人間やれば出来るもんだな
謁見は躑躅ヶ崎城で行われる事となった。
弁慶は家臣団と思わしき一団に囲まれて、武器などを取り上げられた状態での謁見であった。
それなりに広い一室、畳の張られた部屋はよく燃えそうである。
そんな場所で左右を家臣団に囲まれ、弁慶は中央に座らされていた。
先に待っていた弁慶は、待ち人が入って来るなり胡座を掻いた状態で握り拳を作り床に着ける。
その状態で頭を下げ、礼をすることで出迎える。
武田信玄、甲斐の虎である男、彼は弁慶と向かい合うような形で離れた場所に座った。
「武田大膳大夫である。よくぞ、参られた」
「織田家が家来、小牧山弁慶と申す。本日は拝謁の栄誉を賜り感謝いたします」
「うむ、して用件は何じゃ」
「はっ、殿より書状を預かっております」
武田信玄、甲斐の虎と呼ばれる男。
年老いていながら、鋭い眼光が特徴的な男であった。
身体は鍛えられており、周囲にいる武士の二回りは大きく感じるほどである。
弁慶が書状を懐から出そうとすると、家来の一人が前に出る。
しかし、弁慶は遮るように手で制し言葉を紡ぐ。
「この書状は直接渡すよう申されておる。悪いが、戻っていただこう」
「なっ、馬鹿なことを申すでない!」
「何だ、武田というのは使者相手に臆するのか?」
流石の発言に、家臣団の者達が罵詈雑言を浴びせながらいきり立つ。
しかし、それも中央に座る武田信玄の一言で終わりを告げる。
「よい、皆の者下がれ」
「しかし、御館様!」
「下がれと言っておる!おい弁慶と申す者よ、もっと近うよれ」
武田信玄の有無を言わせぬ態度に、渋々ながら家臣団も従う。
合議制故に中央集権ではないにも関わらず統率が取れておる、これも偏にカリスマの成せる力か。
まぁ、関係ないのだがな。
弁慶の身体を覆うように炎が発生する。
格ゲーキャラに多すぎとネタにされる定番の能力、炎である。
実際はただの見た目だけの物だったが、現実になると当然燃え移る。
他にも血とか影とか髪とかも操れるが、基本的に弁慶は雷か炎しか使っていない。
というのも、細かい操作が面倒だからだ。
「っ!?」
「な、何事か!?」
当然、全身が急に発火した人間がいれば驚くのは無理がないことだった。
だが、その動揺が一瞬の隙を生む。
それを見逃す弁慶ではなかった。
上腕を振り上げ、一気に踏み込み固まった信玄へと叩き込む。
「むっ!」
「何!?」
それは居捕りと呼ばれる座った状態からの攻撃に対して編み出された護身術であった。
火炎に包まれた上腕全体を頭部へと狙いを定めて叩きつけた攻撃を、武田信玄は両手で押さえそのまま滑り込むように背を懐に入れて投げたのだ。
倒れ込むように背中から床に落ちる弁慶、痛みはないが思わず驚く。
「なんと、これは愉快!」
「これは何のつもりか!」
「知れたこと、御命頂戴しよう」
弁慶は倒れた状態から回転して身体を反らすようにして踵で蹴る。
カポエイラのヘヴェル・サオンという技で、信玄に攻撃したのだ。
信玄はその攻撃に咄嗟に反応し、腕を重ねるように合わせて防御するが勢いよく吹き飛ばされた。
「御館様!」
「皆の衆、親方様を守れ!」
「待て、火事をどうにかしろ!」
いつまでも呆けている場合ではないと家臣団も遅れながら動き出す。
各々が腰に差した刀を抜き、信玄を守るように弁慶に斬り掛かったのだ。
「ハッ、甘いわ!」
迫る刃、それを両面から手刀を叩き込む。
それだけで、刀は割れるように壊れてしまう。
「馬鹿な!?」
「御館様を早く、城が燃える!」
「自らを燃やすとは正気か貴様!」
普通にあり得ない刀が壊れるという光景に、否定の言葉を発した家臣団の一人を弁慶は掴み上げ他の者に向かって投げつける。
そして、逃げ出そうとする信玄とその部下に向かって飛びかかった。
「御館様、ここは私が!」
「邪魔だぁ!」
飛び出す部下の男は刀を正眼の構えで持ち、飛び掛かる弁慶に立ち向かう。
その持ち手の下に弁慶は手を掴むように滑り込ませ、そのまま前に押す。
「うおっ!?」
「寝てろ!」
「あぐっ!」
手首の下から右手を、刀を持つ腕の上から左手を、そのまま弁慶は連動させることで相手の肘を曲げる。
背中へと反るように態勢を崩す相手の腹に向かって膝蹴りを放ち、そしてそのまま吹き飛ばす。
空手奪刀と呼ばれる技によって弁慶は刀を奪い、部下の男を蹴り飛ばしたのだ。
「命を捨て、焼身の身ながら襲い来るか!」
「誤解だ、死ぬ気はない。死ぬのは貴様だ」
「抜かせ!」
逃げるのは無理と誘ったのか、抜身の刀を持って逃亡から徹底抗戦に信玄が走る。
そこへ、奪い取った刀を弁慶は投げた。
「ふんっ!」
「食らえ!」
投擲された刀を上に振り上げる動作で弾く信玄、しかしそれを見越して弁慶は動くことで懐に入り込む。
そこから弁慶は喉に向けて肘打ちを打ち込んだ。
「がはっ!?」
「終わりである」
そのまま抱え込むように首に掴み掛り、頭を両手で上下から挟みそのまま捻り倒し首を折った。
それは太極拳の一手、搬欄と呼ばれる技だ。
回転による力で首をそのまま捩じることで、首の骨を折ったのだ。
「貴様ぁ!」
「敵討ちか、その意気やよし!」
突撃してくる家臣の突きを弁慶は紙一重で避ける。
そして、相手の頭を挟むように頭側面に拳を打ち、鼓膜を空気圧で破ると同時に脳を固定して揺さぶった。
それだけで、耳から血を流しながら家臣の男は転倒する。
「ぐおぉぉ……」
「楽にしてやろう、南無阿弥陀仏」
「くっ……」
喉元に刀を突き刺し止めを差す。
そして、周囲を見渡せば城は炎に包まれていた。
柱も天井も、燃えやすい畳から引火して燃えたのだ。
死体は数体、それ以外は大慌てで逃げたようであり、思ったより忠誠心もなかったなと弁慶は感じた。
まぁ、それはそれとして残党狩りである。
城を抜け出しながら、見つけ次第襲い掛かる敵を捕まえては返り討ちにする。
案外、簡単だなと弁慶は思った。
ここが戦場なら、多勢に無勢と言った具合にはなっただろうが生憎なことに城の中であった。
そのため、回り込んで集団リンチといかず一対一で相対することになったのだ。
そうなれば、鍛えこまれて人外染みた弁慶と武士の一人など勝負は考えるまでもなかった。
「ほぉ、これは」
ゆっくりと焼け落ちる城下に出てきた弁慶は、出入り口を包囲する槍衾に感嘆の声を漏らした。
統率された多の力に、見事だなという感想を抱いたのだ。
「では、ふんぬぁぁぁぁ!」
弁慶の腕に紫電が走り、それが振り落とす動きと同時に前方へと流れ込む。
本来、登場シーンに使うエフェクトのそれは現実となったことで雷の壁として猛威を奮う。
現実となった雷の壁は、槍衾を飲み込み前面にいた者達を焼き散らす。
「フ、フハハハハ!」
「ば、化物だ!逃げろー!」
「触れたら組み伏せられるぞ!」
「くそ、近づけん!」
人が吹き飛ぶように投げ飛ばされる、落ちてくる味方の兵士に潰される者、投げられると同時に破裂して死ぬ者、その場所だけ世界観を間違えていた。
何故かそこだけ無双ゲーみたいな状態であった。
「うわぁぁぁぁ」
「壊走とは、案外国落としも簡単な物だのぉ・・・・・・」