全部、今川って奴が悪いんだ
暗殺しようと思ってもすぐに実行出来る訳でもなく、それなりの準備が必要です。
徳川家康は現在調べたところによれば今川という元上司と争っている状態だそうです。
今川というのは上杉さんと一緒に友達であった武田君を苛めようとして、お前が上杉と仲良しなの知ってるんだからな、絶交な!と言われた殿にやられた人です。
そのため、武田と今川と北条の仲良しグループは今では消滅して、織田と徳川と武田のグループが出来ているそうです。
殿にボコボコにされて、ぼっちになって、その上パシリだった徳川の野郎が独立して土地も少なくてピンチだってことで今川さんは徳川を恨んでるそうです。
「まずはペーパーカンパニーから忍者を女中として奉公させるわ」
「女中って家来の娘さんしかなれないんじゃないんですか?」
「一般的にはそうだが、堺あたりの商人は娘なんかを奉公させるんだ。そして息子を作って家を乗っ取るとかあるんだろ」
「おぉ、ドラマみたいですね」
金の力で寂れた商家を買取、そこの親戚の親戚のみたいな感じでいつの間にか店員を摩り替えた店がたくさんあります。
徳川さんの所は港も近いので商人として接触する機会も多く、一度に大量の奉公に出しまくることで確率を上げたのですが何故か振るい落とされることなく採用。
人事の方に賄賂を贈ったのがよかったんですかね、金の力って凄い。
「これが見取り図だ。といっても中は分からんから外観だけだがな。普段は付き人などがいるが、戦時中より人は少ない。城に住んでるかと思ったが、別にそんなことなかったぜ」
「なるほど、この丸がされているお館って所にいるんですね。だから、みんなお館様って言うんですね」
「力士も親方様って言うもんな、偉い人はみんな親方様なんだと思ってたぜ」
段取りとしてはある程度、奉公として人を送れたので僕が作ったアルコールを使いつつ内側で火事を起こす。
小高い丘で攻めるのは大変だから、逃げてくるところを正面から射殺、見つけ次第に狙撃する。
奉公しに行った奴等は死ぬかもしれないけど、慈円も城攻めしたいので潜入するから士気は高いらしい。
「こんなガバガバで大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。一番いい装備を頼む」
「そんなこともあろうかとレシピを開放しましたよ」
ホイールロック式の発展系、フリントロック式銃である。
相変わらず不発になったりするけど、前より不発が少なくなった代物だ。
慈円は庭先で試し撃ちをしてから、決行の日に使うことを決めた。
決行の日、裏で支援していたテロ組織が一向一揆を起こす。
宗教家って煽ると簡単に戦争してびっくりだよね。
今のぐらい昔にはパンとワインを理由にヨーロッパで戦争があったらしいし、宗教って怖い。
「大変です、部下から手紙が来ました」
「どうしたのだ、そんなに慌てて」
「慈円が出掛けてるんですけど、松平さん外出中らしいです!」
そう、それは一向一揆を鎮圧するために出陣を知らせる手紙であった。
普通は農具とかで簡単に制圧出来るのに今回は厳しいからと家康自ら出陣したのである。
流石に火縄銃とかあげたのはまずかったか。
そしてこの時代、情報がすごく遅い為に行き違いになった。
今頃、慈円は暗殺しに城まで歩いていき、忍者部隊の奴等は命令通り家康がいないのに火事を起こすに違いない。
だって、慈円が家康いること前提で作戦指令書を書いてたからね。
「そうか、まぁいいではないか。手薄ってことだろ」
「あー、そうですね。帰ったら家がなくなってますけど、それはそれでありですね」
「ホームレス徳川か、大変そうな二つ名であるな」
うんうん、と弁慶と納得して流れに身を任せることにした。
一方その頃、慈円はそんなことも知らずに岡崎城へと潜入しようとしていた。
城の前には守衛らしき姿が二名ほど見えた。
暇そうに槍に凭れ掛かっている様子に弛んでるなと思わずにはいられない。
入り口は堅く閉ざされており、守衛を排除しなくては入ることは難しそうだ。
「ショットガンがあれば扉なんざブチ壊せるのに……」
悩んでいると城に変化があった。
至る所で狼煙のような煙が立ち上っていたのだ。
慌てるように守衛達が中の様子を探る。
「チャンスだな」
どちらも城の方へと向いていることを良いことに、慈円は駆け寄り一気に喉仏を切り裂く。
「かひゅ……」
「ひぇぇぇ!?」
「ふん!」
「あがっ……」
即座に二名を無力化した慈円は閉ざされた門に耳を付ける。
何やら騒ぎ声が聞こえるがそれだけであった。
取り敢えず、堀に捨てることで死体を隠蔽する事にした。
「やっぱ、城まで遠いなぁ」
そう簡単に中に入れないので、仕方なく焼き討ちに切り替える。
アルコールの入った陶器と火種になるものを門で使えば徐々にだが入り口が燃え出す。
穴を掘って堀を作り、土塁を築きあげただけの平城で、燃えるのはあっという間であった。
石垣や水堀などがあれば違ったのか、何度か叩けば侵入路は簡単に確保できたのだった。
慈円が動いている間、場内では必死の消火作業が行われようとしていた。
というのも、籠城に備えて井戸などは備え付けられているので火事が起きてもどうにかなるからだ。
しかし、何者かによって井戸は破壊されており水を汲むことが出来ない。
誰かが釣瓶と桶を壊しておいたのである。
「ええい、桶を使い台所から、ぐっ!?」
「騙して悪いが仕事なのでな」
「曲者だと……うぅ」
火の手が上がる中、情報が錯綜する。
女中が切られた、曲者は男だ、女中に裏切り者がいる、奉公人は皆殺しにされる、刃物を持って警戒しろ、刃物を持ってる者は敵だ。
嘘か本当か分からず、また何故か指揮系統をする立場の物が命を奪われていた。
しかし、中には騙されることなく曲者を見つける者達もいる。
「出会え出会え!」
「むっ、ならば」
「殺せ!何かする気だ!」
女中が囲まれながら懐から玉状の何かを放り出す。
そこに、口から液体を含み吹き出しながら火を着けて引火させる。
まるで大道芸のようなそれにより、玉状の何か、亜利栖が作った煙花火が煙幕を作り上げる。
「前が見えん」
「ぐあっ!?」
「何が起きてる!やめろ、同士討ちになるぞ!」
ビューと甲高い音を発てながら熱を持った飛来物に右往左往する。
それも花火、ロケット花火である。
それに混じらせるように巻き菱やらナイフを投げる物だから堪った物ではない。
気付けば、まんまと逃げ出される始末だ。
女中を追おうにも、噂に踊らされて皆が非協力的だ。
しかも、明らかに火の手が上がるのが早く人為的な何かを感じる程だった。
「ハイッ!」
「がっ!?」
そんな中、明らかに怪しい奴が遠く離れた位置から弓矢で兵士を狙撃していた。
「いたぞぉぉぉ!」
「アイツが下手人に違いない!」
スゴい速さで一撃の下に生首を量産する化け物に怯えるどころか寧ろ血気盛んに挑み掛かる。
しかし、相手は士気を崩すほどに馬鹿げていた。
「発射!」
「テメェらが死ね!」
矢の斉射も諸共せず、転がるように避けたかと思えば自分に当たる矢だけ掴みとり、それを構えて此方に撃つ始末だ。
しかも、刺されば良い方で当たれば貫通して穴を開けるという火縄銃よりも威力があるのだ。
「オラァ!」
「お、鎌だ!」
「ぎゃぁぁぁ!?」
鎌や包丁、金槌や落ちてる石など、届く訳もない距離から正確無比に顔を執拗に狙って物が飛んでくる。
先程など脳天に鎌が刺さって隣の者が死んだと兵士達は慌てていた。
そうして、岡崎城は焼け落ち、まんまと下手人には逃げられた挙げ句に兵士達は負傷者多数という状態であった。
「私の城が……やっと取り戻した城が……」
「殿!気をしっかり!おのれ、今川ァ!」