表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

菊池祭り 参加作品

駆け込み乗船はご遠慮ください

作者: 瀬嵐しるん
掲載日:2024/08/16


『移民船最終便、間もなく離陸いたします』


役目を終えた人工の星から、最後の船が出る。


『星間航行船は最終となりますが、人工星中央部よりワープ移動も可能です』


あらかたの人々は乗り終え、離陸の瞬間を待っている。


『人工星は役目を終えましたが、星間航行船の特別中継地として維持されます』


百年前には科学調査の最前線だった人工星も、もっと遠くに作られた後進星に役目を譲った。

新しい航路から外れた場所にある人工星は、もしもの時の避難中継地となったのだ。


『主な業務はコンピュータとロボットが請け負いますが、人類の生存に必要な機能は常時維持されます』


ここに残るのは、終の棲家を見定めた技師ぐらい。


『慌てなくても大丈夫です。駆け込み乗船はご遠慮ください。

移民船最終便、間もなく……』



僕は慌てていた、走っていた。

乗る予定だった移民船最終便。

少しだけ、ほんの少しだけ寝坊してしまったのだ。


彼女の言う通り、離陸場近くのカプセルホテルに泊まるべきだった。


だけど、住み慣れた小さな部屋に、最後の晩まで居たかったんだ。



離陸場までのシャトルバスは、既に出発してしまった。


僕は、ありったけの水を、置いて行くつもりだったスクーターに注いだ。

水はタンクに入った瞬間、エネルギーになるべく分解され変換されていく。


そして、エネルギーは満タン。

僕は到着点を、離陸場に設定した。


スクーターは人工星の指示を仰ぎながら、最高速度で道路を爆走する。

既にほとんどの人類は移住してしまった。

ロボットは遠距離移動などしないし、道路はガラ空きだ。



飛ばして飛ばして、やっと着いた離陸場。


閑散としたバイク置き場にスクーターを放置し、慌てて階段を駆け上る。



『……駆け込み乗船はご遠慮ください』


繰り返されるアナウンス。

それを無視するように船に飛び乗る。


直後、扉が閉まった。


『予定の人員が全員乗り込みましたので、ただ今より、離陸いたします』


船は静かに動き出した。



ラウンジへ行ってみると、一人の中年女性がカクテルを飲んでいる。

僕の姿を見つけると、複雑そうな顔をした。


「菊池君」


「手毬」


「間に合ったんだね」


「うん、もう失敗できない」


僕と手毬は、同じ年に、同じ人工星で生まれた。

そして、職種は違うが、同じ最先端の人工星で働くことになった。


ところが、僕は船外作業中の事故で、しばらく宇宙を彷徨うことになった。

運よく運搬船に拾われたが、すぐに元の星には帰れず、そのまま運搬船を手伝うことに。


そして、やっと目指す人工星に戻った時には、ワープの影響で、同じ年生まれの手毬とは十歳の年の差が出来ていた。


それから五年。

僕は三十歳に、手毬は四十歳になった。

僕は手毬に執着したが、手毬は年上になったから、といつも素っ気なくする。



「来なくてもよかったのに」


「今度、離れ離れになったら、もう会えないかもしれない」


「……だから、来なくてもよかったのに」


「手毬」


「どうして、最後の夜に、自分の部屋に居たかったの?」


「手毬との思い出の部屋だから」


手毬は唖然としていた。

思い出と言っても、初めての……とかではない。

ただの幼馴染として、ただの友達として同じ星に来た手毬。

僕が移動直後、酷い時差ボケに苦しんでいた時、手毬がお手製のドリンクを持って来てくれた。それだけの話だ。


小さい頃から、ずっと好きだった女の子が、自分だけのために作ったものを、部屋まで差し入れに来てくれた。


それが、どんなに嬉しいことか、わかるかい?


それからしばらくして事故にあい、まともに付き合ったこともない僕たち。

でもせめて、君の側から離れたくはない。


「馬鹿ね」


そう言って、手毬は僕を抱き締めてくれた。


「もう君の側を離れたくないんだ」


「知ってる。もう、離さないで」



僕らは急いで婚姻届けを出し、カップル用コールドスリープ装置に入った。

万が一の事故にあっても、これなら一緒に逝ける。


「神様、お願いします!」


どこのどんな神様も信じていないくせに、こんな時には神頼みしか残らないのだ。


「そんなことより、キスをして」


可愛い手毬にねだられる。


僕らは三回キスをして、それから二人して装置内のスイッチを押した。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 菊池祭りから参りました。 10年の遅刻、でももう失敗は出来ない。 タイトルの意味が素敵ですね。 次に目覚めるときは、同じ景色を共に眺められそうですね。 読ませていただきありがとうございました…
[良い点] 未来の菊池と手毬来たー!笑 でも、ちょっとシリアス。 二人が無事に新たな土地で幸せに暮らせるよう、祈ります。 それぞれ時を超えた菊池たちが愛おしく、離れがたいです。 。゜(゜´ω`゜…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ