レシピ開放
それは唐突であった。
ふと手に取った火縄銃で、何かが作れる気がしたのだ。
その数、99丁。火縄銃、99丁を材料に何かを作り出せるそんな気がした。
初めて生産を使った時みたいにレシピのような物が頭に浮かんだのだ。
「どう思います?」
「やるしかないだろ、それは」
「分かりました」
慈円に話を聞きに言って、早速試してみようということになった。
一体、何が出来るのか……自分でも分からない。
それでも試してみようって事で城の中にある武器保管庫にやって来た。
「これで全部だな」
「では行きます」
そこで山のように火縄銃を積み上げて、実際に生産してみる。
すると、火縄銃の山は翳した手の先で、溢れるように光を発した。
そして、僕の手には見たこともない銃が置いてあった。
最近、気付いたけど自分のことを僕って言うのに違和感なくなってきたな。
「銃だな、スマートな火縄銃だ」
「鑑定してみましょう……おぉ!?」
手に持った銃の情報が頭に入ってくる。
ホィール・ロック式、引き金を引くと火蓋がスライドして黄鉄鉱が回転する歯輪に当たって火花を出し、その火花を火種として点火薬に着火して発砲する機構の火器。
「これは!火縄銃と違って火縄を使わないみたいです」
「ふーん、それで」
「それだけです」
「あんまり変らないなぁ、じゃあ元に戻そうぜ」
えっ、と慈円の方に向きながら思わず言葉にする。
だって、一度材料にしたらバラバラに出来ても元に戻せない。
どこに行ったのか、最初にあった火縄銃の量と材料の量が釣り合わないからだ。
分解した材料で作っても一丁の火縄銃しか出来ない。
「あぁ、じゃあ何か?戻せねぇっていうのか!」
「うぅ、怒らないで下さいよ」
「数より質って言っても限度があるだろ、どうするんだよ」
「いや、慈円だってノリノリだったじゃないですか」
そんな僕だけが悪いみたいないい方しなくても良いじゃないか。
それになければまた作ればいいんです。
何、材料なんてお金さえあれば幾らでも集められます。
「まぁ、それは置いといて何で亜利栖が知らない物を作れるようになったんだ?」
「さぁ、拡張とかアップデートでもしたんですかね」
「いきなりだろ、何か条件みたいな……変った事とかしなかったか?」
どうだろう、今までどおり火縄銃とか日用品とか生産していたくらいしかしてないけどな。
何か変ったこと、うーん……なんだろう。
僕達が保管庫で唸っていると、何故か入り口の方から弁慶がやってきた。
「おや、どうしました弁慶」
「うむ、二人の姿が見えぬと聞いて我輩は探しておったのだ。所で何しているんだ?」
「実験です。成功だけど失敗しました」
「なんだ、頓知か?」
今までの経緯を弁慶に説明する。
すると、弁慶は話を聞き終えてから何かに気付いたかのような反応を見せた。
「もしや、数が理由なのではないか?」
「数?」
「然り。火縄銃の全てがなくなったということは、所持数が99丁だったということだ。亜利栖が作った99丁目が今日作った火縄銃ということだろう。99と聞くと所持数限界のような気がするだろゲームみたいで」
「言われてみれば、今まで作った火縄銃が全部犠牲になっていました」
一個でも漏れることなく、作ったもの全てが材料になっていた。
そこで、僕の頭に衝撃が走る。たくさん作ることで、新しくスキルツリーが開拓されるように出来ることが増えることがある。
人はそれを熟練度という。
「弁慶、ナイスですね。早速、試してみましょう」
「ほぉ、何かに気付いたようだな。そこに気が付くとはやはり天才か」
「弁慶基準だとみんな天才ですよね」
試してみたいことがあったので、馬小屋に向かった。
馬小屋には干し草がたくさんあり、材料として使えるからだ。
干草の山に手を翳して、イメージするのは草履99個だ。
「生産!」
「草履だな、草履なんか作ってどうするのだ?」
「聞いたことがある。地蔵の頭に乗せることで後日お礼が貰える、そういう伝説がある」
「うむ……その地蔵はMなのか?それは笠地蔵のことを言ってるのか?」
外野がうるさいですけど成果はありました。
なんと、草履99個を材料にすることで何かが作れるように、感覚的に分かったのです。
すごい、やはり熟練度が上がることでレシピが増えるって分かんだね。
「分かる、分かるぞ!私は草履を生産するぞ!草履を超越する!」
「変なテンションで何か作り始めたぞ」
「うむ、いつもの病気である」
数多の草履の犠牲の上に、新たな歴史の一ページが刻まれるのです。
作れるものが増えるようになるなら、作るしかないよね。
そして、カポッという変な音と共に馬小屋の地面に作られた物が落ちた。
「下駄ですね」
「下駄だな」
「下駄だわ」
新しくできた物とは下駄であった。
藁を編んで作られた草履から、木材と布で出来た下駄が出来た。
なんか微妙である。
「しょうもないな、いやそうか!」
「何か分かったのか慈円」
「いいか火縄銃の進化系がホイールロック式なんだろ、それで草履の進化系は下駄って事だろ。つまり、発展する先を作れるようになるってことはだ。亜利栖がたくさん作ればもとマシな銃が出来るって訳だ」
「そこに気が付くとはやはり天才か」
いや、それって火縄銃がいくつ必要なんですかね。あと、材料の方も足りないかもしれないじゃないですか。
あれ、でももう最初から作れるような気がする。
「あぁ、なるほど。一度開放したら同じ方法じゃなくてもいいのか」
「なんの話だ?」
「いえ、こっちの話です。どうやら火縄銃の材料と火打石があればこの銃を量産できるみたいですよ」
「じゃあ残り98個、補充しないとな」
慈円が笑顔でそんなことを宣って来たので、僕は笑顔で誤魔化して逃げ出した。
しかし、慈円に回りこまれる。
「フハハハ、残念だったな。残業からは逃げられないんだぞ!」
「い、嫌だ!そもそも火打石だってそんなにたくさんある訳ないし、一日でやらなくたって問題ないし、というか僕は悪くねぇ!」
「おーい、火打石がとか言ってたから貰ってきたぞ」
「何やってんですかヤダー。弁慶、変に気を使わないで下さいよ」
前門の慈円、後門の弁慶、僕に逃げ場はなかった。
座った状態でひたすら単純作業を繰り返すことが決まった瞬間だった。
「終わったら農具とか服とか野菜とかもやってみよう。とりあえず99個集めるか、作れる材料持って来るんだろう?」
「水を集めたらミネラルウォーターになるのか?」
「水は水だろ、何言ってんだよ」
そんな次から次へと仕事を持ってこないで下さい。
もっと自由に、好きなことをやるゲーム出身なんですからミッションみたいな物を考えないで下さいよ。
「まぁ、単純作業もいいものだぞコンボ練習とか」
「まぁ、単純作業もいいもんだぞ射撃訓練とか」
「二人みたいなゲームじゃないんですから!僕だって単純作業は嫌いじゃないですけど僕のペースがあるんですから自由にやらせてくださいよ」
「でもお前、殿に銃がなくなったのバレたら滅茶苦茶怒られるぞ」
「しっー!急いで作りますから、秘密にしてくださいよ」
結局、一日の大半がなくなった銃の補填作業で潰れるのだった。