修正力という物があってだな
毎日の日課のように、僕は米を作る。
職人の朝は早い、まずは運び込まれた古いお米を生産能力を使って新しいお米にする。
そして、それを出荷して売り付ける。
まさに現代の錬金術である。
今日もせっせと弁慶が馬車に乗せて領外へと売りに行く。
家畜とか今後集める予定だ。
「オラァ!」
「ビューティフォー」
「お嬢、びゅてほーで御座います」
昼になると、慈円の趣味に付き合う。
銃を使えばいいのに敢えてアナログな弓矢と言うものを使って狩りをするのだ。
二キロは離れた場所にいる猪に命中すると、その首に穴が空いて切断されるという物理的に意味不明な事態が発生。
その後、部下の忍者達が生首と胴体をせっせと回収してジビエ料理になります。
狩猟免許は戦国時代なのでいりません。
「何でこれであれが出来るんですかね?」
「地味に私もチートだからな」
「スゴいなー、流石だなー」
「お嬢は源氏の再来ですぞ!源氏万歳!」
夕方、みんなでご飯である。
城下街にある大衆食堂に材料を集めて、調理である。
お酒や野菜がこれでもかと集められ、そして神主さんがかしこみかしこみウンタラと呪文を唱える。
あとは、僕が手を翳して生産するだけである。
気付けば、超巨大な鍋の出来上がりだ。
お祭りとかででっかい御好み焼きとか作るよね、ゲームの話だけど。
夜、寝る。
街灯とかビルとかなくて真っ暗になるからみんな寝る。
徹夜、なにそれ?みたいなくらいみんな寝る。
昔の人の方が健康的な生活って分かるよね。
そして一日が終わった。
「って、まったりしてる場合かー!」
「うるさいぞ、何時だと思ってんだ」
「僕達の当初の目的は徳川家康さんを見つけることですよ。何もしてない、よー!」
深夜、寝ている弁慶と慈円を叩き起こして僕はあることを告げた。
それは今年になって知ったことである。
「いいですか、今年大きな事がありました。とびきり重要なニュースです」
「はい、興味がないので我輩分からんのだが」
「弁慶は外で立ってなさい」
弁慶は言われたとおり、何故か両手に水桶を持って外に出て行く。
それを見送った後、慈円がやっと分かったのか弁慶と同じように手を上げてから答えた。
「お市様とやらが浅井さんってのと結婚した」
「惜しい、惜しいです。確かに重要だけどそれじゃない」
「もう、何が言いたいんだよ。私は眠いんださっさとしろよ」
やれやれだぜ、と言わんばかりに慈円は手を広げて呆れる。
まったくこっちが呆れるよ。
思わず、はぁと軽く溜息を吐いてから答えを言った。
「悲報、松平元康ってのが徳川家康に改名したってことですよ!」
「おぉ、あの殿のマブダチな。えっ、初めて聞いたけど」
「いや、結構皆さん言ってましたよ。お城の人達ですけど……」
普通に手紙のやり取りとかしてるみたいですけど、皆さん普通に家康殿とか言っちゃってるけど。
というか、後に日本を征服する王様、徳川家康が見つかったんですよ。
「これは困った事態です。このままだと僕達は死にます」
「大袈裟だな、ぶっちゃけこっちの方が殿より快適な生活してるし強いぞ」
「仮に僕達がいないとしても、殿の方が圧倒的。なのに負けちゃうって事は、家康さんはスゲーってことなんですよ」
そう、なので今のうちに転職するかどうかという話をする必要があるのです。
今はベンチャー企業みたいに小さいですけど、今のうちに関わることで後々に得します。
僕は株シミュレーションとか企業ストテラジーゲームには詳しいんだ、だから間違いない。
「えー、じゃあ転職するって言ってやめるの?」
「仕事したことないから分からないんですけど、退職届とか電子申請すればいいんじゃないですか?」
「パソコンを作るとこから始めないといけないのか、いやこの時代なら矢文でいいのか?」
やめたいで候とか書けばいいのだろうか。
取り合えず、殿に手紙を書くことにした。
「よく来た」
「久しぶりに呼び出されたんだぎゃ、今度は何させるのじゃ?」
「うん、猿に手紙を届けて欲しくって」
数日後、ほいほい殿に会うことも出来ないので社会人の常識としてアポイントを取る事にした。
そのために、猿を僕達の城に呼び寄せることにした。
別に人伝でもいいけど、大事な書類みたいな感じだからね。
「そんなの配下の者にさせればいいのに、殿への手紙だからか?」
「あっ、何勝手に見てるのさ」
「ふむふむ、待遇に納得いかないし家康に将来性を感じるので移りたい……って内応してたってことじゃないか!馬鹿なの、死ぬの!普通に斬首刑されるわい!」
「あははは、猿は大袈裟だな」
いくら部下がブラック企業の社畜でも、やめたいって言ったらやめさせてくれるもんでしょ。
だって、法律で決まって……ないな。
あれ、辞職とか出来ない感じなの?
「なんてもん見せるんだぎゃ!とばっちりに合うに決まってる!冗談にしても性質が悪過ぎるのじゃ!」
「そんなにヤバかったですかね」
「我輩知ってるぞ、ジェネレーションギャップという奴だ」
「でも、家康さんと殿って友達なんだから別に良くないですか?」
猿がこのことについて必死に説明してくれた内容によると、この手紙を出すと裏でコソコソ裏切るって話を家康としてたんだな許せん、首切り腹切り晒し者じゃーと殿がガチギレするらしい。
つまり、ヘッドハンティングは織田家は許さない方針みたいである。
いや、僕達は正面から就活するつもりだったけど。
「でも、織田家は滅びますよ」
「何を言ってるだー!確かに武田や北条に今川が周辺にあるが、間違ってもそんなこと言ってはいかん」
「それで徳川さんが天下を取るんですってば」
「そんな訳あるかい!内応してないんだから、匂わせることを言って誰かに聞かれたらどうするだぎゃ!命が惜しいなら黙っとれい!」
むむむ、まったく猿は信じてくれていない様子だった。
だけど、言われてみれば僕達がいることで家康さんが天下を取るとも限らないかもしれない。
世界線が移動してとか、そういうのがあるはずだ。
もうすこしタイムスリップ関連について勉強しとくんだった。
「じゃあ、織田家で頑張るのでいいです」
「ほぉ……」
「ほらな、やっぱりダメだったろ。いや、私は分かってたぜ」
「そんなこと言って、慈円だってノリノリだったじゃないですか。ズルイですよー」
仕方ないのでこの話は流れる事となり、僕達は家康ルート的なのを諦める事となった。
そして、猿こと木下藤吉朗が帰った夜のことだった。
僕達はこの間のように三人で集まって作戦会議をしていた。
「大変なことになりました。転職は失敗、中間管理職の猿に握りつぶされました」
「というか、普通に説得されただけだがな」
「僕のゲーム知識的にですね、補正が入ると家康さんが天下取りルートに入ります。タイムスリップすると本来の歴史に近くなりやすいってゲームで習いました」
「修正力とかそんな名前の奴であるな。我輩、物知りであろう?」
弁慶はスルーして、そうなのです。
大事なことは何をどうしても行なわれるのが歴史というもの、例えば重要な発明を阻止する為に発明家を殺しても誰かが同じ時代に発明したりします。これは、その昔にエジソン暗殺実験で実証されてます。別の人が電気に関する諸々を発明したりしました。その後、タイムパラドックスが起きたのかエジソンの顔がライオンみたいになるという珍事件です。
「なので家康さんには生きて貰っては困るので暗殺します」
「おぉ、仕事か!仕事だな!よし、暗殺は得意だ任せろ!」
「張り切っておるが、大丈夫か?」
これも必要なこと、殿にバレないように補正が入りそうな家康さんには死んでもらうことにしましょう。
歴史を変えても結局誰かが天下統一すればいいので、織田信長が天下統一という歴史に変えることで将来の生活を安泰にするのです。
僕達の家康暗殺計画が始まった。