赤飯と少女と鼻提灯
「世界の半分をやろう」
「もうすぐだよ。もうすぐ終わるの、世界は。ゲームオーバーだよ」
少女は涙を溢し笑う。彼女の悲痛な祈りは、残酷にも叶い、気まぐれにも叶わない。狂ったように笑う少女をひしと抱きしめる少年。驚く少女。
「……どうして?だってあなたは―――」
「もう……いいよ。たくさんだ……」
「っ!……」
「許されない罪も、終わらない宿命も、悔やまずにはいられない悲劇も。全部全部、もう、いいよ」
更に強く抱きしめる。強く強く。少女は少年の背中を叩く。離して、その手をどけて、私はもう、どうしようもなく穢れているから、と。少年は続ける。
「君は一人で、たった一人っきりでよく頑張った。もういいよ、頑張らなくて」
「うっ、えぐっ……」
「最後くらい……最後くらいは夢を見よう? ありがとう。これが、僕たちの、僕たちなりのハッピーエンドだ。末永く幸せに暮らしましたとさ、ってねっ?」
涙を拭き、頷く少女、せーのと口を揃えて二人は言う。
「「めでたし、めでたし」」
「ヒナター、これ良かったよ。良かったらヒナタも見てみてよ」
「僕が貸したんだよ」
少女はそのDVDを少年に返した。
■
「死者との対話はできますか?」
「もちろんできるとも。ただ死者に答を求めることはできないがね」
『レヴィ・シュトラと放浪する赤い羽根』より
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「ヒナタってさあ、彼女いるの?」
唐突に聞いてくる居候少女。そんなこと一緒に住んでいるんだから聞かなくてもわかるだろうに。
「いないよ」
「じゃ、いた?」
少し逡巡する。いたことはあるけど、別に目の前の少女に言うような話じゃないしなぁ。ま、いないと馬鹿にされるのも癪だから話す。
「いたよ。二、三年前だったかな。一ヶ月だけ」
「へぇ~、いたんだ~。へぇ~」
彼女はにやにやしながら肘で脇腹を小突いてくる。この反応は小さい女の子というより、少しませた小僧といったところだろうか。
「で、うませた?せきにんとった?」
「意味分かってないだろ」
彼女にはもう少し自分の産んだ言葉に責任をもって欲しい。
「お赤飯、お赤飯♪」
「どこで覚えてくるんだ? まったく……」
なぜかすでに炊かれているお赤飯。テレビの見よう見まねでやってみたらしい。マセガキと侮るなかれ、やはり彼女は年上なのである。話の誘導くらい簡単なのだ。普通に美味しかったから別にいいけど。
女は怖い。さてそろそろ寝よう。と、先に寝入ってしまった彼女が目に入る。鼻提灯は流石に演技ではないだろう。少し頬が緩んだ。
おやすみ。
「足りない」