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日曜日と少女と閻魔再び

「世界の存在を許容しない」

 ある晴れた日の日曜日の午後。少年は自堕落にもテレビを聞きながら浅めの寝息を立てていた。

 そこへ、軽快なチャイムが響く。それはよくあることだった。

「もしもーし。起きてるでしょ? 居留守使っても無駄だからね。ちょっと、聞いてるのヒナタ?」

 インターホンという文明の利器は、一人の少女の姿と声をしっかりと届けていた。

 しかし、寝ぼけた頭を上げる事無く、テレビを消し、ベッドに潜り込むヒナタと呼ばれた少年。

「ははーん、わかったわ。そっちがその気なら奥の手よ」

 意味ありげな笑みを浮かべながら、少女は何やらごそごそと肩に掛けたバッグの中を探り始めた。

 未だじっと息を潜めるヒナタ。

「これを見よ! じゃじゃーん!」

 全く見ていないヒナタ。状況は音声だけで掴んでいる。

「ふっふっふ。これはねえ、何を隠そう、ヒナタのウチの合鍵なのだ!」

 布団から跳ね起き、インターホンに向かって叫ぶ。

「何でお前が持ってるんだよ!」

 その鍵を差し込みながら、少女は画面越しのヒナタにしてやったりとニヤつく。

「お母様に頂いたのよ。私がいないと何かと心配だから面倒を見てやって下さいねってね」

「あの外面聖母め、余計な真似を! 嫌がらせか? 新手の嫌がらせなのか?」

 がちゃ。

「あっ、侵入――もとい乱入成功!」

「言い直した意味を問いたい!」


 それからヒナタがいじられたり、ヒナタが笑われたり、ヒナタがからかわれたりして、一緒にごはんを共にした。


 そんな日曜日の午後。



                      ■


 過去が未来へと陥入し、現在が産まれる。しかし存在を許容されるのは唯一つ。誰もがそれをないがしろにし認めようとしない。

          グラフスツ・ルテルニカ著『飛ぶキリンは蝶に劣るか』より一部抜粋



                      ■



 僕は自堕落に布団に寝そべる。すごく、すごく久しぶり。そんな風な気がする。

「今日は日曜日か」

 一人呟く。そうだ、今日は日曜日。久しぶりの日曜日。

「たっだいまー」

 閉塞を蹴破り少女が玄関から入ってくる。

「おかえり。どこいってたの?」

「ひ・み・つ。女はアクエリアスな方が魅力的なのよ?」

 水々しい美人もいたもんだ。

「ミステリアスな」

「そうともいう」

 そうとしか言わない。

 ちんぷんかんぷんな彼女はおもむろに下げている袋から何かを取り出し、僕に差し出した。

「おみやげ」

「ありがとう。何これ?」

 見覚えのある包装紙だ。なんだったっけ。

「シュークリーム」

「え! 地獄堂の?」

 彼女はこくりと頷く。そういえばこのくすんだ緑色は地獄堂のものだ。しかし、信じられない。あんなことがあったのに。

「食べよう?」

「う、うん。でも、大丈夫?」

 食べられるのか、またアタリの可能性だってあるんだぞ? とそんな意味で訊いた。

「平気。夜ごはんもちゃんと食べる」

 そうじゃなくて――まあいいか。

「いただきます」と二人揃って言う。

 むしゃむしゃと美味そうにシュークリームを頬張る彼女の顔は幸せが満ちていた。僕もと頬張り、舌鼓を打つ。美味い。

「座布団十枚!」

「まったくまったく」

 今回は二人ともハズレだったようで。良かった。

 そうして彼女は笑った。

 僕も笑った。


 

 僕は――ちゃんと笑えているのだろうか。




「世界を痛くとも甘受する」

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