一夜城と無血開城
せっせと木材や石が運ばれてくる。こんなの使えるのかと思われるような廃材やいらなくなった農具などゴミと資源がごちゃ混ぜになって、ここ小牧山に運ばれていた。
美濃攻略の足がかりとして、お城を作ることになったからである。
小牧山という盛り上がった地形に作る城は自然の要塞ともいえる。高いところから低いところというのは防衛する上で重力が味方してくれるからだ。つまり、山って言うのは城を作るのに適している。
「そんな城を、僕が作らずして、どうする!」
「いや、もう図面作ったし」
「ええい、計画通りに作れるか!クラフターなめんなぁ!」
まずは背後に崖を用意して、梯郭式にする。梯郭式とは、後ろが崖、そして手前に天守や御殿のある中心区域の本丸、城主家族などの住居や重要施設のある区域の二の丸、それを取り囲む防御施設のある区域の三の丸を作る。
間には堀があり、今の予定では下に槍を用意しておく。一応、下から入れるようにしてメンテナンスも出来るようにしておく。
石垣は鉄筋コンクリートで作ってツルツルにすれば登ることすら出来ない。
堀などに傷を付けてそこから登ってくるかもなので石落としという張り出した部分を作る。ここから石を落としたり油やお湯を落としたりして防御が出来る。
あと、狭間と呼ばれる銃を使うための小さい窓を大量に作ることで一方的に攻撃できるようにする。
篭城戦の為に、井戸やお風呂、畑や保管庫も作っておく。
敵の見張り、攻撃、それを兼ね備えた鉄砲櫓を三階建てで構築、周囲を壁で囲って堀を作って総構えを構築、一応お城の中には隠し扉やカラクリを仕掛けておきます。
それと井戸の中に外に繋がる逃げ道を作っておいて、万が一兵糧攻めになっても大丈夫なようにしておく。
「カタパルトとか大砲もいいけど、一回きりになっちゃうからな。僕前提の物だと困るからな」
「こんな、予算も時間も足らんのじゃぁ!」
「安心しろよ猿、生産チートだから何とかなる。つうかラーメンの全部乗せみたいになってんなぁ」
「耐火性能も必要だろうな」
何、木材だと全部燃えてしまう?だったら石と一体化させてしまえばいいんだよ。
燃えて困る場所は石造り、平気な場所には木材で作ればいいんだよ。
暴れる猿を慈円が押さえつけ、結局はこのままの方向で進める事となった。
反対する声は聞こえないフリをして、材料だけ小高い山に集めて貰うだけである。
足りない物は、地面というか土地から流用する。
「もう吹っ切れました。全部仏パワーです、すごいなぁ尊敬するなぁ……」
「全部仏のせいにする気だぞ」
「うむ、ブッダはいいが寺社勢力がうるさくなるかものぉ」
そして、城作りが始まった。
本当に作れるのかと疑う者達、そんな彼らにまずは見てくれとお願いしまくる猿。
今か今かと待ち構える信者達、夕方の小牧山にたくさんの人が集まっていた。
「いきます!」
両手を合わせて、地面に手を付く。
すると、紫電が地面を走り集められた材料が光り輝いていく。
自分でもこんな風になるとは思わなかったが、もう止まれない。
目を開けてられないほどの光に包まれ、そして……
「おぉ、なんということじゃ」
「ひぇぇぇぇぇ!?」
「城が、できおった……」
気付けば、僕の考えた通りの城が出来上がっていた。
うむうむ、一夜にして城を作るとは流石チートである。
「おぉ、これが一夜城って奴か」
「敵もびっくりだろうな、自分の城の十倍はあるものが目の前に出来たんだから」
慈円と弁慶から賞賛の嵐に僕も少し照れる。
なんだか信者の人達が太鼓を叩いたり笛を吹いたり、勝手にフィーバーしてるけどいつものことなのでスルー。
猿にやらせてたら、こうはいかなかっただろう。
「では、猿が建てたということで」
「いやいや、困りますぞ!殿に次からもこの規模で頼まれたらどうするんじゃ!」
「作れたら作りますよ、でも忙しいときは任せた」
「無理じゃ無理じゃ、亜利栖殿も人が悪い!こんなの普通に出来るか!」
「えー、もう作ることが目的で作った後とかどうでもいいんですけど」
維持管理とか、利用方法とか、もう猿が好きにすればいいと思うよ。
目的も果たしたので僕は満足です。
まぁ結局、猿は殿に全部ゲロッた。
一日で出来るわけないだろ、と打ち首にされかけたらしいが実際に見せることで難を逃れたらしい。
でもって、僕がいたら城下町が直ぐにできるという理由で引越しさせられた。
そして、弁慶が城主に任命されたのだった。
僧侶が大名とか、日の本初ということらしい。
流石は殿である、反対意見は一睨みで黙らせていた。
何やかんやあって、この時代の人たちはオカルトが大好きなのか、祟りが怖いとか神仏の加護とかを理由に戦う前から城を見て降伏した。
そして、僕達の目的であった美濃はあっと言う間に攻略できてしまった。
よしこれから戦争するぞ、となっていたのに戦争なんか嫌だという厭戦空気が蔓延して最終的に始まる前に終わった。
降伏されて終わってから分かったことだけど、美濃の斉藤さんとやらは部下に裏切られて首だけになって殿に届けられたらしい。
「うむ、ここを岐阜城と名づけてここから天下を取る」
「おぉ、天下布武って奴だな」
「なんだ慈円、天下布武とは中々いい響ではないか気に入った。よし、亜利栖よ旗を作っておけ、天下布武とな!」
視察に来た殿も上機嫌で、へんな依頼をされたくらいだ。
そして、小牧山を中心に城下町を作ったりと忙しい日々が訪れる。
もうあれだけ嫌だったのに、クラフターの血が作業してないと落ち着かないようになってしまった。
ブラック企業の企業戦士、社畜って奴だね。
お城を作り、美濃を領土にしたら今度は寺社勢力が暴れだした。
一向宗といって仏の国を作るぜとかいうテロ組織だ。
慈円が言うには平成という時代にも似たような宗教国家を作るためのテロリストがいたらしい。
「さぁ、実戦だぞ!良い仏教徒は死んだ仏教徒だけだ。奴等は死ぬとハッピーらしいからな、救いを与えてやるぞ!」
「さー、いえっさー!」
「よし、行くぞニンジャ部隊。この実戦で、我が忍者軍団が最強であるとほかの喇叭や草の者に見せ付けてやるぞ!風間や伊賀が何だってんだ、尾張忍軍が一番じゃなきゃダメだからな!」
そんな彼らは、バレないように日夜一向宗を襲撃していた。
遠くから火縄銃で狙撃したり、焼き討ちしたり、当然疑いの目を向けられるが目撃者は皆殺しとかいう恐ろしい理由で隠蔽されていた。
昔は当たり前だったらしいので仕方ないみたいだ。
「特殊部隊を見たら死ぬしかないだろ、秘密なんだからな」
「でも、関係ない人とか改宗したい人は助けてあげましょうよ」
「それは弁慶が偶に説法して改宗してるから別にいいだろ」
文句を言いに来た一向宗の人達が次の日には死体で発見されるんだから疑いが強くなるのは仕方ないよね。
でも、証拠はないし偶々辻斬りにあったんだ、そういうことにしている。
亜利栖教の者達が天罰だとか辻斬りを見たとか噂話で情報操作しているので、今の所は大丈夫だと思っている。
あと、基本的に仏を信じているので一向宗から亜利栖教に改宗、その後は僕から仏パワーを感じて仏を信仰という謎論理が発生するのだった。