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【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第2章「陰謀、粉砕祭り」

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12/29

12:聖女は、宝の地図(陰謀の証拠のありか)を手に入れる

 商業都市ブリガンディアの闇を、私の拳で物理的に更地にして数日が過ぎた。

 街はこれまでの状況が嘘のように平穏を取り戻していた。オルトロス商会が独占していた食料や物資が市場に出回り、物価はあっという間に正常化。人々は悪徳商会の支配から解放されたことを心から喜び、街には以前とは比べ物にならないほどの明るい活気が満ち溢れていた。


 私とカインは、街の英雄として、行く先々で盛大な歓迎を受けた。


「おお、セレス様! 今日もなんて神々しいお姿だ!」

「うちのパン、焼きたてだ! 好きなだけ持っていってくれ!」

「この毛皮は俺からの感謝の印だ! どうか、受け取ってほしい!」


 道を歩けば、人々が笑顔で挨拶をしてくれる。

 店に入れば、代金も取らずに、最高の品物を提供してくれる。

 なんて素晴らしい。これぞ夢に見た、働かなくても生きていける究極のスローライフではないか。

 私はすっかりこの街が気に入ってしまった。しばらくはここに滞在して、英雄という名のニート生活を存分に満喫しよう。私は心にそう固く誓った。


 そんなある日の午後。

 私とカインは、街の中央広場で人々の賑わいをぼんやりと眺めていた。カインは街の子供たちにせがまれて、錆びついた剣で騎士ごっこを披露している。その姿はどこからどう見ても、頼れる英雄様の護衛というよりは、近所の気のいいお兄ちゃんだった。まぁフレンドリーさが感じられていいんじゃないかな。


 そんな平和な光景に目を細めていると、ひとりの老人が私に近づいてきた。


「……あ、あのう。もしや、あなたが、この街を救ってくださったという、セレス様でございますかな?」


 老人は、腰が九十度に曲がり、その顔には深い皺が刻まれている。しかしその瞳は、年の割には鋭い光を宿していた。


「はい、私がセレスですが。何か御用でしょうか?」

「おお、やはり……! わしはこの街で長年古物商を営んでおる、ゾルタンと申します。あなた様には感謝してもしきれませぬ。あのオルトロス商会のせいで、わしの店も潰れる寸前でございました」


 ゾルタンと名乗る老人は、深々と頭を下げた。


「これは、わしからの心ばかりのお礼でございます。どうかお受け取りくだされ」


 そう言って彼が私に差し出したのは、一枚の古ぼけた羊皮紙。何かの地図のようだ。茶色く変色し、ところどころ破れている。描かれている線も、インクが滲んでいて判読が難しい。


「……これは、地図ですか?」

「はい。わしの店に何十年も眠っておった、ガラクタのひとつでございますが。これは『忘れられた神々の遺跡』の場所を示す、宝の地図だと言われております」

「宝の、地図……」


 私の目が、キラリと光った。

 宝。なんて甘美な響きだろう。

 もし、金銀財宝がザックザクと手に入れば。そう、私のニート生活はさらに安泰なものになる。一生働かずに、美味しいものを食べて、昼寝をしまくりながら暮らせるかもしれない。


 私の脳内に、黄金のベッドで、高級な肉を頬張りながら、メイドたちに傅かれている自分の姿が、鮮明に浮かび上がった。

 素晴らしい。それこそが、スローライフの究極の形だ。


「この地図、ありがたく頂戴します。ありがとうございます、ゾルタンさん」

「いえいえ。あなた様のような英雄にこそ、ふさわしい品でございます。その遺跡には、古代の王が残した莫大な財宝が眠っているとか……。まあ、ただの伝説で、今までその宝を見つけた者はひとりもおらんのですがな」


 ゾルタンさんはそう言って、人の良さそうな笑顔で去っていった。

 私は手に入れた宝の地図を、太陽の光に透かすようにして眺めた。

 インクが滲んで、書いてあることはほとんど読めない。だがどうやら、このブリガンディアから南へ向かった先にある、険しい山脈地帯を示しているようだった。


「セレス様、何をそんなに、にやにやと……。ん? その地図は?」


 子供たちとの騎士ごっこを終えたカインが、汗を拭いながら私の元へやってきた。


「カイン、見てください。これ、宝の地図です!」

「宝の、地図……?」


 カインは、胡散臭そうな顔で、その古びた羊皮紙を覗き込んだ。


「……これは。ひどく、古いものですね。描かれている地名も聞いたことがないものばかりだ。……セレス様、あまり、このようなものを、鵜呑みにされない方が。大抵は悪質な詐欺か、ただのガセネタでございますよ」

「何を言うんですか、カイン! ロマンがないですね!」


 私は、彼の慎重な意見を一蹴した。より充実したスローライフがかかっているのだ。私が興奮するのも無理はないだろう。


「考えてもみてください。古代遺跡に眠る莫大な財宝……! これさえ手に入れれば私たちはもう、一生、安泰なんですよ!」

「はあ……。ですが、このようないかにもな話には、裏があるのが常で……」


 カインは、まだ何か言いたそうだったが、私の瞳が本気で黄金に輝いているのを見たようで。彼は深いため息を吐いた。私の忠実な雑用係としての役目を思い出したらしい。


「……分かりました。セレス様がそうおっしゃるのであれば、このカイン、どこまでもお供いたします。ですが、準備だけは入念にさせてください。地図が示す場所は、魔獣も多く生息する危険な山脈地帯のようですから」

「ええ、お願いします! さすがですね、カイン! 頼りになります!」


 こうして私たちは、ブリガンディアでの快適なニート生活をわずか数日で切り上げ、新たな冒険――宝探しへと旅立つことになった。


 もちろん、この宝の地図に隠された本当の意味など、知る由もない。



   ◇   ◇   ◇



 一方、その頃。

 アークライト王国の王都では、宰相デューク・ヴァルトが届けられた報告書を読んでいた。その顔は苦虫を何匹も嚙み潰したようにしかめられていて、不機嫌さを隠そうともしていない。


「……ブリガンディアの、オルトロス商会が、壊滅……? 商会長のガノッサは、全身の骨を砕かれ、再起不能……?」


 報告に来た部下は、恐怖に震えながら、頷いた。


「は、はい……。たったひとりの、女の手によって……。おそらく、偽りの聖女、セレスティアかと……」

「……あの、女……!」


 宰相は、怒りのあまり報告書を握り潰した。

 彼の計画は順調に進められていた。オルトロス商会を使って、ブリガンディアの富を独占し、それを軍資金として、権力基盤を固めていた。


「だというのに、そのすべてが、あの脳筋女によって台無しにされてしまった!」


 しかも最悪なことに、彼女はブリガンディアの民衆から英雄として崇められているという。思いもよらぬ状況になっていた。これでは下手に手出しをすると、王国全体を巻き込む大規模な反乱に繋がりかねない。


「……忌々しい。なぜあの女は、ことごとく私の計画を嗅ぎつける……?」


 宰相は歯ぎしりをした。

 もちろんセレスティアは、そんなことなど毛の先ほどにも気づいていない。彼の計画などまったく知らずに、ただ目の前の面倒ごとを、物理的に排除しているだけだ。

 デューク・ヴァルトとて、彼女が「面倒だ」というだけで盾ついてきているとは夢にも思っていない。彼は、セレスティアを、自分と渡り合えるほどの知略と情報網を持った恐るべき敵だと、完全に勘違いしていた。


「……だが、それも時間の問題だ」


 宰相は不気味に、口の端を吊り上げた。


「あの女が、ゾルタンの爺から例の『地図』を手に入れたという報告も入っている」

「はっ! では、計画通り……!」

「うむ。あの地図は、ただの宝の地図ではない。あれは『忘れられた神々の遺跡』――その最深部に封印された、我が一族の最大の禁忌……王国を転覆させるほどの力を秘めた『遺物』のありかを示している」


 宰相の目が、狂信的な光を宿す。


「そして遺跡には、我らの一族にしか解けぬ古代の罠と仕掛けが、無数に施してある。いくらあの女の腕が立とうと、生きて戻ることはできん」


 そう。あの宝の地図は、宰相がセレスティアを確実に葬るために、巧妙に仕組んだ罠だった。彼女が金や力に目がくらみ、必ずその地図の示す場所へ向かうと読んでいたのだ。

 そして、その読みは完璧に的中していた。


「セレスティアよ。古代遺跡の奥で、己の愚かさを呪いながら朽ち果てるがいい」


 宰相は、窓の外に広がる王都の景色を見下ろしながら、勝利を確信したように冷たく笑うのだった。



   ◇   ◇   ◇



 ブリガンティアの街を離れ、意気揚々と宝探しの旅に出た私とカイン。

 偶然手に入れた宝の地図を片手に、遂にそれらしき場所へとたどり着いた。


「カイン! 地図によると、あの山の向こうらしいですよ! 急ぎましょう!」

「は、はい、セレス様。ですが、足元にお気をつけて! この辺りは毒蛇も多いと聞きますから……」


 カインは私の忠実な護衛として、そして慎重なツッコミ役として、完璧に機能していた。そんな彼の心配をよそに、私は岩場を猿のように軽々と飛び越えていく。


 私の頭の中は、金銀財宝でいっぱいだった。黄金の枕、宝石をちりばめたドレス、そして毎日、食べきれないほどの高級な肉、肉、肉……!


「ふふっ、ふふふふ……! 待ってなさい、私のお宝ちゃん……!」


 これから向かう先が、ただの遺跡ではなく、私を殺すために仕組まれた、巨大な罠の巣窟だとは夢にも思わず。ただひたすらに、己の欲望のまま、その危険な山脈へと突き進んでいくのだった。



 -つづく-

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