このまま行けば大丈夫(フラグ)
屋敷の奥まった一室、そこで男が胸を抑えながら息絶えた。
それを発見した侍女は悲鳴を上げ、手首に付いた注射器を回収する。
「誰か、誰か!」
「どうした!なっ!?」
「突如、胸を抑えて苦しそうに・・・・・・」
1570年、元亀元年のことであった。
翌月、朝廷より征夷大将軍の任命を織田信長が受ける。
「殿、激おこなんだが」
「なりたくなかったんですね、分かります。学級委員長みたいなものですね、僕学校行ってないですけど」
「それより新聞見たかよ、武田信玄が火事で焼け死んだってよ」
僕達は新聞を広げて弁慶が武田信玄を殺した事に驚いていた。
世間では火事で死んだことに、というかそういうことにして僕たちが噂を流した。
流石に個人が国をどうにかしたとは言われても信じられないし、僕達がやったことにされると非難殺到なので仏罰とか神罰とか一向宗とか他の大名のせいにした。
そんな玉石混合な情報もプロパガンダでどうとでもなった。
「殿的には別の人間に官位を与えて、そこから天皇より上位になろうってしてたみたいだぞ」
「流石天皇、一枚上手であったか」
「いや、たまたま朝廷が下に付けたかったからみたいだぞ」
政治はよく分からないけど、貰える物は貰えばいいと思う。
それはさておき、人口調査などを僕達はしていた。
最近、ご飯もたくさんだし働かなくてもいいやって人が増えたせいで何故か人口爆発してるからね。
医療技術も上がってるせいか、年寄りは死なないし子供も死なない。
それに余所から来るし、働く時間が減ったせいか何かイチャコラしてるからである。
「農民が畑とか持たなくなったからな」
「ビルにして、中で野菜とか育ててますからね」
現在の京都はビル群と化していた。
農地だった場所を買い上げ、そこにビルを建造。
地下と高層にて植物プラントを形成、収穫量は今までの数倍になる。
他にも空いた人手を文官として教育するなど、時間は掛かるが変革は始まっている。
「あと十年したら、赤ちゃんも戦えます。戦力差は圧倒的です、素人でも戦えるとはさす銃」
「職人達も工場化してから技術開発ばっかしてるしな」
「研究は大事、内政は研究が基本です。研究が成功すれば、名声が上がるというのはゲームでは常識、痛て!」
「残念、現実だからな」
本当は機械兵とか作りたいんですけど、そこまで技術が上がってない。
レトロな機械兵すら作れないとか、本当に古代である。
「クローン技術で家畜の量産とかしたいですね。シルクロードから動物を取り寄せたいです」
「まぁ、今は信長包囲網だよな」
翌年、1571年の事である。
僅か一年で信長包囲網を打倒することに成功する。
その果敢な攻勢は諸国を震撼させ、織田家の領地は関東一帯と大規模となった。
しかし、そこへと瓦解していた武田の国人衆が協力体制を築き上杉、北条と同盟を結び侵攻を開始する。
「拙いことになった」
ある日の事だ。
僕達、三人は殿の元にお忍びで呼ばれることとなった。
「武田の国人衆が暫定統治すら投げ捨て、恨みで動き出した。それに呼応し、上杉と北条も進軍の兆しを確認した。何度か使者を送っているが、毛利の反応は芳しくない」
「はぁ・・・・・・それで、えっと僕達に何のようですか?京都も危ないって事ですかね?それより車欲しいので石油探しましょう」
「まぁ、主の戯れ言は置いといて・・・・・・慈円、ちょっと毛利の奴らを殺してきてくれ。あそこは血縁関係がややこしいので、まぁ一時の混乱にはなるだろう」
「それは、私のスナイパー部隊を実戦投入するって訳だね」
素気なく流されて、ちょっとムッとしてしまう。
殿、そのようなことを言ってると僕の信者が黙ってませんよまったく。
握手会はいつも抽選なんですから、まったくもう。
しかし、そんなことよりも訓練してきた部隊を運用できると慈円が楽しそうにしていたのでスルーされた。
「頭がいなければ烏合の衆と成り果てよう。何、戦と成らねばただの懸念で済むのだがな・・・・・・」
そんな秘密会談を終えて、織田家は長篠へと出兵した。
上杉、武田、北条、三国同盟と織田家、徳川家の連合軍による戦いの火蓋が切られたのだ。
ちなみに、切って落としたら使えないので火蓋を切って落とすは誤用である。
「砲兵部隊、進め!」
「射手狙撃部隊、第二分隊まで前へ」
「塹壕急げ、敵の騎馬隊を邪魔するんだ!」
戦場では、戦いが始まっていないのに大急ぎだった。
戦いは平時こそが戦いである、という殿の言葉の通り陣地作成の方が忙しいのである。
集団を決まった場所まで運ぶ、行軍が大変なのは周知の事実である。
戦列が伸びれば襲われる危険度は上がり、兵糧は軍勢の量に比例して必要となってくる。
兵は拙速を尊ぶというのはそこから来た言葉であろう。
しかし、織田軍は技術開発によって蒸気機関や兵器の充実によって即座に戦力を確保することが出来た。
「勝ったな」
「兵糧は充実、機動力はこちらが上、しかも防衛拠点を築きあげ、更に数年先の技術を使った武器まである。これで負けるとしたら数の差だけど、いやないな。兵器の進歩は殺害数の進歩だからな」
「もしくは殺人に対する忌避感の喪失ですかね」
例えばナイフで人を殺すことは出来なくても、銃なら人を殺すことが出来る。
というのも、殺したという実感が薄れるからだ。
ボタン一つで人が殺せるなら、躊躇なく押せる人はナイフで同じ数殺せる人間よりも多いだろう。
「っていうか、戦場とか危険なので帰りたいんですけどやだー!」
「だって、おまえがいた方が兵士の士気も上がるし拠点が作りやすいじゃないか」
「クソッたれ!生産チートの便利さが恨めしい!」
みんなでいそいそと陣地を作成していると、慌てた感じで伝令がやってきた。
なんだろう、また厄介ごとだろうか。
「おい、そこのお前。どうした、何があった」
「ハッ、毛利出兵並びに本願寺が長島で蜂起致しました、マアム!」
「おう、毛利が動いたか、行っていいぞ」
「イエス、マアム!」
厄介ごとである、急ぎ殿に伝えれば長島ってそんなに大きくない場所で面倒なので兵量攻めが決定された。
囲んで放置、勝手にやってろ死ねと悪態を吐いていた。
拠点が出来る頃、ようやく連合軍がやってきた。
双眼鏡で観測した驚愕の、そんなアホなという顔にはさすがに笑ってしまい、殿も寄越せと言われて兵士たちの顔を見て笑った。
そりゃ、城壁が見渡す限りできていたらびっくりしてそんな顔します。
まぁ、実際はいたとコンクリの張りぼてなんですけどね。
見た目だけの突貫工事でよいって、殿の発想にびっくりですよ。
「国崩し部隊、構え……撃てぇぇぇぇい!」
「着だぁぁぁぁぁぁん、今!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
連続で聞こえる発射音、数秒の沈黙の後に轟音が響く。
戦場に巨大な穴が開き、人と人の間に焼け焦げた空間が出来上がる。
密集している軍勢は、もはや的だった。
「うわぁ、すごいですね。小並感」
「昔、戦国時代に現代兵器がタイムスリップする映画を見たが、こんな感じだった」
「じゃあ、もう勝ったと思うから毛利征伐してくるわ」
もはやここまで来ると、あとはNPCに任せて内政ばかりやって遊ぶゲームと一緒だと慈円はそう言って去っていく。
いいですね、内政だけやるってゲームとか。