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【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第2章「陰謀、粉砕祭り」

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17/29

17:聖女は、遺跡を崩壊させる

 戦闘用ゴーレムとの熱戦――という名の相撲――を制し、再びブリガンディアの街を救ってから一夜が明けた。


 街は勝利の余韻に浸っていた。人々は破壊された南門の修復作業をしながらも、口々に私の活躍を語り合っている。その顔は一様に明るい。

 私は宿屋のバルコニーでのんびりと朝食のパンをかじりながら、そんな賑やかに行き交う街の人たちを眺めていた。

 ああ、平和だ。

 昨日の相撲でかいた汗も、心地よい疲労感となって、筋肉を喜ばせている。このまま今日一日はうたた寝をして過ごそう。


 そんな至福の計画を立てていた時だった。

 私の隣で、真剣な顔をして地図を広げていたカインが、ぽつりと呟いた。


「セレス様。昨日のゴーレムですが……やはり、あの『忘れられた神々の遺跡』から来たものではないでしょうか」

「……そうかもしれませんね」


 私は特に興味もなさそうに、相槌を打つ。正直、ゴーレムがどこから来ようが知ったことではない。私の昼寝の邪魔をしないのであれば、それでいいのだ。

 しかしカインは、私のそんな態度などお構いなしに話を続けた。


「もし、そうだとするなら……。あの遺跡には、まだ他にも同型のゴーレムが眠っている可能性があります。一体目が何らかの理由で目覚めて、外に出てきたとすれば。二体目、三体目が現れないとも限りません」

「…………」


 カインの言葉に、パンを口元に運ぶ私の手が、ぴたり、と止まった。

 二体目、三体目。

 その言葉が、私の平和なスローライフ計画に暗い影を落とす。


 また、あの面倒な石の巨人が、この街に現れるかもしれない。そういうことか。

 そのたびに、私はうたた寝を中断させられ、相撲を取らなければならない、と?


 それは断じて許されない。

 私の安眠は、何よりも尊重されるべき神聖な権利なのだ。


「……はぁぁぁ……」


 私は、天を仰ぎ。深く、ふかーく、ため息をついた。


「分かりました、カイン。面倒ですが、確認しに行きましょう」

「え?」

「あの遺跡です。もし、まだゴーレムがいるようなら、面倒の種は根こそぎ絶っておくに限ります。場合によっては、遺跡ごと生き埋めにしてしまいましょう」


 私が、にっこりと、過激な提案をする。

 カインの顔が、ひと目で分かるくらいに引きつった。


「い、生き埋め!? セレス様、あれは歴史的な遺産で……」

「歴史より、私の昼寝の方が大事です」

「なんという暴論……!」


 カインは頭を抱えていた。

 だが、私の決定を覆せないことを悟っているようだった。

 彼は諦めたように立ち上がると、旅の準備を始めた。


 こうして私たちは再び、あの忌々しい遺跡へと向かうことになった。

 私の輝かしい、うたた寝タイムを犠牲にして。



  ◇   ◇   ◇



 数時間後。私たちは因縁の遺跡の前に立っていた。一度通った道で慣れていたせいか、前回の道中よりスムーズに到着できた。


 遺跡の前に立ち、私たちは現状を把握する。

 前回、私たちが脱出した際に、入り口は完全に崩落したはずだった。だがその巨大な岩の山の脇に、新たな穴がぽっかりと口を開けている。

 穴の周囲には、巨大な足跡が残っている。間違いなく、昨日のゴーレムはここから這い出してきたのだろう。


「……どうやら、カインの予想通りだったようですね」

「はい……。やはり、他にも個体が存在する可能性が高いかと」


 私たちは顔を見合わせて頷くと、その不気味な穴の中へと足を踏み入れた。


 中は、以前にも増して荒れ果てていた。

 崩落した岩や瓦礫がそこら中に散乱し、足場が不安定で仕方がない。

 それらに足を取られないように気をつけながら、慎重に奥へと進んでいく。


 しばらく進むと、開けた広間に出た。

 その広間は、以前、私たちが黒装束の密偵たちを発見した、あの禍々しい祭壇のある部屋だった。

 そして、その部屋には先客がいた。


「……何者だ?」


 低い声が響く。

 広間の奥の暗がりから、十数人の男たちが姿を現した。


 彼らは全員、統一された黒い戦闘服に身を包んでいる。その手には特殊な形状の武器を持っていた。その統率の取れた動き、そして瞳に宿る冷徹な光は、ただの傭兵や暗殺者とは明らかに一線を画していた。

 おそらく、あの宰相が送り込んだ直属の精鋭部隊――証拠回収部隊の生き残り。あるいはその第二陣だろう。


「我らは、王の命を受けし者。この遺跡の調査を行っている。貴様らは何者だ? このような場所で、何をしている?」


 リーダー格の男が、一歩、前に出て言った。

 その声には有無を言わせぬ威圧感がこもっている。

 もちろん、その程度で怯む私ではないけれど。


「私たちは通りすがりの冒険者です。少し、忘れ物を取りに来ただけでして」


 私がにこやかに答えると、男は眉をひそめた。


「忘れ物、だと? ふざけるな。この遺跡は現在、我々の管理下にある。速やかに立ち去れ。さもなくば実力をもって排除する」


 またこのパターンか。

 私は心底、うんざりした。

 なぜ宰相の手下というのは、こうも相手の話に耳を貸さず、それでいて自分の話は長い上に高圧的なのだろうか。貴重な私のうたた寝タイムを奪ったゴーレムのことで、ただでさえ機嫌が悪いというのに。


「……カイン」

「は、はい」

「やっぱり面倒なので、遺跡ごと埋めてしまいましょうか。この人たちも一緒に」

「無茶苦茶言わないでください!」


 私の物騒な提案に、カインが悲鳴を上げる。

 物騒だという自覚はある。でも私のスローライフに比べれば些事に過ぎない。


 そんな私たちのやり取りを聞いて、部隊の男たちの雰囲気が一変した。


「……貴様。その声、その話し方……。まさか、偽りの聖女・セレスティアか!」


 リーダーの男が驚愕の声を上げ、武器を構える。

 どうやら、私の正体がバレてしまったらしい。


「見つけ次第、確保せよと厳命を受けている。全員かかれ! 生け捕りにしろ!」


 その号令を合図に、十数人の精鋭たちが一斉に、私たちに襲いかかってきた。

 シリアスな集団戦の始まりだ。


 ――キンッ! カンッ!


 カインが錆びついた剣で、必死に敵ふたりの攻撃を受け止める。

 しかし、相手は精鋭。じりじりと押し込まれ、防戦一方だ。


「くっ……! こいつら、強い……!」


 私はそんなカインを横目に、自分に向かってくる三人の男を相手取っていた。

 彼らの動きは洗練されている。ひとりが正面から陽動をかけ、その隙に左右のふたりが死角から連携し、攻撃を仕掛けてくる。見事なコンビネーションだ。


 だが。


「――甘いですね」


 私は、正面の男の大振りの一撃を最小限の動きでかわす。

 その勢いを利用し、男の身体をコマのように回転させて、盾にした。

 左右から迫っていた敵ふたりの刃が、仲間である男の背中に突き刺さる。


「ぐはっ!?」

「なっ!? しまっ……!」


 一瞬の、連携の乱れ。

 私にとってはそれで十分だった。


 私は盾にした男を蹴り飛ばし、呆然とするふたりの懐へ一瞬で潜り込む。

 左右の男たちの鳩尾に、寸分違わぬタイミングで、同時に掌底を叩き込んだ。


「ごふっ……!」


 ふたりの男は白目を剥き、崩れ落ちた。

 あっという間に、三人を無力化。

 だが敵は、それでも怯まなかった。


「散開しろ! 距離を取れ! 奴は近接戦闘の化け物だ! 魔導班、援護を!」


 リーダーの男が的確な指示を飛ばす。

 残りの男たちが素早く、私から距離を取る。

 その中から数人の魔術師らしき男たちが、前に出て詠唱を始めた。


「『風の刃(ウィンド・ブレード)』!」

「『炎の矢(ファイア・アロー)』!」


 魔法の完成も速い。あっという間に詠唱を終え、生み出された攻撃魔法が彼らの手から放たれる。紛れもなく精鋭だ。

 数々の攻撃魔法が、私に向かって殺到する。

 私はそれらを、走りながら紙一重でかわしていく。

 床がえぐれ、壁が焦げ付く。


 彼らの狙いは、私を倒すことではない。私の動きを封じることだった。

 そして、私が魔法を避けることに集中しているその隙に、前衛の男たちが、いやらしいヒットアンドアウェイを仕掛けてくる。

 斬りかかっては、すぐに離れる。

 私が反撃しようとすれば、すかさず魔法の援護射撃が飛んでくる。


 チッ、チッ、と、私のワンピースの裾が斬り裂かれ、頬を熱風が掠める。

 ああ、もう!

 イライラする!

 なんて面倒くさくて、姑息な戦い方だ!

 私の怒りのゲージがどんどん上昇していくのが、自分でも分かった。


「正々堂々、かかってきなさい!」


 イラつくあまり、思わず私は叫んでしまう。

 それに、リーダーの男が鼻で笑った。


「馬鹿め。我らは任務を遂行するのみ。貴様のような化け物に、真正面から挑むほど愚かではないわ」

「……そうですか。あなたたちは、私が一番嫌いなタイプです」


 私の我慢が限界に達しようとしていた。

 その時だった。


 ――ゴゴゴゴゴゴ……。


 突如、遺跡全体が激しく揺れ始めた。また崩れるのか、と肝が冷える。

 しかし、それは崩落の揺れではなかった。

 何か巨大なものが、地中から這い上がってくるような、不気味な振動だった。


「な、なんだ……? 地震か?」


 回収部隊の男たちが戸惑いの声を上げる。

 そして、次の瞬間。

 私たちがいた広間の壁が、内側から爆発するように、吹き飛んだ。


「――グルルルルルルオオオオオッ!!」


 そこに姿を現したのは、巨大なゴーレムだった。

 昨日、私がブリガンディアの街で倒したゴーレムと同型のもの。

 しかし一回りも二回りも巨大な、石の巨人だった。

 身体は黒曜石のように黒光りし、両腕は巨大なドリルのような形状をしている。

 胸のコアは、街を襲ったやつよりも遥かに大きい。

 さらにもっと不気味で、禍々しい紫色の光を放っていた。


 新型ゴーレム。いや、おそらくこいつが隊長格なのだろう。

 その紫色の目が、広間にいるすべての生命体を、敵と認識した。


「……侵入者ヲ、排除スル……」


 地響きのような、合成音声が響き渡る。

 ゴーレムは手始めに、一番近くにいた回収部隊の男たちをロックオンした。

 両腕のドリルアームを振り下ろし、すさまじい暴力性を見せつける。

 たった一撃。それだけで、攻撃を受けた男の身体はあっけなく四散した。


「う、うわあああああっ!」

「に、逃げろ!」


 男たちが悲鳴をあげる。

 理性ではなく、込み上げる本能からの恐怖が勝った、というところだろう。


 しかし、逃げる暇はなかった。

 無造作に振るわれたゴーレムの両腕、ドリルアームの一撃が大地をえぐった。そして容赦なく、数人の男たちを肉片すら残さず消し飛ばす。

 まさに、圧倒的な破壊力だ。


 統率の取れていた精鋭部隊は、この予期せぬ乱入者の登場で一瞬にしてパニックに陥った。


「怯むな! 隊列を立て直せ! 目標をゴーレムに変更!」


 リーダーの男が必死に叫ぶ。不測の事態でも、現状打破のためにすぐさま状況を把握し、部下に命令を下す。紛うことなき実力者なのだろう。

 だが、手遅れだった。


 ゴーレムは暴走する重戦車のように、部隊の中へと突っ込んでいく。その巨体によって、兵士たちは次々と踏み潰され、薙ぎ払われていった。

 魔法も剣も、この新型ゴーレムの前にはまったく通用しない。

 その様相はまさに、怪獣大戦争。

 シリアスだった集団戦闘から一転、一方的な虐殺ショーへと変貌した。


 私はその地獄絵図を、少し離れた場所から冷静に眺めていた。

 そして、好機を待った。


 集団のリーダーが、最後のひとりとしてゴーレムに捕まってしまう。

 そして、その巨大な手で握り潰そうと、動きを止めた。

 その瞬間。


「――お昼寝の恨み、思い知りなさいっ!」


 私は床を蹴り、砲弾と化して、ゴーレムの背後へと跳んだ。

 そして、その巨大な背中に着地。そのまま駆け上がる。


「グルルッ!?」


 ゴーレムが、ようやく私の存在に気づく。

 だが、もう遅い。

 私はゴーレムの肩まで駆け上がり、再び跳躍。

 縦に回転し、さらに勢いを増幅させる。

 そして、胸の紫色のコアに向かって、渾身の踵落としを叩き込んだ。


「――砕けろぉぉぉっ!」


 ドゴォォォンッ!!


 私の踵が、ゴーレムの分厚い装甲を貫く。

 手応えあり。

 その一撃は狙いを過たずコアに直撃し、粉砕した。


 しかし、ゴーレムはまだ倒れない。

 コアを失ったその巨体は、最後の暴走を始めた。


 間一髪、私は踵落としの回転に身を任せながら着地。その勢いのまま転がるようにしてゴーレムの足元から離れる。

 案の定、ついさっきまで私のいた場所へ、ゴーレムの腕のドリルが叩きつけられた。少しでも回避が遅れていたら、と考えるとさすがにゾッとする。


 討ち損ねたことが分かったのか、ゴーレムはさらに激しく暴れ始めた。両腕のドリルを無茶苦茶に振り回し、遺跡の壁や天井をやみくもに破壊する。


「侵入者……排除……シス、テム……最終、段階……移行……」


 ゴーレムは、途切れ途切れに何か呟く。

 嫌な予感がする。

 思うや否や、ゴーレムは巨体を震わせた。

 さらに、全身からまばゆい紫色の光を放ち始める。


「まずい! セレス様、こいつ自爆します!」


 カインが叫ぶ。やっぱり自爆か!

 さすがにあの爆発に巻き込まれるのはごめんだった。


「逃げますよカイン! 今度こそ本当に生き埋めになります!」

「だから言ったじゃないですかぁぁぁっ!」


 私たちは再び始まった遺跡の大崩落の中を、全力で駆け抜けた。

 遺跡の出入口はもう目の前、というところで。

 置き去りにしたゴーレムが大爆発を起こした。

 背後からすさまじい衝撃波と熱風が、私たちを追い掛けてくる。


「うひゃあぁぁぁぁぁっ!」

「どわあああぁぁぁぁっ!」


 私たちはその爆風に背中を押されるようにして、遺跡の外へ放り出された。

 そして、私たちの目の前で出入り口の穴が崩落していく。


 忘れられた神々の遺跡は、今度こそ完全に、跡形もなく崩れ去った。

 巨大な瓦礫の山となって、沈黙した。

 もう二度と、ゴーレムが這い出てくることもないだろう。

 同時に、宰相の部隊が現れることも。

 結果的に、私の当初の目的は達成されたわけだ。


 緊張の糸が切れたのか、私はその場にへたり込み、寝転がってしまった。


「はあ……。もう二度と来ません、この場所には……」


 地面に大の字になって、荒い息と一緒に悪態を吐き出す。

 さすがに、今日は疲れた。


 私の安らかなうたた寝タイムは、一体どこへ行ってしまったのだろうか。

 蒼く広い空を見上げながら、深く、深く、ため息をつくのだった。



 -つづく-


※誤字報告、ありがとうございました。

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