ、勇ましい事この上ない。しかし、命は大事にするものよ。死なない自信がある者だけ来るが良い」


今か今かと待ち構える二人に、村人達も鼓舞されてか顔つきが変わる。

そんな中、争う者達の声が聞こえた。


「出陣じゃ、出陣である!」

「殿、お待ちくだされ!軍儀はまだ、終わっておりませんぞ!」

「よいか、奴らは戦勝を重ねて、我らは劣勢じゃ」

「ならば、なぜ出陣なさる!ここは篭城する方が」

「黙れ!そんなこと、奴も分かっておる!故に、奇襲じゃ!奴等のことだ、今頃戦勝気分で明日の篭城戦に備えるだけ備えて、気も緩んでいるだろう。選べ、黙って死ぬか!討って出るか!」


争っていた人物は織田信長であった。

信長と争っていた人物は承知したという言葉を残して、出陣の号令を掛ける。

敵は桶狭間、休憩地点となっていた砦のすぐそばであった。


「チッ、雨だ」

「うむ、火縄は使えんなぁ……だが、水をすって丸太が一段と重くなる、フンッ!」

「ざけんじゃねぇよ脳筋が、銃はやめだ。テメェら、持ってな」


戦術的に不要となった武器は他の物に回し、ナイフを片手に慈円が不貞腐れていた。

しかし、決戦は大雨の中決行されようとしていたのであった。


「突撃ぃー!」


号令と共に、皆が雄たけびを上げながら走り出す。

奇襲ならば声を出さなければいいものだが、なんと敵は酒を飲み装備を外し、撤退の準備のようなことまでしていたのだ。

これはチャンスだと村人達にだって分かった。

そこで、馬に乗った武者達が掛けだし、それを追うように歩兵が走っていくのだ。


「動け、動けノロマ!あぁ、もう先に行く!」

「馬より速く走れんわ、フハハハ!」


そう弁慶は言ったが、この時代の馬は慈円達の時代のように遺伝子改良型ゲノムメタル仕様ではなく天然物であった。

細胞を生体金属に変えている状態ならまだしも、この時代の馬は太っていて短速、重い鎧を身に纏った武者を乗せると平民の足が速い奴と同じ程度の速度であった。

つまり、頑張れば抜かせる速度だ。百メートル三十秒だと考えれば分かるだろうか。

故に、装備も殆どない軽装の慈円は速かった。

敵と戦い、速度が落ちている騎馬隊を抜け、敵の真っ只中へと踊り出た。


「ハッハー!大将首は私のもんだよ!」

「うおぉぉぉ!」

「シッ!」


慈円に近づき、刀を振り下ろそうとした敵がいた。

しかし、彼女は擦れ違うように刀を避けると同時にナイフを目に向かってスライドさせる。

それだけで、敵の両目が抉れて悲鳴が響く。

雑魚に構ってはいられない、と言わんばかりに彼女は駆けた。


「敵だ、殺せ!」

「おう!」

「行くぞぉぉぉ!」


悲鳴は注目を集め、彼女に敵が殺到した。

しかし、速度は段違いであり彼女の獲物は生産で作られたナイフ。

攻撃の速度が違う。

仲間にぶつからない様に距離を取っている敵の間合いを上手く利用して、抱きつくように首筋にナイフを突き立てたり、敵の足を蹴って転倒させたり、果ては近接格闘術で投げ飛ばしたりしていく。

死んだ敵からは刀と脇差を抜き取り、迫ってくる奴らに投擲する。

金を持っているだけあってか、それとも本陣故か装備は充実していて剥ぎ取るものには困らない。


「逃げろ!鬼じゃ!」

「アレは鬼じゃぁぁぁ!」


慈円が十人ほど瞬く間に殺した頃だろうか、全身が血だらけの姿を見て敵の士気が著しく低下した。

雨の中、血に塗れた幽鬼のような女を誰かが見間違えたせいか、瞬く間に鬼だなどという言葉が広がる。

それは好都合と、寧ろ彼女は逃げる奴らを背中から殺していく。

背中や首を刺して死なない人間は少ない、故に一撃で死ぬものや運よく生き残って苦しむものが後を絶たなかった。


「ナイファー、舐めんなぁぁぁ!」

「カハッ!?」

「ヒュッ!?」


背中から攻撃は卑怯か、否、それこそナイファーの力量の見せ所。

いかに後ろを取って急所を攻撃するか、それこそが大事。

その華麗な攻撃で、被害者を続出させ敵本陣を目指す。


「やぁやぁ、我こそは――」

「邪魔だ、どけ!」


前に立ちふさがる奴がいようとナイフを投擲して喉を刺し貫き、倒れたところで素早く回収する。

物量でどうにかしようとしたら、一旦引いて投擲で数を減らす。

それを繰り返せば、怯えて逃げ出す始末。

そして遂には走り去る集団と壁となる集団が見えてきた。


「アレが大将か、邪魔だ退け!」

「なっ、女だと!?」

「なんだとテメェ!」


壁となっている集団の誰かがその言葉を口にした結果、彼女は死体から刀を剥ぎ取りナイフを二本残して後は無くなるまで投擲する。

既に大将首は眼中になく、目の前の男達を殺すことだけに集中していた。


「覚悟しろよ、オラァ!」




一方、慈円が突っ走る間、弁慶は敵向かって丸太を放り投げた後は走った。

丸太など一度使ったら強襲では不要、逃げる相手ならなおさら不要。

その場で戦うならまだしも、追いかける上では邪魔だった。

追撃、常人なら見えない距離から逃げ去る集団を目撃した弁慶の行動は速かった。

武器を捨て、最低限の防具だけで走ったのだ。


「フハハハハ、息が切れぬ!我輩にも能力があったようだ!」


自分の能力がエフェクトだけの見た目重視だと思っていた弁慶、しかしそれだけではなかった。

それは、見た目異常に体力が上がっていたことである。

そう、まるで超人的なゲームのキャラクターのように普通の人間よりも体力がある。

その兆しは前からあった、普通よりも人一倍力持ちだったからだ。

丸太を持てる、それだけで凄いことなのだが本人が気にしていなかっただけである。


見た目だけだが、流線型の光を纏った高速の物体に兵達は慄いた。

それは弁慶なのだが、そんな物に近づこうとする者はおらず、逆に逃げる始末。

そして、そんな弁慶は遂に逃げる集団に追いつく。


「化け物め!」

「その意気やよし!」


弁慶は追撃に気付いた武者の攻撃を紙一重で避ける。

渾身の突きを、腕を回転させることで流し、懐に入った。

そして、掌を相手の顔面へとぶつける。

それはまさに中国拳法であった。


「でやぁぁぁ!」

「奇襲か、フハハハ!」


後ろから迫る敵に対し、弁慶は逆にその腕を取る。

握力で刀を落とさせた後は腰に乗せるように浮かせ、一気に頭から投げ落とした。

首で受身を取る事となったその者は即死する。


「やはり、肉体が最後は主役。武器などいらん!」

「いやぁぁぁぁ!」

「フンッ!」


跳躍、そして敵の頭部を掴み、膝に押し当てる。

骨の折れる音と共にムエタイ技が敵に染みこむ。


「フハハハハ、馴染む!実に、技が馴染むぞ!」

「おのれ!」


ゲームで習得した技が、最高のキレでゲーム以上に炸裂する。

ようやく最後の一人になるまで堪能した彼はその大将首を狙う。


「よもやここまでか」

「ぬっ!?」

「皆の者、御免!」


だが、それは敵の自害によって叶う事はなかった。

今川義元は自らの首に刀を突き立て、自害したのだ。


「何故、戦わぬのだ……」


それは悲しい戦いを終えた男の言葉であった。


「あっ、テメェ!横取りしたのかよ」

「ぬぅ、慈円か」

「クソッタレ、なんだよ!ざけんなコラー!」


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