1章 3
廃墟と化した街を、鴉は無言で歩いていた。冷たい風が、ボロボロの学ランをはためかせる。遠くで鳴り響く爆音でさえ、今や鴉にはただの「背景音」に過ぎない。
鉄パイプを肩に担ぎ、鴉の目は細かく瓦礫の隙間をなぞる。
その目的は物資――食料や水、時には武器や弾薬。
終末の世界で「生きる」ために、一瞬たりとも油断はできない。
「……ハズレか」
掘り出したのは、ただの壊れた電子部品だった。肩をすくめ、それを投げ捨てると、すぐさま次の探索へと身を移す。
だが、その時だった。
背後からガラスが割れる音が響く。
「……いるのか」
振り向きもしないまま、鴉は声をかける。鉄パイプをゆっくりと握り直す。その耳に届くのは複数の足音。二人、いや三人。廃墟の静寂が少しずつ破られていく。
「俺に近づくのは命知らずだぞ」
警告を発するも、足音は一向に止むことなく近づいてくる。鴉は小さくため息をついた。
「みんなそんなに俺に会いたいのかよ」
視界の端に、人影が現れる。汚れたマスクを被った男。その後ろに、もう二人。誰もが似たり寄ったりの装備だった。
「おいおい、パーティ組んでんのか? 仲良しさんだな」
軽口を叩きながら鉄パイプを軽く構える。
三人のうちの一人が、古びた銃をゆっくりと鴉に向けてきた。
「こっちはパイプだぞ? そんなビビんなよ」
銃口が動く瞬間、鴉の身体はまるで風そのものだった。鉄パイプが空を切り、その一撃で銃を叩き落とす。
「甘いな」
メキッ!
低い呟きとともに、男が地面に沈む。
無駄のない動きは、踊りのように滑らかで力強い。残る男たちは、恐る恐る後ずさり始める。
「もう帰るか? それともまだやるか」
鴉の静かな問いに、男たちは無言で瓦礫の陰に消えていった。その姿を見送りながら、鴉は鉄パイプを肩に再び乗せる。
「相変わらず、くだらねぇ連中だ」
ぼそりと呟いた声が、冷たい風にかき消される。
鴉は再び歩き出す。終末の世界で生き抜く日々。
その果てに彼が見つけるのは、希望か、それともさらなる絶望か――。