野郎ぶっ殺してやる
詐欺師かよ、と言わんばかりに弁慶は村人達に僧侶であると思わせた。
僕達から言わせれば当たり前のことなんだけど、清潔にしていい物を食べるだけで病気が治ることを教えたのだ。
病気になる仕組みを悪い気がどうのと誤魔化して説明したのだが、ありがたい言葉だと感謝された。
ただ、他の僧侶と違うと疑う者もいたのだが弁慶が南蛮の知識だからなと誤魔化した。
彼らが僕達を受け入れたのは僕の生産能力のお陰でもある、何気なく生産を使ったら仏の力だと納得してくれたのだ。
うん、なんか石と木を合成して農具を作ったら喜ばれたけど仏パワーってことにされるとは思わなかったよ。
でも、お陰で弁慶を僧侶だと皆が認めてくれた。
村人達に話を聞くと、ここは清洲って場所らしい。
清洲ってどこって聞くと知らないと慈円ですら分からない。
徳川さんを知ってるかと聞くと、みんな分からないらしい。
どうも教育ってのがされてないみたいで、みんなが教育を受けれない悲しい時代のようである。
まぁ、僕達みたいに頭に直接知識をダウンロードするんじゃなくて反復練習だから勉強が嫌いなだけかもね。
「さて、困った。検討も着かん」
「徳川さんいないね、もしかして生まれてない」
「そうかもしれないな、戦国時代の終わり頃に生まれるのかもしれない」
困った困ったと僕達は頭を抱える。
かといって、このままの計画を変えることはできない。
というのも、毎日食うのにも困る生活村人達が僕達を毎日のように歓待してくれるのだ。
でも、自分達の食事を削ってまで渡されると、すこし悪い気がしてくる。
「一応、武士というのがおって偉い人が織田信長らしい」
「知らないな、家康じゃないんだろ」
「隣の方には今川という者がおるそうだ」
弁慶が言うには領土が大きいのは今川って人らしく、でも近いのは織田って人らしい。
でも悪いことだけじゃなくて、織田って人は南蛮被れって言われるくらい南蛮大好きな人って噂。
だから、もしかしたら仕官できるんじゃないかって話だった。
まぁ、でも村人達は僧侶や女が戦なんてとんでもないと吃驚していたから常識的にありえない話しみたいだ。
「胸糞悪い時代だぜ、女が戦場に出て何が悪いってんだよ」
「男尊女卑であるか、嫌な時代であるな」
「この後、どうしよう」
生活も大変そうなこの村で僕達は悩むのだった。
ある日のことだった。
なんやかんやで居ついた僕達は空いてる家に住まして貰っていた。
何でも両親が死んでしまった孤児の子で、何故か大歓迎された。
一緒に畑をやって、もうこのままでいいんじゃねという生活である。
そして、そんな生活の中で気付いたのだが実は鑑定の能力が使えるのだ。
何気なしに畑の様子を見て、鑑定が使えたらなって呟いたら見えたのである。
見ただけで情報を既に知っているという感じだろうか、この畑は栄養状態がないなとか分かったのである。
慈円の知識を元に森の土を混ぜたり、鑑定を使って元気そうな種を選別した結果、見事に野菜がたくさん育った。
品種改良されてないのに、こんだけ育つのは凄いことみたいだ。
慈円がなかなかできることじゃないと褒めていた。
弁慶は人よりも大きくパワーもあるため、あっという間に作業が進む。
壊れた刀と壊れた木材を合成して、農具を生産したお陰で畑も凄い速さで耕されるのであっという間である。
鑑定でそれぞれの畑の状態や病気になりそうな野菜の間引きによる、野菜の伝染病予防。
体力が落ちてる人は休ませることで、僕達が来る前より健康的で豊かな生活が出来ているらしい。
鑑定と生産がチート過ぎてヌルゲーである。
そして、僕達がやってきて半年が経った。
村人の話では近々戦が始まるらしく、収穫の時期でも無いのに急いで野菜を集めた。
集めた野菜は漬物などに処理して、隠しとくんだって。
一応、何個か残して隠していることに気付かれないようにもするらしい。
村人が言うには、戦になったら強姦や略奪が行われるそうだ。
それが戦争に行く彼らの報酬なんだと、野蛮だ。
「そうか、良くある話だぞ」
「慈円さんは怖くないんですか?」
「襲われたら喉でも切って殺せばいいだろ?」
笑顔で凄いことをいう慈円、流石軍人のようなゲーマーだ男前である。
こうなったら、弁慶に守ってもらおう。
そう思っていたある日、噂は本当になって戦争の準備が始まった。
意外と近くの村まで弁慶のことは知られていたらしく、大きくて優れた知識を持つ破戒僧がいるという噂が広まっていたらしい。
破戒僧ってバレてる件、そのせいか仕官しないかと足軽大将ってのからスカウトが来た。
「どうぞ」
「いやぁ、忝い。めんこい子じゃ、南蛮も捨てたもんじゃない。おぉ、白湯でない!?」
「タンポポ茶です」
ウチにやってきたのは木下藤吉郎秀吉、長い名前の人で元々は農民のなんかコミュ力の高い人だった。
なんでも、弁慶に力を貸して欲しいとのことで声を掛けに来たらしい。
「戦か」
「おぉとも、いるだけでええ。その見た目、敵は怯えるはずじゃ!そしたら、火縄でちょちょいよ」
「火縄、火縄銃か!?」
慈円がいきなり立ち上がり、驚いたように声を上げる。
聞けば、火縄銃とは慈円の使っていた武器の最初期の物で欲しくて仕方なかったものらしい。
確かにシューティングに銃は必須だもんね。
「おい、私を連れてけ」
「何を言っておる、女子は戦場に出てはいかん。穢れが付くからじゃ」
「穢れだって?おい、テメェ血のこと言ってんのか!テメェら武士も血だらけだろうが!女だからって舐めやがって、ぶっ殺してやる!」
そう言って、慈円が包丁を持ち出してきた。
その鬼気迫る顔に木下さんがビビッて僕にしがみ付く。
えぇい、離せ逃げられない!
「まぁ、待て待て殺生はいかん」
「退け弁慶、ソイツ殺せない!」
「この時代は聞けば女性は不浄と思われているらしい、それに戦場に行けば嫌な思いをするだろう」
「どういうことだい?」
「うむ、実はな」
弁慶が言うには戦場には御陣女郎という人達がいて、禁欲している武士達の処理をする女の人がいるんだって。
それに間違えられて、抱かせろと言われるわけである。
確かに、嫌な思いをするかもしれない。
「だからどうした、言った奴をその場で殴れば終わる話だ。大体、女だって戦場に行く話ぐらい聞いたことあるぞ!鉄砲隊だってある!私はこう言う風に女を見下している男が大ッ嫌いなんだよ!」
「す、すまぬ慈円殿。ただ、ワシはそう御陣女郎!御陣女郎に間違えられるのを止めるつもりだったんじゃ」
「嘘吐くじゃねぇよ猿!吐いた唾は飲み込めねぇんだよ!表に出ろ!」
こ、怖い!
怖いよ慈円、思わず姐さんって言いそうになるよ。
速く、謝れよ猿。お前のせいだぞ。
「あい、分かった。ワシも協力する故、許してくれ」
「本当だろうな、嘘だったら分かってんだろうな」
「本当じゃ、信じてくれ!それでは、頼むぞ弁慶殿!ごめん」
「あっ、待ちやがれ!」
走り去っていく木下、改め猿。
やろう、いつのまにか弁慶が行くことを決定していきやがった。
さりげなく承諾されてるんだが、というか慈円怖い。
「まぁ、一件落着だな。フハハハハ」
「ふん!胸糞悪い、寝る」
「笑える状況じゃないですよ、はぁ……」
とにかく、慈円と弁慶が戦場に行くこととなった。




