第三章 はじめの一歩
なんで無力化隊に入らせてくれないんですか!
あれから何日たったのだろう、EMウイルスがただのウイルスと思えなくなったのは。
特訓三日目
「なぁ、少年その傷治ったか?」
食事の片付けの最中急に聞かれる、チェアにもたれガタガタ揺らしながら聞いてくる彼女は「もう回復してるっしょ」と言わんばかりの表情だった。
「全然治ってませんしまだ痛いです」
そしてチェアの動きを止め少し前のめりになり考える師匠、そこで耳にしたのは「やっぱり感染を早めるか?」とまぁまぁやべぇことをつぶやいていた。
「逆に師匠はケガとかないんですか?」
さすがにケガの一つはあると思い聞いてみるが予想外の答えが返ってきた。
「あぁ、一つもないよ」
あの森林の中であんな速度でしかも長袖でもないのに何一つもけががないと聞き一瞬自分自身の耳を疑う希来、だが理由を述べてくれる師匠。
「ウイルスの反応で傷は一瞬で治るんだ」
(?)
やはり説明されてもわけがわからないし、しかも追加で「病気にもならないと」説明する様である、もう希来の頭の中では師匠の体がめっちゃ丈夫ということで結論付けることしかできなかった。
「少年もフェーズワンになれば万年健康だぞ」
片づけ終わりリビングに戻ると師匠から「んっ」と、ピンポン玉ぐらいの漆黒の球体を渡される。
「師匠これなんですか?」
聞いてはみたが「まぁまずいったん食え」といわれ口の中に放り込む実際無味無臭で一瞬で口の中で消えてしまった。
「これ何という食べ物ですか?」
もう一度聞いてみるが驚きの回答が返ってくる。
「え?、あぁそれね、私が作ったウイルス玉だよ」
「え?」
一瞬自分の耳を疑う、そして希来は心の中で(今日は耳が遠いな)と思い現実逃避をする。
(さすがに自分の弟子を殺すような真似はしないだろう)
とは思うが本当にウイルスなら大惨事だ、だがそんなことを考えていると腕の痛みが無くなっていくのがわかる、腕の包帯を外し傷を探すがどこにもない、(あれ?)と一瞬思い師匠に目線を送る。
「お!、対抗がついたみたいだな」
(えぇ、、、)
こんな覚悟もなくあっさり対抗できていいものなのだろうかと思い回復した自分の四肢を動かす。
「よし対抗もできたことだし、特訓始めるぞ」
そして開けた森にて特訓が始まる。
「まずはエモーションの基礎的な操作だ」
そう言うと師匠は拳に力を籠めるそして拳が少し白く輝く、そして近くの大木を殴るその瞬間殴った大木が折れ地にひれ伏す。
「えぇ、、」
倒れた大木を眺めこちらに顔向ける。
「これが基礎的な操作だ」
と言われてもやり方がわからない、そしてジェスチャーもしてはくれるがもっとわからない。
「だから、キューンって溜めてドーンだYO!」
(、、、何もわからない)
その後夜までジェスチャーが続きその日の進展はゼロだった。
後日
(今日は師匠よりも早く起きてしまった)
外は少し明るい、朝の四時くらいだろうか昨日のジェスチャーはわからなかったがだいたいは頑張って理解したためその復習をしようと外に出る。
(攻撃に使いたい部分感情を籠めて)
暗い辺りが上る日によって少しづつ明るくなっていく、それとともに師匠が起きドアを開け外に出る、そして復習中の希来の姿が目に入る。
(いい筋してるじゃないか)
集中している彼には朝日すらも眼中にはなかった、そして直ぐ近くの大木に狙いを定めぶん殴り大木をへし折る、折れた大木を見ていると拍手が聞こえる。
「やったじゃないか」
だが希来は不満そうに答える。
「まだまだです、これからもっと強くなっていかないと」
希来は決意したのだろうか彼のエモーションの量が先ほどよりも増えたのが目を通してもわかる。
(こんな早期に基礎能力が跳ね上がるってことは、私を超えるのも時間の問題だな)
「少年、もうs」
話しかけようとした瞬間割り切って彼の申し出が来る。
「師匠、私と模擬戦をしてくれませんか」
少し驚いたが、その熱意にこたえてあげるのも師匠の役目と思いその申し出を受ける、無防備だとはわかっていても若者を止めるわけにはいかない。
「さぁ、どこからでもおいで」
朝飯前だが互いに構える。
「ふ~」
希来が息を吐きゾーンに入る。
(そうだそうだ、集中しろ最初の頃はそうやってエモーションが流れる感覚を体に叩き込め)
感覚が研ぎ澄まされ拳ではなく今度は足にエモーションを流す、だが希来は頭の中で考える。
(足に10流すだけでは火力が足りないなら腕に3、足に7いや、4対6で攻撃する)
エモーションの分配が決まった瞬間、師匠との間合いを詰め拳を振りかざす、だが避けられる。
「よっと、危ない危ない」
彼女が避けるそして再度、希来は頭の中で考える。
(やはり避けられるか、なら今度は3対7で蹴る)
からぶった拳を軸にして体制を立て直し回しげりを二回繰り出すだが、またもや簡単に受け流されてしまう、そしてストップをかけられる。
「はいそこまで、一端朝飯にしよう」
まだ続けていたがったが体は正直であった、「グゥ~~~」と腹がなり空腹感を覚える、「フッ」と鼻で笑われるが顔はとても笑っていた。
場所は変わり、リビング
「今日はチーズリゾットを作ってみたんだがどうだ?」
食卓には白く湯気を立てチーズの香ばしい匂いが充満していた、香ばしい香りの犯人であるチーズリゾット本人は、美しい光沢を見せフェロモンのように匂いを振りまく。
「カマンベールを使ってみたんだ、今日は結構自信作だ!」
師匠はドヤ顔をし「フン」と鼻を鳴らす、だが実際チーズリゾットの魅力はすさまじく、希来は唾を呑んだ、そして、腹の虫は鳴りやむことを知らず今か今かとさじを握っていた。
彼女がチェアに座り「いただこう」と言う、希来も「いただきます」と言い我先にとリゾットにさじを入れる、チーズの香ばしさと程よい塩味がハーモニーを奏で一瞬で完食してしまった、だが察してくれたのだろう師匠がまたキッチンに入りまたもや香ばしい匂いが漂ってくる、そしてたらふく食べた後、再び模擬戦に入り一日を終えた。
この日から実戦のトレーニングが続き今となっては師匠とほぼ互角まで上り詰めた、だがやはり最終的に手数の差で圧倒されてしまうのがいつもだった。
「やるようになったじゃないか少年」
黒い球をぶら下げ構える師匠、そして彼女が黒い球の一つ口に入れたと思った瞬間、目にもとまらぬ速さで希来の背後に回り、拳にエモーションを籠める、それを迎え撃つかのように距離を取り、拳にエモーションを籠める。
「いつもみたいに手数で押されちゃうよ?」
煽る師匠、だがそんなことにも揺るがない眼、それに屈したかのように拳を収める師匠、だが彼女の手の中には多くの黒い球が握られていた。
「なら、最終試練だ、私の最大出力に耐えてみろ」
その言葉の通り彼女は手に持っていた黒い球を全て飲み込み技を繰り出す。
「終龍、終覇」
気づいた時には百を超えるエモーションの津波となっていた、だがそんなことが目に見えていないかのように希来は動かない、さらにさらにと侵食していくエモーションを前に、拳にエモーションを籠め続ける希来、そして彼は会心の一撃を繰り出す。
「右目が燃えている、、、まさか!?」
驚くのも仕方がない、なぜなら”教えてない”からだ。
「心火、轟拳」
大きな津波に風穴を開けそれでなお威力を保つ拳は無敵と言うのが似合うほどの威力であった。
「フッ、」
大穴を開けこちらに向かってくる弟子を見、笑いながら言った。
「合格だ、少年」
そして希来は新しいステージへと足を進めるのであった。
強くなったな少年