黒電話
故人と話せるのなら、あなたは何を話すだろうか。否、まず誰と話す?
亡くなった親戚。自分の先祖。偉人。いや、もしくは存在したかどうかすら怪しい人。
話す必要などない、なんて言う人もいるかもしれない。
何でもない、あるひのできごと。
ー山奥の廃墟の一番奥の部屋、427号室。そこにある「黒電話」は死んだ人と話せるんだってー
そんな奇妙な噂が、ある少女の耳に入った。普段うつろだったその少女の瞳はたちまちきらきらと輝きを放ち、427号室…とだけ呟いてどこかへ走り去ってしまった。妙なことを考えるなと止めに入った誰かのことをすら、突き飛ばして。
そういえば
廃墟にはもう一つ、噂があった。
ー廃墟に行ったら最後
帰ってきた人はいないー
そんなことはつゆしらず、一人の少女は土砂降りの中をルンルンで歩く。
その少女の見た目は中学生くらい、けれど仕草は幼稚園に入園したての園児そのもの。
水たまりも気にせず、靴が水を含んで重くなりながら歩んでいくけれど、その女の子のそばには靴を濡らしたことを叱るお母さんも、おんぶをするか聞いてあげるお父さんもいなかった。傘を差さず、進む方向に迷いがない。もう街灯が付いて月も見えている時間帯に一体少女はどこに向かっているのでしょうね。
そのまま、少女は山に入るけもの道を進み、立ち入り禁止のコーンとチェーンの横をやせ細った体で潜り抜けて、とうとう廃墟の前までたどり着いてしまったんだとか。もともと財閥とかそんな感じの人々が住んでいたところらしい。
懐中電灯もなしにその館を訪れた少女が入って早々見たものは、天井から垂れ下がったロープと椅子。警察がたてたであろうコーンも。驚きもせず、その横を通って進んでゆく。
キュッキュッと濡れた少女の靴が音を立てる。がしゃッと音が鳴ったり、見えてはいけない何か(恐怖心があるようには見えないので、きっと幻覚ではない)がみえているそぶりはしたものの少女の足音は4階に上がるまで止まることはなかった。
階段を登り終えたところで、少女は一番奥の427号室にたどり着いてしまった。
最低限のものしかない客室にある「黒電話」を少女が見つけるのは容易だ。
今どきスマホが主流だし、廃墟の黒電話が契約されているわけもなかった。
どこで学んだのか少女はとある番号へと電話をかけだした。
090ーXXXXーXXXX
これ、私の電話番号じゃん。
慌てて私は電話に出た。
この黒電話は、本来つながるはずがない。だって、契約もされていないし、何よりかけた電話番号は。
少女は言った。
「■■■?もしもし」
「久しぶり。」
少女は驚いたような表情を見せつつも、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎだした・
「ずっと、謝りたかった 一番近くにいたのに
あんな、警察に見つかるまできづいてあげられなくて」
こんな内容を延々と。だんだん泣いてるみたいな声になって、鼻をすする音まで聞こえ出した。
「□□のせいじゃないよ もういいんだよ
だから、そんな場所離れていいんだよ」
帰るよう催促された少女は電話を切って、客室にあった椅子と少し使われているロープに目を向けた。やめてくれ。そんな意味でそこを離れろと言ったのではない。
その少女がロープに手を伸ばした時、後ろからタッタっタッタという速い足音が聞こえた。
その足音は少女の後ろまでたどり着き、少女の腕を強くつかんだ。
少女は逃げようとして、その人の顔をふと見た瞬間、動きが止まった。
「まま?」
「……もう帰ろう、」
そのあとどうなったかは、言うまでもない。が、帰ってきた人がいないという噂は消えただろう。
一つ言えるとするならば、もう私が見守る必要はなくなった。それだけで良かった。




