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TRUMP  作者: 四季 華
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第1章

ハンドルネームの由来になった主人公が登場する小説です。拙い文章ですが、どうぞ。



 この世界には妖達が蔓延っている。

 そう口々に伝えられたのは、今より何代前の人間達までだっただろう。

 今や人々は妖を畏れることなく、非科学的なものとして笑い飛ばす。いるはずない、と。

 廃れていく現代において、その店は時代の流れに逆らって存在していた。

『四季文房具店』

 又の名を、妖万屋。

 ひっそりと建つ古ぼけた文房具店に、救いを求める人や妖は少なくない。


「いらっしゃいませ」

 彼女が店の中に入ると、長身の男性が彼女を迎えた。百八十センチ後半はあるだろう。短めの黒髪は艶やかで、女性から見ても羨ましい。顔立ちも整っているし、何せ雰囲気が良い。優しくて柔らかい風貌だ。眼鏡の奥の目は人に不快感を与えさせない。

「あ、あの、ここって、妖怪の相談聞いてくれるって文房具屋さんですよね?」

 彼女が恐る恐る尋ねると、長身の彼はにっこり笑ってカウンターの中に入るように身振りをした。

「はい。そのようなご相談はこちらで承っております。どうぞおかけください」

 今時珍しい開業文房具店にはおおよそ似合わない、モンブランやウォーターマンの万年筆やボールペンが並ぶカウンターの奥には、左手に階段、右手に仕切りが立っていた。階段はこの店の外観からするに、二階へと続いているのだろう。居住スペースが見て取れる。

 店員は仕切りの奥へと彼女を招き入れた。そこには、二人掛け用のソファが二つ、対になっていて、真ん中にはテーブルが置いてある。テーブルの上には何故か世界史の教科書とノート、シャーペン消しゴムが散乱している。

「失礼しました」

 店員が急いでそれらを片付ける。手際が良い。それらを一所にまとめると、彼がソファを勧めた。

「コーヒーと紅茶、どちらがお好きですか?」

 声の響きが爽やかな人だ。彼女はその余韻に浸りながら、「コーヒーです」と答えた。

 彼女がソファに座ると、店員はテーブルの上に置いてある電話の受話器を取った。

「コーヒーをお願い」

 受話器を置いた彼は、自分もソファに座った。体のせいでソファが小さく見える。

「申し遅れました、私、文房具屋の店主をしております夏輝なつきと申します」

夏輝が小さく会釈する。

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「あ、私、江乃さやかと言います。大学生です。噂を聞いて、ここに来ました」

「ご足労いただき、ありがとうございます」

 初対面で、しかも内容が内容だけに緊張していたが、この人はそんな気持ちをほぐしてくれるような柔和な雰囲気を纏っている。

「依頼、なんですけど」

 さやかが話を切り出そうとすると、そこへラジコンの車がやってきた。上に、ソーサーにのったコーヒーを乗せて、安全運転で停車する。

 夏輝が困ったように笑う。

「どうぞ」

「かわいいですね。弟さんですか?」

「いえ、血は繋がっていませんが、弟みたいなものです。本当は私が居候なんですよ。私は四季家の人間ではありませんので」

「そうなんですか」

「ええ。そう、依頼の話でしたね」

 話の筋を夏輝が戻す。そうだ、私は依頼を持ち込んだのだ。

「そうなんです、聞いていもらえますか?」

「流れを断ち切るようで申し訳ないのですが、その前に一筆戴きたいのです」

「一筆?」

 夏輝は近くにあったファイルから紙を一枚取り出して、さやかの前に置いた。そこには、「誓約書」と書かれていた。

「重く捉えないでください。あくまで事務的なものですから。内容は簡単ですが、少しわかりにくい話かもしれません」

「?」

「誓約書の内容を掻い摘んでお話しすると、私は店主ではありません」

「え? でも・・・・・・」

「文房具屋の店主は私なのですが、妖関係になると、私はただの助手になります。妖関係の店主は別にいます。ですが、信用の置ける人ですから、安心戴いて構いません」

 弟の話然り、今回の話然り唐突で驚いたが、彼が言うのだから本当だろうし、大丈夫だろう。解決してくれるなら、どんな人でも構わない。

「それで、その店主がどんな人でも構わないか、ということを確認したいのです。続きは調査のために家に伺ったり協力をしていただくという内容です。こちらは流し読み程度で問題ありません」

 どんな人でも構わないと今思ったところだ。内容をざっと見て、特に問題はないのでサインをした。

「その店主なんですが、いつもならこの時間はいないのですが、今日はいるので呼んでもよろしいでしょうか?」

「はい」

 店主に直接話せるのならば手っ取り早い。さやかは勢いよく返事をした。

 夏輝は先程コーヒーを催促したのと同じように電話を取り、今度は誰かを呼んだ。すぐに階段を誰かが下りてくる。

「どうも、四季文房具店の副店主、四季春一しきはるいちです」



 さやかは驚いた。彼の全てに。それと同時に後悔の波が押し寄せてくる。間違った門を叩いてしまった―。

「大丈夫すか? 固まってますけど」

 春一と名乗った少年がさやかの顔を心配そうに覗き込む。さやかは彼をもう一度よく見直した。

 茶色く染められた髪は立っていて、左サイドに三本の銀色メッシュが入っている。左耳にはピアスが二個開けられ、丸いピアスがつけてある。白いワイシャツはボタンを二個外し、黒と白のチェック柄のネクタイは緩くだらけている。一言で言うならば、不良だ。

「えー、と。どうしようこれ」

 彼の顔をまじまじと観察すると、まだ幼さが残っていた。目は垂れているのか力が抜けているだけなのか。やる気が感じられない。

「あー、聞いてます?」

 春一に再び問いかけられると、はっと我に返った。いけない。品定めをしているような顔になっていたかもしれない。

「俺が妖系の店主ってことなんで、よろしくお願いします」

 春一が小さく頭を下げると、夏輝がラジコンカーを指差した。

「ハル、あれは何ですか」

「ラジコン」

「それはわかります。何故あれでコーヒーを運ぶんですか。お客様用ですよ」

「いや、ちょっとでも楽しんでもらおうとね。俺の運転うまくなかった?」

「そういう問題ではありません」

「小さいことをがみがみとうるさいな、お前は。小姑か?」

 目の前で繰り広げられる会話を気にしながら、さやかは口を開いた。自分から言わないと終わりそうにない。

「えと、春一、君?」

「はい」

「いくつ・・・・・・ですか?」

「十七です。華の高校二年生ですよ」

「高校生っ?」

 驚きすぎて声が裏返ってしまった。

「それ」

 春一が指差す先には、さっき夏輝が片付けた世界史の教科書があった。世界史を学ぶのは高校生だ。

「俺が子供だとみんな信用してくれないんで、誓約書を書いてもらってるんですよ」

 子供だからだけじゃない気がする。

「でもまぁ、諦めて全部話してください」

 不吉な言い回しをする春一に、最初は慣れなかったが、時間が経つと段々飲み込めてきた。普通の不良よりは真面目そうな印象だし、夏輝が隣にいるから何かしらのバックアップはしてくれるだろう。さやかは話すことを決めた。

「五日くらい前のことです。大学から帰ってる途中に、突然妖怪に追いかけられて・・・・・・。その時は自転車に乗っていたから振り切れたんですけど、その後恐くて。今は友達に送り迎えを頼んでますけど、そろそろ心苦しくなってきて」

「何故妖怪だとわかったんです?」

「だって、身長がすごい高くて・・・・・・多分二メートルくらいあって、巨人みたいな化け物だったから。暗かったし恐かったから顔とかは見てないけど」

 その時を思い出して、さやかがぶるっと身震いする。それを見た春一は、「思い出させて申し訳ありませんが」と断ってから夏輝を立たせた。

「夏、身長何センチだっけ?」

「百八十七センチです」

「何食ってんだよ。さやかさん、コイツよりどれくらい大きかった?」

「それより二十センチくらいは大きかったかな。体全体が大きくてプロレスラーみたいな感じだったから、すごく大きく見えて・・・・・・」

「そっか。さやかさんの周りでそういう被害に遭ってる人とかいる?」

「少しはいるみたい。何か、通り魔みたいな感じになってて、大学じゃ噂になってるの。でも、そんな妖怪の話なんてしても信じてくれないから、多分留まってるんだと思う」

「成る程ねー」

 そこで春一が一息置いて、さやかを真っ直ぐから見た。

「さやかさん、結論から言うけど、妖怪はいるよ。まぁ信じなくてもいいけどね。で、妖怪の中にはさやかさんが言うように殆ど化け物みたいなやつもいるし、人間と見分けがつかないのもいるし、妖精みたいのもいる。でも、共通してるのは、妖怪でもちゃんと『心』は持ってる。理性は持ってるし、欲望も持ってる。考えることは人間と一緒。さやかさんを襲おうとした妖怪も、思考的には人間と思ってくれていい。そこで妖怪と人間が違ってくるのは、妖怪は何かしら能力を持っていること。何百年も生きてるのだっているし、変化できるのだっている。多分そいつは膂力が強いやつだ。俺や夏は妖怪の気配を感じ取ることができる。『妖気』って言ったら良いのかな。人間と妖に関われるからこそ、こうやって用件を請け負ってる訳。けど、さっきも言ったように思考的には人間と一緒。『妖怪』っていう先入観を取り払って見て欲しい」

 妖怪の説明を終えた春一は、ソファに背を預けて何かを考えていた。

「妖怪にも種類があってね。人間で言う国籍とか民族的な。さやかさんが言ってる妖怪も、種類に心当たりはあるんだ。だけど、その中からどう個人を見つけるか・・・・・・が鍵。失礼」

 春一は一言断って、携帯電話を取り出した。どこかへ電話をすると、手短に用件を話して切ってしまった。

「さぁ、動こうか」

「どこに行くの?」

「とりあえず、散歩」



 店を出た春一とさやかが二人で散歩をしている。店から大学、そして彼女の住んでいるアパートが近いため、移動は徒歩だ。てっきり夏輝も来てくれると思ったのに、店番があると言って来なかった。春一と二人だと、正直恐い。さっき通りすがりの不良にガンを飛ばされたのは確実に春一のせいだ。

「歩きやすい季節になったね」

 当の本人は呑気なものだ。確かに梅雨も明けて歩きやすくはなった。けれど、そんなことを喜んでいる余裕はない。

「この辺りで追いかけられたの」

 さやかが言うと、春一はそこに立ち止まって辺りを見回した。民家とは壁で隔てられて、何もない。ただ道路があるだけ。この辺は道路が複雑に折れ曲がっているから、一本道ということはない。だが電柱に取り付けられた電灯は見るからに頼りなく、道路は暗いであろうことが知れた。

「道が複雑でしょ。だから、逃げれたの」

「逆に言えば、その分犯人も身を隠せたんだ」

 春一が再び歩き出しながら、キョロキョロと辺りを見回す。視線の先には、ここ数珠市が構える数珠大学があった。

「帰りは何時くらい?」

「その時々で違うけど・・・・・・六時から七時くらい。あの日はサークルで遅れて、八時近かったかな」

「じゃあ待ち伏せたり、さやかさんだけを狙った犯行の線は薄いね。ねぇ、通り魔みたいって言ったよね? 最近出てるの?」

「さぁ・・・・・・被害者がウチの大学生らしくて、学校内ではちょっとした噂になってる。でも、警察に届けるような被害は出てないし、それこそ私が二件目とかだと思うから、まだ大きくはないよ」

「ふ~ん」

 その後春一はさやかをアパートまで送り、帰った。進展があり次第連絡をくれるとのことだ。

 春一を信用していいのかはわからないが、今は藁にも縋る思いだ。彼に頼る他はない。しかし、もうちょっと信頼を得ようとする態度を見せてもいいのに・・・・・・。

 さやかの中でそんな思いが渦巻いたが、それは気にしないことにする。


「情報は?」

 家に帰ると、夏輝が店仕舞いの支度を始めている所だった。春一が開口一番言った。

「来ています」

 夏輝がノートパソコンのメールフォルダを開くと、いつも情報の提供を頼んでいる情報屋からのメールが何件か入っていた。春一はそれを読みながら、指で髪の毛をいじった。

「もう一人の被害者は数珠大学の三年生、場所はさやかさんのアパートとは反対か」

 どこから仕入れてきたのか、情報屋のメールにはそう書いてあった。その後には詳しい犯行場所と被害者のプロフィールが書いてあった。

「コイツ、計画性があるのかないのかわかんない」

 春一が顔を歪めながら吐き捨てた。

「何故です?」

「コイツさ、自分が妖怪だと顕示してるんだよ。デッカイ体を隠そうともせずに。寧ろそれを使って。相手が化け物だとわかれば警察は相手にしないと踏んでそうしてるんだろうが、その割に被害者は無差別だし、犯行現場も時間も違う。初犯を行った後に無理やり計画を立てたんだろうな」

「それで、どうするんです?」

「犯人? そりゃ勿論、捕まえるよ」

「どうやって?」

「張り込みかなぁ。あんぱんと牛乳あったっけ?」



 張り込みを開始して四日。夏輝は車の中で欠伸をかみ殺した。最近日が長くなったとはいえ、もう暗い。それに加えて、やることが何もなければ眠くなる。張り込み中なのだから読書をするわけにもいかない。

 この張り込みを思い立った春一はあんぱんを食べながら牛乳を飲んでいる。全部右手で行うから器用だ。左手には双眼鏡を持って、覗き込んでいる。彼は形から入るのが好きだ。

 張り込み場所は大学から数十メートル離れた所。ちょうど細い路地があって車を入れられるため、そこにしている、とにかく大学から離れないようにするのが目的だった。

「夏!」

 眠気の残る意識の中をたゆたっていたら、春一の声が響いて醒めた。

「そのままそこにいろ! もうすぐ犯人が来るぞ。歩いてきてる。前には大学から出てきた姉ちゃんがいるけど、まだ動く気はなさそうだ」

 春一の声に、少し身を硬くする。

「そろそろ見えるはずだ」

 春一が再び言う。すると、夏輝にも人影が見えた。本当に大きい。身長二メートルを越えるプロレスラーというさやかの証言はとても的確だ。

 少しすると、春一が言っていた女子大学生が車の前を通り過ぎた。

 その瞬間、天から声が降ってきた。

「お兄さんどいてー!」

 突然の声に視線をめぐらせる妖怪の上にものすごい重力がかかる。いきなりのことで耐え切れず、首を変に捻ったまま倒れてしまった。

「どいてって言ったのに」

 溜息をつく春一は、今しがた飛び乗った妖怪の上からぴょんと飛び降りる。今まで夏輝と話していた携帯を閉じて、ポケットに仕舞う。

この騒ぎに後ろを振り返って悲鳴を上げかけた女子大生を夏輝が保護する。「趣味で映画を撮ってまして。ご迷惑をおかけしました」と嘘をつく。

「お前、どこから!」

 急いで起き上がろうとする妖怪を春一が見下ろす。その顔は憎たらしいほど笑顔満面だ。

「上から」

 春一は人差し指を上に向けた。妖怪は何のことかわからずに身動きが少しの間止まる。

「一回登ってみたかったんだよね、電柱」

 その言葉に、夏輝が溜息を挟む。彼は狙われていた女子大生を逃がし、春一からパンと牛乳のゴミ、そして双眼鏡を受け取った。

「さぁ、お兄さん、言い訳はなしだよ」

 しかし妖怪は起き上がり、その壁のような体で春一の前に立った。

「今なら逃がしてやる。痛い目見たくないだろう?」

 凄みを利かせて体で威圧をかけるが、春一は動じない。

「すっげぇ、夏よりデカイ人初めて見た。あ、人じゃねぇ」

 相手を馬鹿にしているとしか思えない態度で、妖怪に相対する。あははと笑いながら夏輝と妖怪を見比べている。

 それが面白くなかったのか、妖怪はずいっと体を前に出した。威圧が強くなる。

「お前、どうなっても知らないぞ」

 妖怪が言うと、春一はやっと笑うのをやめて、彼に目を向けた。その目はとても冷たく、見るだけで人を震え上がらせるような鋭い視線だった。

「その台詞、そのまま返してやるよ」

 言った瞬間、春一が妖怪の視界から消えた。素早い動きで妖怪の懐にもぐりこむと、強烈なボディを妖怪に叩き込んだ。

「・・・・・・ッ」

 声が出ないほど息が詰まり、自分の巨体が地面から浮く。何という衝撃だ。

 寸での所で意識が跳ぶのを踏みとどまり、倒れるのも堪える。だが膝は曲がっている。

 残りの気力を使って春一を睨むと、彼は手に何かを巻いていた。包帯くらいの太さで、黄色いナイロンのような地に、梵字を草書体で書いたような見たこともない字が書いてある。

「お前くらいのしょぼい奴じゃ知らないか。これは上等な術者のみが着けれる、最高最強の呪符だ。普通の打撃じゃ妖怪には効かないが、これを着けてれば話は別だ。今の俺とお前の膂力は対等だと思え。・・・・・・この文字は適当に書いただけなんだけどね。何か、ポイじゃん」

 春一は再び速い動きで妖怪の右手に移動する。今度こそ捕まえてやる、と妖怪が目で追うと、首が途中で止まった。

「さっきの、効いてて良かった」

 体ごと春一に向けようと思ったときには遅かった。唸りを上げた春一の右ストレートが妖怪の顎を砕いた。妖怪はあっけなくその場に倒れ、そこから動かなくなった。

「夏、どうしよう」

「何か問題が?」

「倒しちゃったけどさ、俺こんな大きい人起こせないよ。うん、体デカイんだからお前やれ」

「私も体力に自信があるわけではないのですが」



 結局二人がかりで気を失った妖怪の体を起こし、車がある路地へと連れて行った。

「夏、呼んで」

「わかりました」

 夏輝がどこかへと電話をかける。手短に用件を言って、切る。

 妖怪の世界にも、秩序というものはある。人間が組織や世界を成しているように、妖怪にもそれに准ずるものがある。

 妖怪には大雑把に分けて二種類いる。ひとつは人間と同じように生活する類のもの。外見も中身も極人間に近い。そしてもうひとつは、人間とは離れ、森や海で暮らすもの。妖怪というよりも妖精といった方が聞こえはいい。

 そして妖怪はそれぞれに能力を持っている。今回で言えば、怪力だ。すると、その能力を使って悪事を働いてやろうという不逞の輩が出てくるのは当然といえば当然であり、それに対するため、枢要院と呼ばれる警察のような組織があるのだ。

 妖怪内の揉め事ならばその組織が出てくるのだが、そこに人間が関わってくると彼らも妖怪だけに動けない。そういう依頼が春一の所へ入ってくることもある。しかし春一としては規則に縛られた組織とは反対の性格をしているため、あまり好んで接触を持たないばかりか寧ろ不仲がずっと続いている。

 だから大方は今日のように彼らが来る前に姿をくらます。一応呪符と同じ素材で作られている特殊な紐で妖怪の手足は縛っておく。こうしておけば安心だ。

「夏、腹減ったな。さすがに四日連続あんぱんだと不健康だ。帰って栄養のあるものを食おう」

 春一は「四季文房具店」と書いたメモ用紙をピンで妖怪の服に留め、助手席に乗り込んだ。夏輝は例の如く溜息を吐き出して、運転席に乗った。


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