お前は暗殺すると言ったな、あれは嘘だ
1567年、永禄10年、今川軍が出兵した。
狙いは徳川家康の領地、三河が狙いだった。
居城を失い、弱り切った徳川家康は同盟者である織田と武田に使者を送るも、援軍は難しい状況であった。
というのも、出兵が確認された時期に織田信長は北伊勢へと戦力を集中させており、高岡城というところを攻めていた。
そして、武田は娘を織田家に嫁がせて同盟をしてはいる物の徳川の領地の経済力やまた東海道という上洛する上での道を欲しているため援軍は遅れるだろうとのことであった。
「つまりどういうことですか?」
「ハッ、今忙しいから手が離せないということでござる」
「分かったでござる」
夜、僕の前に尾張忍軍の者が出兵の知らせを寄越した。
難しい話をされて、しかも北伊勢とか知らない地名に当たり前のことだよなって感じで高岡城とか言われる始末。
正直、お城なんてたくさんあるし名前変わりまくるから覚えてません。
「遅れるってのはどういうことだろうな」
「うむ、建前としては助けに来たということであろうな。そして漁夫の利という奴だ」
一緒に報告を聞いていた、弁慶と慈円が囲炉裏の前で何やら考え事をする。
彼らの方に身体を向けていた僕が振り向けば、いつの間にか話は終わりだという感じで報告に来た兵はいなくなっていた。
慈円はまるで得心がいかないとばかりに頭を抱えながら言葉を紡ぐ。
「欲しいなら戦争すればいいだろ、それをなんだ?徳川と争った今川が弱ったところを助けに来たぞって言って参戦するのか?」
「あわよくば自分の領地に組み込む形であろうな。徳川氏が死ねば、まぁ可能であろうな」
その言葉に殿と揉めるのではと僕が質問するが、弁慶はいいかと言って説明する。
「徳川氏が死んだなら、まぁ誰かが管理者にならねばならんだろう。その際に、同盟国のどちらも隣接しているから揉めるであろう。そこで統治者として必要な条件が関わってくる」
「条件ですか」
「うむ、時に亜利栖は我輩と村の子供ならどちらが助けてくれると思う。盗賊などに襲われたときだ」
「どちらも助けてくれそうですが、弁慶の方がいいですね強いですから」
「そう、統治者は強くならねばあらぬ。そこで戦う力を示さなければ、強いかどうかもわからぬ。もしかしたら、我輩より子供の方が強いかもしれない」
いや、それはないと思うけど仮定の話なので突っ込みはいれない。
つまり、ここでの強さの判断基準は何かの話をしているんだと思う。
僕が脳内で補完しているだけであって、弁慶がノリで喋っている可能性もあるけどね。
「援軍を寄こせない織田と援軍を遅れながら寄こした武田。統治されて欲しいなら、いざという時に助けに来た者であろう。統治の際に面倒になる織田と面倒にならず受け入れられるかもしれない武田という構図になれば、織田は譲歩して土地ではない条件を勧めるはずだ」
「そうなると武田さんは領地が貰えますね」
「交渉の際に確実に有利になれるために形として援軍を出す、そして今川が勝ったところで襲い掛かる。そうして領地を取り返し、徳川の統治者としての資質を問い、また同盟者としての働き具合からなし崩し的に譲渡されることだろうよ」
まぁ、結局みなさん誰が統治者でもいいって人が多いですもんね。
統治者を気にするのって意外と辺境の方達だったりします。
彼らは国境と言いますか、お互いの領地の境界にいる物ですから施政者情報が必要になってくるからです。
「ちょっと待て、おい殿の性格からして黙ってはいそうですかって玉か?」
「うむ、やはり戦争であろうな。というか、間違いなく我輩達に来るであろうな」
「もう、なんで今川さんは攻めてくるかな」
言って気づいたけど、もしかして僕達のせいだろうか。
いや、でも兵士達はそれほど傷付いてないし、攻める理由にもならないような。
国力が弱っているの定義ってどのくらいなんだろう。
「僕達のせいですかね、ほら弱らせるようなことをしたから」
「たかが、十や百ぐらいだろ?昔だから少なく見積もっても一億ぐらい減ってから国力が弱るんじゃないか」
「うむ、一度に一京は人が死ぬのが普通だからな。だが、ここは昔だから一億は言い過ぎだな、きっと一万くらい死んでピンチってところじゃないか。今回の数など微々たる物よ」
「そうですね考えすぎかも、たかが数千人にも達してない数じゃ国力低下と言うほど弱りませんよね。弱ってないのに攻めてくるとか、すごーく恨んでたんですかね。あれ、それって僕達が今川のせいにしたからじゃ……」
謎は深まるばかりである。
その日はみんなから考えすぎだと言われたので、考えることをやめて寝た。
数日後、猿が書状を持ってやってきた。
内容は僕達の予想通り、武田に負けるなあきらめんなよという殿からの手紙である。
「というわけである、分かっただぎゃ?」
「なんか難しくて分からない。此度はとか候とか何言ってんの?」
「つまり、今川を追い返すってことだけ分かってくれればいいだぎゃ……」
何故だか、がっくしと頭を垂れる猿。
どうした、僕が分からないとか言ったからか?
でも昔の言葉使いとか意味不明すぎて注釈が欲しいです。
今時、アニメだって注釈とか用語説明されるよ、この時代には影絵しかないけどね。
「つまりぶっ飛ばせばいいんだろ」
「今回は慈円はお留守番です。なぜなら、徳川さんの所に援軍に行くからです」
「はて、何かまずいのじゃ?」
「こっちの話です。慈円さんは徳川さんラブなので、もれなくハートキャッチしてしまうって感じですかね。逆もしかり」
「ラブ、おぉ好いておるという言葉……それマジ?慈円殿に人並みの恋とか、どんだけでござる」
だって、顔は覆面でも声とか動きとか射撃チートで即バレして殺し合いになるの間違いないじゃないですか。
そして流石、猿である。
僕達の言葉をちょいちょい勉強していてうまい感じに使っている。
因みに、猿はその後に余計お世話だ馬鹿野郎と慈円に殴られていた。
そして援軍に向かうことになったので、今回は弁慶と僕が出陣することにした。
なんで非戦闘員の僕が行くかと言えば後方支援のためである。
「本当に動くのか?この大きな塊が、水と石炭で本当に?」
「線路さえあれば行けるのです。そして線路は僕が作る」
荷馬車に大量の物資を詰め込んで、僕が後ろ座る形になる。
荷馬車の中身は木材と金属製の物色々である。
全部廃材というエコであり、これで線路を作るのだ。
弁慶は馬の代わりに荷馬車の前に陣取り、ステンバーイとか言っている。
そして、僕の目の前には黒光りするボディーで出発を待つ蒸気機関車の姿があった。
「では、物資の詰め込み、弾薬、兵士、あと防具とか食べ物とか飲み物とか、食料とか武器とかも詰め込んで、それに……」
「分かってるのじゃ、というか全部同じ意味というか似たような意味なのじゃ」
「本当に大丈夫?ハンカチ持った?猿一人で平気?」
「何言ってるか分からんが急にお袋感出すのやめーや」
まぁ、いい大人だし馬鹿だけど現場指揮ぐらいは出来るだろう馬鹿だけど。
そう思って後のことは猿に任せて僕たちは先行することにした。
「目標、三河国、弁慶出発」
「うむ、我輩行きまーす!」
「じゃあ、線路作ります。おぉ、徐々にスピードが上がってきました、すごいですね馬よりもずっと早い」
「こう言う時はサラマンダーよりずっと早いというのが様式美だ。諸説あるがサラマンダーとは戦闘機の機体名らしく、新しい機体が登場した当時の兵士が口々に旧機であるサラマンダーとの性能を比べて口にしたのではという由縁がある」
そんな豆知識を聞きながら、僕は線路を作り、弁慶は材料が減った分だけ加速して三河の国を目指した。