ねがいごと
誤字修正しました。ご報告ありがとうございました!
クリスマス。
それは年に一度、おうちにサンタクロースがやって来る大切な日。
その大切な日のために、世界のいちばん北。地球のてっぺんにある北極では、今日も小人たちがクリスマスの準備で大いそがしです。
「トムテ、トナカイたちの調子はどう?」
「悪くないよ。クリスマスにはみんなしっかり走れると思う。あ、ソリはきれいになってるよ」
「トントゥ、プレゼントの準備は?」
「う~ん、ちょっと遅れてるかな~。ちょっと頑張らないとだけど間に合うよ~」
「いいわ!この分なら今年もぜんぶ間に合いそうね!」
トムテ、トントゥ、それとニッセの三人は、世界中の子どもたちにはサンタクロースと呼ばれている、クラウスおじいさんのお手伝いをする妖精たちです。
サンタクロースのおもちゃ工場やサンタクロースを運ぶトナカイたち、サンタクロースを乗せる魔法のソリや真っ赤なサンタクロースの衣装をクリスマスの日にかんぺきにするためにはたらく小人たちのリーダーです。
「ねえ、そういえばクラウスはもう起きたの?」
「ううん、まだ寝てる。起きたら体の調子が良いか確認しなくちゃいけないのに」
「いいわ!工場はわたしが見てくるから、トントゥはクラウスを起こしてきて!」
「うん、わかったよ~。行ってくるね~!赤の衣装も見てくるよ~!」
「じゃあ僕は予備のソリとトナカイの確認に行くよ」
三人はふわふわのケープとふわふわの三角帽子をかぶると「いってきます」と手を振り合ってお外に駆けていきました。
「うわぁぁぁ~!たいへんだ~~~!!!」
一番最初に叫んだのはトントゥでした。
「クラウスがいないよ~~!!!」
トントゥはサンタクロースのお部屋に行ったのに、ベッドの中にもお風呂にもトイレにも、キッチンにだってサンタクロースはいません。赤の衣装も一枚足りません。
「わ!どうしよう!!」
次に叫んだのはトムテでした。
「予備のソリとトナカイが居ないよ!?」
トムテは予備の小屋を見に行ったのに、ソリがひとつ壊れてもトナカイが病気になってもクリスマスにはみんなのところに行けるように大事に準備していたはずの予備がみんな消えていました。
「きゃあああ!どうして!?」
最後に叫んだのはニッセでした。
「どうしておもちゃ工場の魔法が壊れているの!?」
ニッセはおもちゃ工場を見に行ったのに、おもちゃ工場を動かしている大切な魔法がこんがらがってできあがったおもちゃたちがぽーんぽん!とお空を飛んでいます。困った小人たちが飛び回るおもちゃたちを捕まえて袋に入れようところーんころん!とあちらこちらを転がっていました。
「どうしよう~!クラウスが転がって~!」
「違うわ!おもちゃが消えちゃって!」
「ううん、ソリとトナカイが空を飛んでいて」
「……ねえ、待って。それは正解よ」
「そうだね、ソリとトナカイは空を飛ぶね。いったん落ち着こう」
「ううう~!深呼吸だ~!!」
三人がなんとか落ちつこうと深呼吸をしていると、空からリンシャラランっ!と世にも美しいベルの音が聞こえてきました。
「ちがうよ~!正解じゃないよ~!!ソリとトナカイはまだ、空を飛んじゃダメなんだ~!!」
「大変だ!クラウスが赤い衣装を着てる!!」
まだまだクリスマスは十日も先。なのにサンタクロースは予備のソリと予備のトナカイと予備の赤い服でおもちゃを持って北のお空から飛んで行ってしまったのです。
「も~~~!!!あのあわてんぼう~~~!!!!!」
サンタクロースがお部屋にいなかったのは、日にちをまちがえて町へ行ってしまったから。ソリとトナカイが消えたのは、サンタクロースが乗って行ってしまったから。おもちゃ工場の魔法がこんがらがったのは、おもちゃが足りないことにびっくりしたサンタクロースが無理やり魔法を強くしたからでした。
「どうしよう!子どもたちがびっくりしちゃうよ!」
「どうしよう~!おもちゃが足りなくなっちゃうよ~!」
「どうしましょう!クリスマスにすべての良い子たちのところにクラウスがいけなくなっちゃうわ!!」
トムテもトントゥもニッセも。困った三人は顔を見合わせて顔を青くしました。
「ダメよ、慌ててはダメ。まだまだクリスマスまでは十日あるわ」
「そうだね、まだ十日ある。クラウスが帰ってくると信じよう」
「落ち着こう~!!ホットチョコレート~!!」
三人はうなずきあうと、まずはキッチンでホットチョコレートをたっぷりと作りました。
「さあ、みんな!まずはホットチョコレートを飲んで!!」
「さあ、みんな。まずはじっくり温まろう」
「さあ、みんなぁ~!!甘くて幸せな気持ちになったら、たくさんたくさん、働くよ~!!」
ニッセもトムテもトントゥも。みんなで小人たちにホットチョコレートを分けてあげます。
甘くて温かいホットチョコレート。体と心がぽかぽかになったら、みんなでもう一度駆け出しました。
トントゥはもう一度サンタクロースの部屋へ行って赤の衣装を確かめます。よごれもやぶれもありません。ふわっふわのもこもこも、とっても白くてきれいです。それからサンタクロースが帰ってきたらすぐに入れるようにトントゥはお風呂の用意をしました。
トムテはもう一度トナカイとソリを見に行きます。みんなとっても元気です。ソリもベルもピカピカです。一番前を走るトナカイのお鼻も元気いっぱいに赤く光ってピカピカで、トムテが鼻をなでてやるととてもご機嫌になりました。
ニッセはもう一度おもちゃ工場へ行きます。こんがらがった魔法をていねいにほぐして、転がる小人をきれいに並べて、飛び回るおもちゃをひとつひとつ捕まえてみんなで順に袋に入れていきます。ニッセが袋を大きく開けると新しくできたおもちゃたちはもう空を飛ばずに袋へ入ってくれます。
「お風呂、準備できたよ~!衣装も綺麗、ぴかぴかのふわふわだよ~!」
「ソリもベルもピカピカだよ。トナカイたちもみんな元気だよ」
「おもちゃたちもお行儀良くなったわ。みんな袋で待ってるわ」
さあ、クリスマスまではあと五日。おもちゃも、衣装も、お風呂も、ソリも、それからトナカイも。みんな準備は万端です。あとはサンタクロースが帰って来るのを待つだけ。
「どうしよう、クラウスは帰って来るかな」
「どうしよう~?クラウス、間に合うかな~?」
「どうしよう…じゃないわ!信じるの!!信じて待つのよ!!」
トムテもトントゥもニッセも。お空に輝く星に祈りました。どうかサンタクロースが間に合いますように。どうかサンタクロースが無事に戻りますように。
寝て、食べて、祈って、また眠って。三人と小人たちはサンタクロースを待ち続けます。
赤の衣装もピカピカのソリも、元気なトナカイも袋いっぱいのおもちゃも。みんなサンタクロースを待ち続けます。
まだ来ない、まだ戻らない。
そわそわ、どきどき。みんながお空を見上げていると、南の空からリンシャララン!と美しいベルが聞こえてきました。
「帰ってきた!!」
「見えた~!!」
「間に合ったわ!!」
トナカイとソリとサンタクロースが何だかふらふらと降りてきます。積もった雪の上にぼすんと降りたサンタクロースはなぜだか全身真っ黒けです。
「ちょっとクラウス!真っ黒じゃない!!」
「クラウス、何だか疲れてる?」
「わぁ~!クラウス、ふらふらだ~!」
帰ってきたサンタクロースはなぜだか疲れてふらふらで。お顔もおひげも赤い衣装もみんな煤にまみれて真っ黒です。
「クラウス、まずはお風呂にはいろう」
「クラウス、お風呂から出たらご飯を食べましょう」
「クラウス、ご飯を食べたらゆっくり寝よう~!」
クリスマスまではあと三日。トムテとニッセとトントゥはふらふらのサンタクロースを小人たちと運びます。
体の大きなサンタクロースの赤い衣装を三人で脱がせるとぽかぽかのお風呂にじゃぼんと入れて、ふわふわに泡立てたせっけんで三人でゴシゴシと洗います。三人で髪もおひげもしっかりと乾かしたら、三人で作ったお肉たっぷりのご飯を食べさせます。今にも眠ってしまいそうなサンタクロースを三人で運び、そのままベッドに放り込みます。
「おやすみ、クラウス。今度はちゃんと寝ててね」
「おやすみ、クラウス。勝手に起きちゃだめよ!」
「おやすみ、クラウス。起こしに来るからね~!」
ふとんにぐるりと包まったサンタクロースに手を振ると、三人はお部屋のろうそくを吹き消して、もういびきをかいているサンタクロースのお部屋をぱたんと閉めました。
待ちに待ったクリスマスの日。今日は朝から大忙しです。
「トントゥ、クラウスを起こしてきて!」
「赤い衣装も持ってくるね~!」
「トムテ、おもちゃとソリの準備は?」
「小人たちが積み込んでるよ。僕は後でトナカイをつないでくる」
「私はクラウスのご飯を作るわ!」
トントゥに連れられて寝間着のサンタクロースがキッチンにやってきます。ニッセの作ったご飯を食べて、食べ終わったら赤い衣装を着ます。
「さあ、できたわ。クラウスの準備はかんぺきね」
「さあ、できたよ~!おひげもきれいにふわふわだ!」
「さあ、できたよ。トナカイもソリもお待ちかねだ」
すっかりおひげのサンタクロースになったクラウスを、トムテが右の手をつないで、ニッセが左の手をつないで、トントゥが前を跳ねながら、ソリのところへ連れていきます。
ソリはぴかぴか、ベルもピカピカ。トナカイのお鼻もピカピカです。
サンタクロースは満足そうにうなずくと、トムテの頭をなで、ニッセの頬をなで、トントゥの鼻をきゅっとつまんで楽しそうに笑いながらソリに乗りました。
「ホゥホゥホゥ!」
サンタクロースが合図をすると、トナカイたちがいっせいに駆け出します。
「いってらっしゃい、気を付けて」
「いってらっしゃい、頑張ってね!」
「いってらっしゃい、待ってるよ~!」
リンシャラン、リンシャララン!
ソリのベルが鳴るたびに、ゆっくりとソリが浮かび上がります。ぐるーりぐるーり。ソリとトナカイは円を描きながら高い空へと上っていきます。
高い、高い、空の上。北極の空に北のひとつ星が輝きます。トントゥもトムテもニッセも。空に輝く星に願います。
「どうか沢山の子どもたちに、愛と夢と優しさが届きますように~!」
「どうか愛と夢を忘れない人たちに、優しさと輝きが届きますように」
「どうか優しさと夢を忘れてしまった人たちに今一度、愛と希望が届きますように」
きらきら、きらきら、ひとつ星から光が降り注ぎます。
降り注いだ美しい光はサンタクロースとソリとトナカイたちを包み込み、大きな光の玉となりました。
ぱちん!
光の玉がはじけると、ひとりと一台と九頭だったサンタクロースとソリとトナカイが、八つに分かれて八人と八台と七十二頭になって、きらきら、きらりと四方八方に飛び去りました。
「今年も無事に行ったね」
「今年も無事に間に合ったわ…」
「今年も無事に届きそうだね~!」
トムテとニッセとトントゥは、お互いに顔を見合わせるとにっこりと笑い合いました。
「わたし、クラウスに温かいシチューを煮てあげなくちゃ」
「僕はトナカイたちに特別柔らかい飼い葉と寝床を用意してくるよ」
「ぼくはクラウスのお布団をふかふかにして温かいお風呂を用意するね~!」
きらきらと降り注ぐひとつ星の光の中を、三人は手をつないで家の中へと戻って行きました。
あなたの元へもどうか、優しい何かが届きますように。
お読みいただきありがとうございました。
もうすぐクリスマス、それが過ぎれば年末年始ですね。
良い冬をお過ごしになれますように。
また別の物語でもお会い出来れば幸いです。




