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2話 俺の猫が強すぎる

 

 悪い予感ほど当たるもので、やはり俺はなにも持たず森の入り口に立ち尽くすことになった。


 この森を抜ければ隣国らしいが、俺を馬車から放り投げたムキムキの御者が言うには「まあ、無事に抜けられればの話だがな」だそうだ。

 生きて抜けられる見込みはほぼゼロってことなんだろう。

 デラグロス、さすが神様にまでろくでもないと言わしめる国だ。国外追放は野垂れ死ねって意味だったらしい。


 ま、恨み節を並べても仕方ないか。

 そんなことよりミイちゃんだ。


 たしか神様は「城を出たら会えるよう取り計らう」と言っていたな。勢い余って国を出ちゃったぞ。どうしよう。

 というか魔物が居る世界に落とされてミイちゃんは無事なんだろうか。


 ミイちゃんを連れていきたいと考えてしまったあの時の自分をぶん殴りたくなった頃、チリンとかすかな鈴の音が聞こえた。

 ほどなくするとこちらに向かって走ってくる可愛い猫が一匹。

 澄んだ空色の瞳に合わせたブルーの首輪にシルバーの鈴。淡いグレーのシャムトラ柄が銀色に光って見える。


 間違えようもない、俺のミイちゃんだ。


「ミイちゃん! やった! 会えたぞ! 神様ありがとう!」


 ここ一番の笑顔で両腕を広げ、待つこと数秒。


 ―あれ?


 近づいてくるミイちゃんがどんどん大きくなってる気がする。


 いや、確実に大きくなってる。


「ン~~~にゃっ!」


 可愛いままの声でひと鳴きして、ざあっと粉塵を巻き上げながらミイちゃんが俺の前で止まった。

 そして玄関で出迎えてくれる時によくやる、定番のモーションに入る。

 あ、頭突きだ。

 どうっと胸に衝撃が来て、俺はひっくり返った。

 今まではふくらはぎにコツンだったのに、すごい威力だ。


「ミイちゃん……ちょっと見ない間にずいぶん大きくなったね」


 なかなか痛かったが、そんなことはどうでもいい。

 猫の頭突きは愛情表現なのだ。


「こんなところに呼んじゃってごめん。でも、会えて嬉しいよ」


 元の10倍以上ありそうな巨体でずいっと顔を近づけてくるミイちゃんを存分にハグする。

 腕いっぱいのふわふわ。ミイちゃんのにおい。

 小さいミイちゃんも可愛かったけど、これはこれで抱きしめ甲斐があっていいな。

 俺がミイちゃんを心配しまくってたから、きっと神様が大きくしてくれたんだろう。

 猫の身体能力はずば抜けてて、サイズが上がるだけで人間は太刀打ちできないって言うもんね。


 今までの不安を拭うように、ひとしきり柔らかな毛並みを堪能させてもらった。

 それじゃ次は可愛いお顔を拝見。

 いそいそと体を起こすと、ミイちゃんの瞳は俺ではなくじっと虚空を見つめていた。


 あ、これ、飛んでる虫見つけた時の顔だ。


 振り返るとそこには虫……ではなく、巨大な鳥の姿があった。そうだった。ミイちゃんに会えてすっかり気を抜いていたが、ここは魔物が居る世界なんだった。

 

 ギエエエエ!!


 すさまじい鳴き声に背筋が凍り付く。やばい。死んだわ。一瞬で体が察した。

 巨大鳥が俺たちに狙いを定め、滑空してくる。


「ぎゃあああああ!」


 俺は悲鳴をあげながらも咄嗟にミイちゃんを庇うように片手を出す。

 トッ、と軽快に俺の腕を飛び越え、ミイちゃんが空を舞った。ゆうに数十メートルは飛んだんじゃないだろうか。それから空中で綺麗に体を捻り、巨大鳥の首を噛んで着地。

 ドフッ。

 墜落した鳥を前足で押さえつけるミイちゃん。しかしすでに巨大鳥はぐったりとして動かなかった。

 見るとミイちゃんに噛まれた鳥の首はほぼ千切れている。

 まさか首の皮1枚繋がった状態をリアルで目にすることになるとは……。

 一足遅れてひらりと舞い落ちる巨大鳥の羽を眺めながら呟く。


「俺のミイちゃんが強すぎる……」


『ミイチャンつよい!』


 え…?


「今の声、ミイちゃん……?」

『ミイチャン!』


 ミイちゃん、喋れるんだ……。



 驚きの連続を処理するのに時間がかかってしばらく呆然としてしまった。


『おれ、これ食べれる。ミイチャンと食べよ』


 ミイちゃんからのはじめての食事のお誘いか。それは断れないな。

 だがミイちゃんの指す食材は、先ほど一瞬で狩った巨大鳥だ。ほんとに食べられるの?

 とにかく鑑定だ。


【ロックバード】

 Bランク

 高級食材


 うん、食べられるみたいだ。しかも高級食材。

 Bランクって強い魔物っぽいなと少し気になったが、狩られたからにはただの新鮮なお肉だ。ミイちゃんに美味しく食べてもらおう。

 ついでに俺もいただきます。


「ミイちゃんありがとうね」


 お礼を言うと、にまり、と目を細めてミイちゃんは嬉しそうな顔をする。


 とはいえ生肉を食べるわけにも、食わせるわけにもいかないな。どうしようか。


「料理するにも最低限ナイフと火がないとなぁ」


 つぶやいてふと気づく。あの気遣いのできる神様が、何も持たせないとは考えにくい。

 アイテムボックスがあるんだから、中になにか入れてくれたりしてないだろうか。

 期待を込めてアイテムボックスを探ると、大ぶりの麻袋がいくつか出てきた。

 さすが気遣いの神。いや、何を司る神様かわからないけど。ともかく感謝します、神よ。

 

 さて、ひとつずつ開けていこう。


 まずは1袋目。

 パン、ドライフルーツ、木の実、干し肉、岩塩、革袋に入った飲料水。

 これは食料だな。


 2袋目。

 金貨の入った小袋、ナイフ、ロープ、毛布、木で作られた食器類。鉄の鍋とフライパン。

 そして魔導書だ。 

 表紙には『生活魔法』と書いてある。

 鑑定してみると、補足欄に『読めば生活魔法が身につく』とあったので早速火魔法の項目を読み込む。

 指先に意識を集中してイメージ……チャッカマンでいいかな?

 考えた途端、ポッ、と指先に火がともった。

 熱っ…くはないな。

 ナイフにフライパンに火。薪は目の前の森で拾えるだろう。これで料理はクリアできそうだ。

 それにしても便利すぎるな、生活魔法。


 最後の袋はかなり小ぶりだ。

 中を開くと綺麗な石が一つ。見た感じ宝石っぽいな。

 別の袋に金貨が入っているんだから、売って金にしろってわけではなさそうだが。一体何に使うんだろう。

 ひとまず取り出してみよう、と石にふれた瞬間、石とともに俺の体が光った。


「うおっ! なんだ!?」


 強い光にぎゅっと閉じた目をおそるおそる開くと石がなくなっていた。


「え? どうなったの?」

『ミイチャン見た。体に入った』

「俺の体に?」

『おれの体に入った』


 そうか…俺の体に入ったか。

 神様がくれたものだから悪いものではないだろうけど、効能は知りたいぞ。


 とりあえず自分を鑑定してみる。


【主神アルディオスの加護】 病や状態異常の無効化etc…


 最後のエトセトラが気になるところではあるが、病気や状態異常にならないのはありがたい。

 さすが気遣いの神、改め主神アルディオス様。

 感謝します、神よ。


 天を仰ぐ俺の頬に、ミイちゃんがするりと顔を寄せる。

 一緒にお礼を言ってくれてるのかな。本当に可愛い子だ。


『ゴハ~ン』


 ゴハンの催促だった。


 俺はミイちゃんの要望を叶えるべく立ち上がる。

 魔物なんか捌いたことないけど、きっとどうにかなるだろう。

 ですよね、神よ。


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