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SS・掌編小説 その他・純文学

作者: 空クラ

短編です。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


 ある日、部屋にいると、僕の影が僕から離れて勝手に動き出した。

 それから影は左首筋のあたりから右脇下のあたりで切れ、そして胴がまっぷたつに切れ、腰から下の足と三つに分かれた。

 そしてその三つが、形を変え、小さな元の僕の影の形になった。もちろん、僕に影はなくなってしまっている。

 そいつ等は方々に動き回り、好き勝手に話し出した。

 顔のあった影はよくしゃべったし、胴と左手の影だったのは、ほっこりするのが好きなようで、勝手にお茶を入れて飲んでいたし、腰と足だった影はとにかく動きまくっていた。


 そいつ等は僕が一人の時だけ、分裂し動きまくっていたし、初めは楽しかった。

 そいつ等はとても敏感で、人の足音や、視線を感じると一瞬にして、僕の影に戻った。


 事件が起こった。

 頭だったやつが、突然になくなった。

 足だった影は『影であることに嫌気がさしたんだ』と言うし、胴だった影は、『ただの気まぐれでしょ』と言っていた。

 僕はあまり気にしてなかったが、外を歩くときに、頭と右手のない影を見られるのは困ると相談すると、残りの影だけで姿を創ってくれると言った。

 僕はそうしてくれと頼んだ。

 だから僕の影は少しだけ小さくなった。

 

 それからしばらくは何事もなく過ぎ去った。

 突然、胴だった影が、頭の影を探しに行くと言った。

 僕は、これ以上影が小さくなるのは困ると言った。

 だけど影は出ていってしまった。僕の影は他人に比べてずいぶん小さくなってしまった。その影の小ささに気づく人間もいたが、誰もそれについて聞いてこなかったし、僕からも話さなかった。


 ただ他の影よりも早くに分裂していた足の影は、僕が一人になっても、分裂することも少なくなり、僕の影でいることが多くなった。


 ある日、分裂したときに『元気がないね』ときくと、『そうでもないよ』と素っ気なく答えただけだった。

 何だか僕はとても、ひどいことをしてしまったような気がして、『他の影の行きそうな所とか心当たりない?』と聞いた。

『ないこともないけど、人間は入れないよ』といった。

『ぼくは君たちに何か悪いことをしたのかな』

『人間が影に悪いことをするもしないもないだろう』

『じゃ、どうして、僕の影はいなくなったのかな』

『……他人の影って気になる?』

『いや、あまり気にしてなかったよ。君たちの仲間って他にいるの? つまり、僕以外の人でも、勝手に影が動いたり、分裂したりしているのかな?』

『さあ。どうだろうね。僕たちは人前では勝手に動いたりしないから、わからないよ。

 もしかしたら、他の人も、君と同じように、影が動き出して、僕たちのように話をしているかもしれないし、そうでないかもしれない』


 僕は、次第に、とても大事なものをなくしてしまったのかもしれないと、不安に駆られるようになっていった。

 その気配を感じたのか、足だった影は『これから毎日、君が寝てから他の影を探してきてあげるよ』といった。

 『ありがとう』僕はそれしか言えなかった。

 他に言葉が見つからなかったし、足だった影も言葉なんて気にしてないように思えた。


 それからの毎日は心の片隅に不安なものが巣くっていた。

 十日ほどしたとき、朝目覚めると、影が大きくなっていた。胴だった影が戻ってきてくれたらしい。


『ありがとう。戻ってきてくれたんだね』と声をかけたが返事はなかった。

 それからもたびたび声をかけたが、返事はなく、頭だった影も戻らなかった。

 僕の不安は小さくなったものの、何かしらの喪失感は消えることもなく、街を歩いていても、他人の影を知らず知らずに目で追っている。

 いつかどこからもなく、あの陽気な頭だった影が現れるかもしれないと希望を抱きながら、僕は、街を歩く。

 

 他の人より少し小さな影をつけながら。


End


気に入れば、ブックマークや評価が頂けたら嬉しいです。

執筆の励みになります。_φ(・_・


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