私は、神だ……お前だったのか
庭にはたくさんの人が行き交っていた。
というのも、大きな荷物を庭に運び入れていたからだ。
僕達は信長さんの近くでその様子を見てから、部屋に入って会談をするのだった。
畳の敷き詰められた部屋、そこで少しだけ高くされた床に信長さんの席がある。
ちょっと高いところにいるから偉いんだよ、と分かりやすく視覚化しているのだと思う。
堺の商人さんとやらは、三人ほど信長さん前に胡坐になって待っていた。
後ろには僕達に似た南蛮人が同じようになって待っている。
そこへ、僕達と信長さんが遅れてやってくる形で会談は始まった。
僕達がやってきて、信長さんの後ろに控えるように座ると座ったまま堺の商人さんが前に出る。
そして、胡坐をしたままで両手を床にくっ付けて頭を下げた。
不思議な体勢で長々と挨拶をした彼は、目録とやらを信長さんの部下に渡して、部下経由で本日はこういう物を持ってきましたというメモを渡した。
直接渡せばいいし、言葉で言えばいいのにと思うが、直接渡しちゃいけない形式とか確認がしやすいように目録を渡すとかルールが色々あるらしい。
「うむ、大儀である」
鷹揚に嘯く信長さんに頭を下げて恐縮する商人達。
どうやら今回の買い物はお気に召したらしい。
そして、いよいよ僕達の出番がやってきた。
最初に口を開いたのは目録を見ながら肘掛で頬杖を付いた信長さんだった。
「これだけの物をよく集めた。そこで折り入って頼みたい、種子島を追加注文だ」
「それは真でございますか?」
「あぁ、詳しい話は亜利栖が引き継ぐ」
まさかの丸投げにとにかくスマイルで対応する。
村の人から学んだけど、困ったら笑えばだいたいなんとかなるよね。
ごめんね、子供で南蛮人で……お互いに困った顔になっちゃうね。
まぁ、前もって南蛮との繋がりを得るように言われているので、自分で判断していいということだろう。
「僕は日本語と南蛮の言葉に通じております。本日はよろしくお願いします」
「はぁ、これはご丁寧に」
「前もって殿からの要望ですが、百丁ほど所望しています」
当然その場の嘘なのだが、まぁ大した金額でもないだろうしキリがいいだろうからと要求してみた。
信長さんが求めているのは上手い交渉であり、僕達の役目は普通以上に銃を手に入れることだと思う。
そう思っての発言だったのだが、信長さんと商人はすごく驚いていた。
「百丁でございますか!?」
「別に対した金額ではないですからね」
「う、うむ。そうである」
信長さんと僕へと視線が泳ぎまくる商人。
あれ、なんか凄いこと言ったのかな?もしかして、レトロだから銃って高かったりするのかな?
そういえば、この世界には工場なんて無いから大量生産じゃなくて受注限定品だった。
ってことは凄く高いじゃないか、それを百丁って結構ヤバイこと言ってたな。
「しかし、殿は出来るだけ安く仕入れたく思っております。というのも戦をするために金が掛かるからです」
「へぇ、おっしゃる通りですね」
「そこで貴方の部下である南蛮の方と直接取引させて頂きたい。仲介料などを得ていた貴方としては面白くないでしょうが、それは何らかの形で補填しますので」
僕は南蛮との繋がりを得て、同時に安上がりな買い物をする一石二鳥の提案をした。
まぁ、仲卸業者を挟まない事が安くする秘訣というのは常識だ。
本来なら通訳などで必要だったと思うけど、僕達は何故か喋れるから、この仲卸業者のオッサンは不要なのだ。
「そのような話は飲めませぬ!如何な形で補填するか分からぬのでは、此方の商売も成り立たなくなりましょうぞ!」
「その点に付きましては後々に殿とお話しください」
補填に付いては明確にしたいけど僕じゃ何が出来るか分からないからね。
さて、その件の南蛮人と話すとしようかな?
佇まいを直して、南蛮人の人に向き直る。
「こんにちは」
「ッ!?」
僕の声に、頭を下げていた南蛮人の人達が驚きを露にして顔をあげた。
その様子に商人も驚き、信長さんは小さく笑う。
どうやら話せるとは本当に思っていなかったらしく、それを覆される様を見てしてやったりと信長さんは笑ったようだ。
性格悪いな、イタズラ成功みたいな感じかな?
「君は、私達の言葉が分かるのか?」
「はい。言語解析ツールが生きてるのか、喋れますよ」
「何を言ってるか分からないこともあるが通じるには通じるか」
何で子供がこんな所にと思っていた時に、南蛮人である自分達と喋れる人間とのことで納得したのかあっさり受け入れられた。
商人の方を見てみれば、あまり分かった様子もなく完全に通訳は出来ていないようである。
よく、仲介とかやってたな……
「まぁ、それでは商談の話をしましょう」
「商談……何か粗相でもしてしまったのか?」
「いえいえ、殿は大喜びですよ」
僕の言葉に安堵する様子が垣間見れた。
まぁ、緊張していたのかもしれない。
そんな彼らに追加注文の話をしてみる。
「それは願ってもない話です。私達には他のポルトガル人のように繋がりがありませんので。知り合いの知り合いを通して今のような取引が出来てますが、仲介の手間と資金には難儀してました」
「やっぱり、仲卸業者みたいなのだったか」
「しかし、火縄銃を輸入するにしてもそれほどの数は難しいです。幾つかなら可能でしょうが輸入出来る数が足りない。他の物でしたらなんとかなりますが」
あぁ、海外でもそんなに銃はないのか。
火薬が足りなくなるだろうしたくさんは買えないよね。
「うん?なんだ、終わったのか?」
「殿、種子島ですが多くは輸入出来ないそうです」
「うむ、であるか」
「その代わり、他の物でしたらなんとかなるそうです」
例えばどんな物があるのかと聞いたら、野菜の種とか皿とか陶器、奴隷から地球儀と多種多様だ。
えー、奴隷とか扱ってるの?いつの時代の、って昔の人だから普通なのか。
「何、奴隷だと?」
「殿、恐らく我輩のような者達であろう」
「牛のように肌の黒い者達か!」
僕達の時代でも種族が虫とか魚で差別する人がいた。
そんな風に、この時代では肌の色で差別があるらしい。
まぁ、でもそんなこんなで取引はすることになったよ。
火縄も欲しいけど、地球儀とかブーツも欲しかったみたい。
信長さん新しい物が好きだからね、ファッションリーダーって奴なんだろう。
商人の方は何か免税とかをしてあげるとかで補填していた。
商売関係で役に立つのだろう。色々と抜け道がありそうで細かい決め事までしてたけど政治の話は良く分からないね。
僕達は難しい話をしている信長さんと商人達から離れて、南蛮人の人達と話すことになった。
南蛮人がいると困るような話をするんだと思う、だから退室させられたのだ。
南蛮人さん達はポルトガル人とやらで、基督教とやらの布教もやっているらしい。
そのせいか、似非僧侶の弁慶との話が弾んでいた。
僕の話なのが恥ずかしくて仕方ないけど、やめて僕のライフはもうゼロだよ。
「にわかには信じられないな」
「では、実際に見せて見せようではないか」
えっ、何の話だよ。
と思ったら毛皮を渡されて、コートにしてくれと弁慶に言われた。
恐らく、生産を使って奇跡を演出していることを話したんだろう。
「生産」
毛皮単体が大きかったので、整形するだけで簡単な毛皮のコートを製作した。
毛皮が、僕が持って生産を使った瞬間に輝きながら形を変えたことに当然ながらポルトガル人の人達は驚いた。
驚いて、涙を流しながら、平伏。
うん、なんか知ってた。
最近そういう反応ばかりで慣れて来たなぁ。
と、僕は虚空を見ながらそう思うのだった。