第一章 始まりの出会い
エモーショナルビックバンの惨劇から二年、少年は惨劇の爪痕に苦しんでいた
とある病棟、202号室しんみりとした親子が最後の時間を共に過ごしていた
ピッ、ピッ、ピッ、ピと心拍計の刻む音とゴォォォォと遠くから吹く風の音だけが病室に響いていた、日は落ち月光だけが病室を照らしている。
あの日から彼の人生は狂ってしまった、エモーショナルビックバンの惨劇から二年、爪痕も癒えはじめ世界もエモーショナルビックバンのことを忘れかけていた、だが最近はあの頃の記憶を思い出させるようにフェーズゼロの目撃が多くなった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、
まるで時が止まったかのような静けさともう泣きそうな少年の心だけが病室の雰囲気を醸し出していた、23時59分55 もう今日が終わろうとしている
ピーーーーーーーーー
0時00分29秒、この日少年は一人になった、なってしまった、そして心拍計はまた心拍を刻むわけでもなくただ一定の音を鳴らし続けるのであった。
「希来くん」
一人の看護師が少年に話しかける、もう彼にとっては見慣れた顔であり幼少期の記憶の中には彼女の顔と母の顔が必ずあった、だが彼女も初めて会った時よりも老けていてもうすっかり三十路前後である。
「お疲れ様」
看護師は彼の背中をさすりねぎらいの言葉をかける、そして少年は何もない天井を見上げ涙をこらえる、一分間彼の背中をさすり終わり「しまうね」と確認を得て母の顔を白い布で隠す。
「玄関まで送るね」
彼は病室を後にし、今までの思い出との別れを告げ自動ドアを通り玄関まで来てくれた看護師に向かって今日初めての言葉をかける。
「今までありがとうございました、」
深々と頭を下げる少年を少し寂しそうな目で見つめる、そしてもう出会うことはないだろうと最後の言葉をかけるのであった。
「体に気をつけて、ちゃんと食べるんだよ」
互いに最後の別れを告げ互いに違う方向に足を進める、そして深夜の夜空を見上げ虚無となった自分の思考を捨て少年はまた歩き出すのであった。
深夜の町は少年にとっては新しいことばかりで目移りするものが多かった、目はまぶしく音も大きく明るくもどこかさみしい通りを抜けようと思った矢先声を掛けられる。
「ねぇお兄さん、一杯のんでかない?」
キャッチだろうか初対面だというのにグイグイとくる男、一人になりたいが気力の起きない少年は無視しかできなかった、だが男は逃がしてくれずネチネチまとわりついてくる困り果てあきらめた瞬間その時だった。
「すまんすまん、うちの坊主が世話かけた代わりに詫びるよ」
女の声がし誰かもわからない女がヘッドロックをかけてくる、そして誰かもわからない女に山奥に連れていかれこの世の終わりを予想していたが、女の第一声は意外なものだった。
「お前暮らす場所ある?」
以外にも第一声はこちらの身を心配してくれているようだった、だが少年は涙をこらえるので精一杯でコミュニケーションのことなど頭になかった。
「なんだよぉ、そんな辛気臭い顔して、まぁ出てきた場所が病院だからだいたいわかるけどよ」
彼女なりに気を使っているらしくかなり話しかけてくれる、そろそろ申し訳ないのでできるだけ質問に答えようとした瞬間だった。
「エビの被害者か」
言い当てられハッとする少年、反応はわかりやすく息をのんでいた。
エビとは、エモーショナルビックバンの略称である
エモーショナルビックバン、二年前ある研究者が人の感情に反応する新ウイルスEMを作り出した、だが人個人個人による反応が大きく分かれており、ウイルスに対応できず感情があふれ出し暴走する症状をフェーズゼロ、ウイルスの抗体を獲得し制御ができる者をフェーズワンと命名されている。
そしてエモーショナルビックバンが起きた最大の原因は兵器が効かないことである、拳銃、爆撃、ミサイル全ての兵器がフェーズゼロおよびフェーズワンに全くとして効果がなく、唯一効果が見られたのはフェーズワンとフェーズゼロの戦闘による無力化または殺害のみ、その結果フェーズゼロによる一般人の大量虐殺事件が勃発した、このことを言いまとめエモーショナルビックバンと名付けられた。
「まぁ、あの事件で亡くなった人は約750万とされている、私もその時に婚約者をなくしてね」
火にかけているダッチオーブのポトフを気にしながら過去のことを思い出しているのか表情が重い、そして気に障ったのかジャガイモを潰す。
「っほらほら!、こういう時にはうまいもん食って一杯パーっといきたいねぇ、なぁそう思わないかい?」
無理に明るく振る舞う彼女、だがこういう時には乗ってあげないともっと気まずくなることを予想し希来がつなげる。
「そうですね僕も気が晴れない時にはコーラとポテチを爆買いして飽きるまでぷはーってやってますね」
「そうかそうか!」と言いそのあとクーラーボックスから缶ビールを取り出しこちらに向けてくる、希来は未成年であるのだが、この場の空気を崩すわけにもいかなく缶ビールをその場の空気で受け取る、そして彼女はクーラーボックスからもう一本クーラーボックスから出し開けくいッと一口飲み真剣な顔で話し始める。
「なぁ、君は今フェーズゼロが憎いかい?」
クーラーボックスに再度腰掛前のめりになり、大きく股を開き缶ビールを中指と親指で支える、そして応えを待っているようだったので少し考える、だが考えても答えが出ずそのことをそのまま行ってしまった。
「今はまだわかりません」
そして少し考え彼女は別の質問を投げかけた、
「じゃぁ聞き方を変えよう、言い方は悪いが君のような被害をもう出したくないと思うかい?」
そしてその質問答えはすぐ決まった、
「はい、これ以上悲しむ人が増えるのは嫌です」
そして彼女は少し笑った、だがその笑顔はあざ笑う笑顔ではなくどこかほっとしたような笑顔だった、そしてもう一度ビールをすすりクーラーボックスに勢いよく置く、そして希来の目をまじまじと見て口を開く。
「よし、なら話は早いこれから君をフェーズワンにする!いいね?」
だが弁解する間もなく話は進んでいく。
「じゃぁ明日から特訓だな、じゃぁまずは飯食おうぜ!」
そして今度はビールをごくごくと飲み空き缶をクーラーボックスにまた勢いよく置き、取り皿にポトフを盛りスプーンとともにこちらに差し出す、そしてその晩は楽しく終えた。
そしてこれから起こる災いを彼はまだ知らないのであった。
この物語は、作者がαポリスで書いた物語を再構築したものである