戦の準備
戦争、この日本ではまだ内乱が続いている。
大名と呼ばれる人達が地方の一部を領地とし、それぞれが政治を行なっている。
一応、朝廷と呼ばれるところから権利を貰っている形は取っているが、どちらかというと関係なく蔑ろにされがちである。
また、そもそもの官位や権利などは金で買っていたり詐称した血筋によって暫定支配していたりと難しいこともあるみたいだ。
偉い人の理屈は分からないけど、村人からの知識だと領地ごとに大名が治めているんだなと考えるらしい。
「いやですね、戦争は」
戦の準備を始める村人を見て、僕は思わず呟く。
この身が非力な女の子でなければ、カッコよく戦ったかもしれないがそうは行かない。
しかし、そんなのお構いなく村人の女性達は人手不足の為に戦に行くらしい。
慈円は大いに賛成していたが、命の危険を心配せずには要られない。
それでも、彼女達は何もせず蹂躙されるかもしれないなら家族の為に戦場に出ると言う。
機械任せの子育ての時代で生まれた僕には分からないが、家族愛のようなものがこの時代にはまだあるようだ。
「亜利栖は俺達が守るよ」
女も男も戦える者は戦う人手不足の戦国時代では残される子供達は協力しなければいけない。
イジメなどが問題になる現代と違い、彼らの結束力は段違いだ。
まぁ、村が違えば意識も変わる可能性はないかもだけど。
ただ、親が敬う相手は自分達も敬うと言う考え方があるのか彼らは僕に友好的だ。
うん、僕かわいいもんね。
大体の理由は生産と鑑定能力が仏パワーにされてるから何だと思う、仏ってどんだけ凄いんだよ。
僕の時代でも超能力は発見されて無いんだけど。
「よし、戦だ戦だ!ブッ殺しまくってやる」
「あの、なんでこんなにナイフを作るんですか」
「いいか、人ってのは斬ると刃物が傷むんだ」
そのためのナイフ、使い捨てに出来るように大量に出そうである。
使われなくなった穴の空いた鍋などを再利用しているが、現代と逆でこの時代は金属が少ない。
というか、みんなリサイクルとかしちゃってるので廃棄品が少ない。
「亜利栖様、石さ集めただよ」
「はーい、ちょっと行きますね」
「おう、速く行ってやれ」
慈円に断りを入れて、僕は村人達の所に掛け足で移動する。
というのも、そこら辺の石を集めてもらったからだ。
実はこの石を使ってみんなの鎧を作ろうと思ったのである。
「う~ん、足りないですね」
「すんません、大きいのは動かせなくて」
まぁ、上手くいかず計画は早速頓挫する。
一人分はなんとか作れたが、重すぎて動けないというのも発生したので結局弁慶が使うことになった。
「足らんなぁ……」
「取り合えず頭と胴体が守れればいいでしょう」
一人分を使ったのに、殆ど急所しか隠しきれてない鎧になってしまったけれど村人からは概ね好評だ。
僕には蛮族にしか見えないんだけど、いや僕だけじゃなくて現代人の感覚は蛮族認定している。
「武器はどうしましょうか、弁慶の鎖で刀を作れますけど」
「一度斬るとダメになるという、うむ」
二人して頭を抱える、こういう時は困った時の慈円先生。
先生、武器はどうしたらいいでしょうか!
「あぁ?武器が無い、あるじゃないか」
「えっ?」
「森にあるだろ、丸太で戦えよ」
えっ、丸太って武器なの?
僕が首を傾げている横で、弁慶がおぉ丸太かと伐採しに行った。
丸太って武器だったのか!知らなかった。
「亜利栖ちゃん、丸太は武器じゃないよ」
「そうだよ、父ちゃん使えないよ」
「弁慶だけだよ、あれ使えるの」
だ、だよね~知ってた。
危うく大人に騙されるところだったよ。
子供達の指摘によって私は正気に戻る。
そんな様子に不満そうだったが異論は認めません。
さて、残された子供達が何をするか。
それは秘密基地の建設である。
敵はならず者の落武者とやら、足軽ってのがクラスチェンジして襲ってくるらしい。
ごっこじゃなくて命懸け、なので真剣に取り組む。
子供の利点を生かして、竈の下に入り口を作る事にした。
狭い入り口の地下施設を建造するのだ。
ここで活躍する生産チート、土を石に作り替えることで強度も大丈夫だ。
掘るのは人力だけどね。
それでもみんなで手分けしてやれば、ちょっとした大きさにはなった。
子供が現代より多かったのと、掘るための道具があったからかも知れない。
出てきた土は、器などに生産して使えるようにした。
あと、酸欠が恐いので抜け道も幾つか作っておく。
でも、子供が入れる程度の入り口で大人じゃ無理だ。
男の子の要望で武器を製作、安心と信頼の歴史ある石器武器である。
原材料は砂利だ。
最後に残っている炭を使ってダイヤモンドを作った。
金目の物があったら、探索とかすぐにやめると思うからね。
そして、弁慶達は旅立った。
弁慶達は、思い思いの装備で熱田神宮という場所に向かった。
適当な慈円の説明により、弁慶はしきりに、おぉテンプルだ!テンプル!と連呼する。
それを何を思ったのか村の皆が一緒にテンプルテンプルと唱える物だから、それは奇妙な集団であった。
そんな集団は、熱田神宮に集まる中でも一際目立った。
武将の一人など、一度は立ち上がり刀を抜いた程である。
皆が警戒する中、最初に声を掛けたのは木下藤吉朗秀吉であった。
「おぉ、弁慶殿!それに慈円殿もよう来てくださった。あぁ、皆様方よ此方におわす方はあの弁慶でございまする、そう邪険にしなさんな」
「あれが弁慶か、大きいな」
「噂どおり黒い、南蛮人は違うな……」
木下藤吉朗秀吉の言葉に皆が口々に話し始める。
だが、その程度で参戦には概ね賛成のようではあった。
無論、見た目で嫌がる人物などもいたがそれでも巨体を見たインパクトか誰も文句を言う物はいなかった。
偉そうな奴ら、と慈円が思った武者達の中には難色を示す者達もいたがそれは秀吉が執り成してくれたことによりどうにかなった。
明らかに身分の違うにも関わらず、圧倒的なコミュ力はそれを可能にしていた。
現代人でも中々出来ないなと、慈円は少しだけ見直すのだった。
あれが織田信長か、と二人は総大将の姿を見る。
噂ほど馬鹿には見えず、どころか覇気のような者を感じる人物であった。
まるで、ネトゲ廃人や高ランカーに通じる者を彼らは感じた。
そんな織田信長は神社にて御参りした後、砦を移動する旨を伝えた。
兵力を整え、今川を強襲するとのことであった。
というのも、村人達が言うには敵は二万で此方の十倍の戦力は確実にあるとのこと、そして東海道一の弓取り、戦力もボスの格も上の相手だという。
織田信長は普通に戦えば負ける、故に策を用いる事にしたそうだ。
そう、それは大将一本狙いの大勝負らしい。
「どうだ、いけそうか」
「どうやら私にも能力があったらしい。感覚だが、最速で二十秒あれば撃てる。狙いも、ズレる位置すら分かる。射撃能力は高いね」
「そうか、ならばよし!貴公、人は殺せるか?」
「ぬかせ、アンタこそ腐っても僧、殺せるのか?」
「我輩の神は寛大ゆえな、告罪すれば許してくれよう、フハハハハ!」
「それは随分ファッキンな神様だこと」