復活の代償
「覚悟しなさい、ザデビル」
「だ~か~ら~、俺の名前はザデビルじゃなくザ・デビルだっつ~の! ――って、んなこと言ってる場合じゃねぇ!」
突然だが、俺様の名前はザ・デビル。この世界じゃちょいと名の知れた悪魔なのさ。
それが有名に成りすぎちまったせいか、今にも討伐されそうに――
ガシッ!
「……捕まえた」
「ぎょえぇぇぇ!? は、離せ、離せっての! あ、いや、お離し下さいませ」
マズイマズイマズイマズイ、勇者一行がこんなに強ぇなんて聞いてねぇぞ!?
「ルー、ミリー、殺ってしまいなさい!」
「「……イェス、マスター」」
「アガガガガ!? ガ……ァ……」
こうして俺様はあっさりと殺られちまったわけだ。つ~か勇者一行マジで許すマジ!
だがこのまま終わる俺様じゃねぇ。いつの日か復活してやる、絶対にだ!
★★★★★
ドシャーーーーーーン!
「ヒィ!? お、おい、コイツに雷が直撃したぞ?」
「わ、わ~ってるよ! でも雷なら仕方ねぇだろ?」
「ああ、俺たちゃ何も悪くねぇ」
な~んか騒がしいなぁ? それになんだ、この感覚は。まるで地面に横たわって……
ガバッ!
「「「ひぎゃぁぁぁ!?」」」
「……って、うるせぇなバカヤロウ――」
と、叫んで気付いた。コイツら、何をそんなにビビってんだと。
そこで俺様、ピ~ンときたさ。こりゃ面白いもんが眠ってるぞってな。
「どれどれど~れ、ちょいとお記憶拝見しますよっと」
「「「!?」」」
相も変わらずビビり散らしている男共を見据え、一人一人の記憶を読み取っていく。
特別な作業は必要ないぜ? 相手の頭に視点を合わせるだけだしな。まぁアレだ、俺様みたいな最強の悪魔ならこの程度はゾウさんもないってな。アレ? 造作もないだっけか? まぁどっちでもいいか。
だがコイツらに関しちゃそうも言ってられねぇ。こともあろうにコイツら、ホームレスの俺をボコして憂さ晴らしをしていたらしいからな。
あ、言っとくが俺がホームレスだったわけじゃねぇからな? 元の持ち主の話だから、そこんとこ間違えるなよ!
「よ~う、お前ら。寄って集って随分なことしてくれたじゃねぇの。全員覚悟はできてんだろうなぁ?」
「な、なんだコイツ、雷に打たれておかしくなったのか?」
「かもしれねぇ」
「だ、だったら遠慮はいらねぇ、もう一度ボコすまでだぜ!」
三人で顔を見合せ、再度襲ってくる暴漢野郎共。バカですか? バカですねぇ!
ガシガシガシッ!
「いででででで!?」
「う、腕がぁぁぁ!」
「止めろ、止めてくれぇぇぇ!」
両手で2人の手を捻り上げ、残りの野郎の腕を脇で挟み込んでやった。野郎共はもがくが、悪魔の俺に力で対抗できる人間はいねぇ。
ボキッボキッ――グシャ!
「「「ギャァァァァァァ!」」」
おっと、力が入り過ぎて3人の手と腕を潰しちまった。
でもほっといたら生えてくんだろ。
え……生えないの!? 人間ってば不便な生き物ですねぇ!
「ち、ちきしょう、覚えてろ!」
「お、おい!?」
「置いてくなよ!」
おやおや、這って逃げ出すくらいの勇気は残っていたんだ? でも只じゃ逃がしまへ~ん。リーダー各の野郎は残して、他2人の記憶を部分的に消去してやった。正確には24時間前の記憶に戻してやったんだ。
仲間2人に記憶が無いと知った時のリーダーの反応、実に楽しみですなぁ? アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!
「そんじゃま、コッソリ後つけるか。きっと面白いもんが見れますぜ旦那ぁ!」
シュバ!
「――とと、危ねぇ危ねぇ。この世界にゃ空を飛べる奴は居ないんだった。通報されたらアウトやん」
アイツらの記憶を覗いて分かったことがある。それはこの世界には魔力というものが認知されてないっていう事実だ。
魔力がなけりゃ魔法は使えない。そして主成分に魔力を含む魔物――つまりはモンスターもこの世界には居ないときた。
随分とショボくれた世界に来ちまったもんだ。
じゃあ元の世界に帰りたいかって? 嫌だね。俺様はマゾじゃねぇ、だ~れが好き好んで勇者にボコられるかっての。
「……って、ああ! 考え事してたらアイツら見失ったじゃねぇかぁ!」
せ~っかく面白いもん見れると思ったのによぉ。
ピクン!
「んん? この反応は……」
この懐かしくも心地よいオーラ。絶望に絶望を重ねて出来たような負のオーラ。
いいぜいいぜぇ? 俺が生きていくにはこういった負の感情が必要不可欠なんだ。そういった奴らの魂が俺様の主食ってわけ。
「よ~し、決めた。今夜のご馳走はテメェだぁぁぁ!」
ダッ!
周囲に誰も居ないのを確認し、ビルの壁を駆け上がって行く。
物理法則を無視するなって? な~んの、俺様は悪魔だ。決まりごとなんて守りまテ~ン♪
「あらよっと、到着しましたよっとっと~~~」
「~ぉお!?」
ビルの屋上に出ると、制服を着た若い女がいた。コイツが負のオーラの持ち主だ。
良いじゃん良いじゃ~ん。年寄り共はどこか悟った連中が多くてよ、鮮度がごっそり落ちてやがんのよなぁ。それに比べてこの若い女。え~と……この世界ではリアルJKと呼ばれてるらしい。
「…………」
俺様に背を向けて地上を眺めているリアルJK。気付いてないなら好都合。
そんじゃあ美味しくいただこうかってところで、女が予想外の行動に出やがった。
「さよなら……」
バッ!
「――は?」
「はぁぁぁあああ!?」
待て待て待て待て! あの女、こんなたっかい場所から飛び降りやがったぞ!? 死んだ人間からじゃ僅かな負の感情しか接種できねぇんだ。そんなん許されるかよ!
「うぉ~い、待ちやがれぇぇぇ!」
慌てて追いかけるがもう遅い。どう頑張っても先に女が地上に激突しちまう!
「クソガ! こうなりゃ仕方ねぇ、強制契約!」
これは一方的に契約を結ぶスキルで、相手の身体へ自由に出入りできる権限を獲るものだ。これを使えば――
フワッ!
「――っとぉ、危機一髪~~~ぅ!」
俺様の飛行スキルで地面スレスレで激突を回避。そのまま飛び上がり、ビルの屋上へと戻った。
「戻って参りました~~~っと。女も無事だし、新鮮なうちに――いっただっきま~」
「――って、しまったぁぁぁ! 契約したら食えねぇじゃん!」
バッカじゃん俺! すっかり失念してたってばよ!
契約者の死亡は俺様の死を意味するんだ。つまり俺様が生き続けるには、この女が死なないよう護ってやる必要があるってこった。
これじゃあご馳走どころじゃねぇわ、ああしんど……。
『ねぇ……』
およ? 身体の持ち主が脳裏に呼び掛けて来やがった。
「何か用か? 今俺様は特大のご馳走を食い損ねて大変ご立腹なんだ」
『そんなことより早く出てってよ。せっかく死のうと思ったのに死ねなかったじゃん』
うぉう、やっぱり自殺志願者かよ。
「悪いねチミィ。たった今からチミの身体は俺様のもんさ。拒否権は無いぜぇ? だって俺様は悪魔だからなぁ、アッヒャヒャヒャヒャ!」
『はぁ、ダル……。何で私ばっかりこんな目に……』
「あ? 文句あっか? テメェの身体を有効活用してやるって言ってんだ。グチグチ言ってっとブッ殺――」
――って、ダメだダメだ、この女を殺っちまったら俺まで死んじまう!
『ブッ殺す?』
「そ、そんなわけないでしょう。チミは生きなきゃダメなんザマスよ? 俺様のためにもね。だから自殺なんてバカな真似は止しなさいって」
『そうは言っても……生きてて良い事なんて一つもない……』
おおぅ、負のオーラが増大中! こりゃ末期症状ですな~。魂ごと食えないのがもどかしい!
ま、それでも負の感情を吸うくらいなら出来るし、それで我慢すっか。
「損感吸収!」
このスキルは負の感情を取り込む技だ。これが有れば、そこらの人間から糧として奪取できるってわけ。俺様の生活には必須のスキルなのさ。
『あ、なんか頭がスッキリしていく』
「そいつぁ良かった。もう二度と自殺しようなんて思うなよ」
『それは無理』キッパリ
「なしてよぉ!?」
『それは……』
何やら深い理由が有るらしい。
あ、そういやコイツの記憶を読み取ってなかったっけ。ちょいと失礼してっと……
~~~~~
ここは……この女が通ってる学校だな。その学校の屋上で、複数の男女に囲まれてやがる。いったい何を話してるんだ?
「さっさと出しなよクズ!」
「…………」
「おい、シカトかよ! テメェ、自分の立場が分かってねぇみたいだな? また囲んでボコられてぇのか?」
「……もう、お金ない……」
「ああ? だったら身体で稼いで来いよ。また男を紹介してやんよ!」
「そ、それは嫌!」
「っせぇぞゴルァ! クラスで苛められていたテメェを助けたのは俺たちだろうが! 恩を仇で返すってのか!?」
「そ、それは……」
ほぅほぅ、弱味に突け込むやり方か。元の世界でもよくあった話だ。魔物に襲われた新米冒険者が鬼畜なベテラン冒険者に助けられるパターンな。それで死ぬまで使いっパシリにされる奴は珍しくない。
「違うんなら黙って従えよ。そうだなぁ……今度は本番ありで募集かけてみっか? いいカモが釣れそうだぜ!」
「いいねソレ、やろうやろう!」
「うし、顔写真付きで貼りつけるか【私の処女を貰ってください】っと」
「止めてぇぇぇぇぇぇ!」
~~~~~
「なるほどなるほど、チミのことは大体分かったぜぇ? つまり、あのヤンキー共を食っちまえばいいわけだ」
『……できるの? そんなことが』
「ったりめぇよ! 俺様を誰だと想ってやがる?」
『……ホームレスの男の人』
「そりゃ見た目の話だ! 見た目で判断すんなって、教育されなかったのかよぉ!」
けど今後は見た目も重要になるな。せめて不審者に見られない格好にしとくか。
「まぁとにかくだ、あのヤンキー共はどこにいる?」
『女子たちはこのビルの空き部屋で待機してて、男子たちは下で見張りをやってる。後は客が待つ部屋に私が行けば、そこで……』
イヤ~ンな展開が待ち受けてると。
つ~かさっきボコった連中は見張り役だったのか。そこにホームレスが通りかかり、追い払うためにボコしたんだな。
「よし、まずは女共をシバきに行くか。人間なら何人相手でも問題ねぇし」
『やっぱり貴方、人間じゃないんだね。名前は何て言うの?』
「俺か? よくぞ聞いてくれました! 誰もが恐れる究極の悪魔こと、ザ・デビル様とは俺様の――」
「里見、こんなところに居やがったのか!」
俺様の自己紹介に割り込む頭の悪そうな女共が現れた。もしかしなくてもこの女を脅していたヤンキー女だ。
「テメェがモタモタしてっから見張りの奴らが妙な男にやられちまっただろうが!」
「仕方ねぇからアタシらは帰るけど、アンタはキッチリ稼いで来いよ?」
だが断る。俺様は命令されるのが大嫌いなんでね。
「無事に帰す気はないんだなぁぁぁ!」
「「「!?」」」
驚いた表情を見せるヤンキー女。まさかこの女――里見彩音が反抗するとは思わなかったんだろう。
「お、お前、里見……か? 何だか雰囲気が違うような……」
「んなこたぁどうだっていい。お前らはどう足掻いてもアウトなんだよ」
ズボッ!
「ぐえぇ!?」
「「ヒィッ!?」」
リーダー各の女の胸に手を突っ込み、心臓を握ってやった。激痛と絶望の狭間で歪む顔がスパイスとなり、更に食欲を掻き立てる。
一方で他の2人は腰を抜かし、言葉を発せないでいた。
「あ~いいねぇその表情。これから死に行くテメェにピッタリの顔じゃねぇか」
特にこのリーダー各からは多くの暴力を受けてるからな。彩音が止めない限りは生かしておくつもりもない。
『どうするアヤネ?』
念話で呼び掛けると、速攻で返答が返ってきた。
『……処刑で』
『おっけ~い!』
ひょっとしたら助けるんじゃないかという予想は皆無に終わり、リーダー女――佐野魔由子の処刑が確定。一気に心臓を握り潰した。
ブシュ!
「ガフ…………」
その瞬間、佐野魔由子が纏っていた負の感情が快楽として全身を駆け巡る。
うう~ん、これこれ。この感覚がクセになるんだよ。これだから止めらんねぇ!
「ヒィィィィィィ!?」
「ああ……ああああ……」
おっと、コイツらもどうにかしないとな。
『その2人はいい、只の腰巾着だから』
『ホントにいいのか? 俺様としちゃ処刑する方が楽しいんだが』
『うん、全員が死ぬと私が疑われるし。それより早く気絶させて、空き部屋に運んで欲しいの。記憶を消すのも忘れずにね』
『お、おぅ……』
死体を前にして冷静に指示を出してくるアヤネが末恐ろしい!
『よっと、取りあえず気絶させといたぜ。それでアヤネ、佐野魔由子の死体はどうすんだ?』
『もう一人のリーダー各の男――竹内正午の部屋に運んで。そうすれば濡れ衣を着せられる』
『ビューチフー♪』
なんという事でしょう! このザ・デビルに更なる楽しみを提供してくれるとは!
『分かってるねぇ! お前と契約して後悔してたけど、やっぱ契約して正解だったわ』
『そう? じゃあザデビル――』
『ザ・デビルだ! 点を入れろ点を!』
『……ごめん。ザ・デビル、知ってると思うけど、私は里見彩音。今後ともよろしく』
『おう!』
こうして里見彩音との奇妙な共同生活が始まったわけさ。