ブラッドロード
ガルディオスと呼ばれる生体兵器によって、荒廃した日本。ガルディオスに対抗すべく奮闘する政府、軍。そして、ある目的を持って動く、二人組の暗殺者の少女がいた。
こちらはテーマ短編とはまた別の作品。ジャンルはローファンタジーです。
今日が何月何日なのかも、よくわからない。自分の年齢すら、大体十五歳くらいということしかわからない。わかるのは、自分の名前が黒川咲だということ。ガルディオスと呼ばれる生物兵器によって世界は荒廃し、十五年でできた知り合いのほとんどが帰らぬ人となったこと。それと、一緒に行動している少女――歩積ゆきと一蓮托生であるという、ただそれだけ。
政府や軍がガルディオスに対抗して何やら動いていることは知っている。でも、それが具体的に何なのかは、私にはよくわからない。ブラッドロード……とやらが関わっているのだけ、何とか理解できているだけだ。そのような世界の中で私たちはブローカー――通称代理店から依頼を斡旋してもらって動く、暗殺者だった。だったというのは、代理店との連絡を絶ってから早三ヶ月が過ぎようとしているからだ。
私は、ただ荒廃した世界への絶望から、暗殺者への道へと踏み込んだだけ。でもゆきは、まだ十歳という若さであるにもかかわらず、目的があってこの道へ入った。生き別れた兄を探すため、少しでもガルディオスを研究しているという兄へと近づくため。その目的を達成するために、私はゆきについていくだけ。それが今の私の生き甲斐。ゆきだけが、私の生き甲斐。私の全てなのだから。
「咲ちゃん、なかなかお兄ちゃんのいるっていう大学にたどり着かないね」
「そうね。さりさんの話では徒歩で二ヶ月もあればって話だったけど、途中の道にガルディオスがうようよしてるから」
服毒の翠玉という異名のある、毒殺を得意とする医学生の主要ワーカー、高階さり。彼女の通う大学に、偶然にもゆきの兄が通っているという。その話を聞いたゆきは、躊躇することなく代理店から縁を切り、私を連れて飛び出した。
原則として戦闘は避けてはいるけど、そのために裏道を利用しているので、なかなか目的の場所へとたどり着かない。どうしても避けようのない事態になれば、二人だけでガルディオスを倒さなくてはならないのだし。これまで何体ものガルディオスを仕留めてきた獲物をそっと撫でると、無機質なつるつるとした感触が帰ってくるのみだった――。
「咲ちゃん! 左!」
ゆきの叫び声。それに反応して、矢をセットしながら振り向く。ここまでの手際で動けるようになったことを、果たして喜んでいいのだろうか?
「ゆき! 上!」
懐の日本刀を抜きながら駆けるゆきの頭上から、黒い触手が高速で降り注いでいた。今私たちが相手をしているのは、ガルディオスの中でもイグサリアと呼ばれる、背中から生えた硬度を自在に操ることのできる触手と、超装甲を誇る、動物型の怪物だ。基本的に物理攻撃が通用せず厄介な相手だが、エネルギー消費の激しい奴への補給を担当している植物型のガルディオス――イグサシスが近くにいるはずだ。そいつさえ仕留めれば、イグサリアは動けなくなる。でもその前に、このしつこいイグサリアの触手攻撃を凌がなくては……!
ゆきへと飛んだ触手は、ゆきが自力で避け、刀で切り落としていた。しかしガルディオスは再生能力が高く、その場しのぎでしかない。そんな戦いを続けていたら、こちらばかりが消耗してしまう。イグサシスはどこなの!?
「くっ……」
触手がこちらにも迫ってくる。こいつの触手に対して矢はほとんど無力だ。狙うのは……。
「ギエエッ」
よし、成功! イグサリアの右目に矢が命中して、触手の攻撃が怯む。今のうちにもう片方の目も潰す!
「ちっ」
やはりうまくはいかないか。やつの頭部にある背中のとは異質の触手が火炎を放出して、爆発で矢を吹き飛ばされた。先ほど潰した右目も、もう回復の兆しが見える。ゆきは……ゆきは今どこに……?
「咲ちゃん! やつの尻尾を切り落としたから、今のうちに……キャアアアッ」
尻尾にはレーダーとなる器官が着いているため、切り落とせば一時的にこちらの攻撃が察知されなくなる。でも、ゆきのいる尻尾跡目掛けて、イグサリアの頭が突っ込んだ。頭部の触手は、背中のよりも殺傷能力が高いんだ。
「あれは……お願い、間に合って!」
ゆきはもはや迎撃する余裕もなく、腰に提げた私の脇差しを握っていた。私とペアで交換して持っている、お互いの形見である脇差しを。死ぬときはこの小刀を握って死のうと誓った、あの脇差しを――。
「ギェエエエエアアアアッ」
頭の触手がゆきに触れる直前、イグサリアが呻き声をあげながら動きを止めた。首の裏に潜んでいたイグサシスを矢で射ったことにより、エネルギー供給が止まったのだ。
「これでとどめ!」
だめ押しとばかりに、イグサシスへ更に三発ボウガンを発射する。イグサシスの再生能力を上回る攻撃によりイグサシスが弾け、イグサリアもエネルギー切れで崩れ落ちた。何とか立ち直ったゆきに首を切り落とされたが、再生するエネルギーが残っていないのだから、もう死んだと捉えて良いだろう。
「はぁ、はぁ……ゆき、大丈夫?」
フラフラと歩み寄ってきたゆきは、見たところ外傷はなさそうだが、私に抱きつくとガクリと脱力した。
「咲ちゃん……怖かったよおっ」
「よしよし、もう大丈夫だからね」
「うえええええん」
暗殺者への道へと踏み込み、驚異的な早さで暗殺術を身につけたゆき。でも中身は、十歳の少女なのだ。かくいう私だって、今も膝が震えているのだ。
「ねえ咲ちゃん、いつもの元気になるおまじない、して?」
ゆきは涙目のまま顔を上げて、そっと目を閉じた。私はガルディオスの残骸を他所に、赤い唇へそっと口づけ、何度か触れるように繰り返してから、上唇、下唇と強く吸った。ゆきの顔に少しずつ赤みが戻り、そしてゆきの方から舌を差し込んでくる。その舌に自分の舌を絡め、引き寄せ、吸い上げる。
「んっ」
ゆきの口から、微かに声がこぼれる。もっと聞きたい。その一心で、舌をまさぐり、絡め、吸い上げる。ゆきが強く抱きついてきて、全身にゆきの体温を感じる。ゆき、今日は一段と熱いよ。
「ぷはっ……どう? 元気になった?」
「えへへ、もう大丈夫。ありがとう、咲ちゃん」
「いいのよ。私だって、その、好きだし」
その一言で、ゆきの顔がまた一段と赤く染まる。ゆき、本当に好きだよ。ゆきを直に感じられる、この瞬間が。永遠にこの時間が続けばいいと思うくらいには、好きなんだよ――。
「あっ咲ちゃん! 向こうに見える建物って、もしかして……!」
今のガルディオスとの戦闘で、ここら一帯の建物は全て崩壊してしまっている。遮るものがなくなってみると、目的の大学は意外と近くにあることがわかった。
「きっとそうよ。じゃあ、矢を回収したらさっそく向かいましょう」
「うん! 私も手伝うね!」
ついに、目的が果たされる瞬間がすぐ目の前へと来たのだ。ゆきの願いが叶うのが喜ばしいはずなのに、二人きりの時間が終わってしまうと考えると、少し心細かった。
当時所属していた大学の文芸サークルでの『共通の世界観で各々が書きたい話を書く』という企画で書いたものです。主人公の妹とそのパートナーが主人公に合流する前の話なので直接本編には関わりのない話ですが、この話単体で理解できるようには書いております。
というか本編は結局執筆されずじまいなうえ、設定を所有していた元部員は現在音信不通、更に企画から二年半以上経過しているため、本編や詳しい設定、主人公については何一つ覚えてないですが。




