第3話 〜井墨瀬ヒカリの新しい世界〜
(ここは……どこですかい?)
あの化け物から逃げ、何かが潰された……。多分、心の臓だとは思うけど、そこまでは覚えている。しかしなんだ?ここは。体はとても軽く、上下左右分からないような真っ白い空間だ。
「ここは狭間。表の世界と裏の世界の、丁度真ん中」
「表……?裏……?」
(表も裏もそうだけど……そもそもこの状況がよく分からんのですが……)
目の前に現れたのは、純白の肌と絹を身にまとった少女。だが、そんな見た目とは裏腹に、どこか不思議な雰囲気をも感じる。
「そう。表と裏、鏡合わせに隣合う同士の世界。全てが繋がり合う、本当の意味での鏡合わせ。あなたが来た世界が表だとしたら、今からあなたが行く世界が裏の世界。そうね、名前を付けるとしたら……【リバースワールド】なんてどうかしら。まぁ、そんなことはさておき、ほら……こっち」
ヒカリは少女の言われるままにこの不思議な空間を歩く。すると、何やらぷかぷかと浮かぶ水のような物が見えてくる。
「これと……これ。ほら、見てて」
少女はそう言うと、ふたつの映像を手で手繰り寄せる。ひとつにはベッドの上で今にも死にそうなおじいちゃん。もう1つにはモンスターに襲われる若い青年が映し出されていた。
「今ちょうど、こっちの人。戦っている若い男の人が死ぬ。」
「え、えぇ!?じゃあ助けないと!」
「無理よ。ここからじゃ手が出せないどころか、声すらも届かない。諦めて」
「でも……」
そんな、なんとも言えない心苦しい感情を抱きながら映像を覗き込む。少女の言う通り、若い青年は八つ裂きにされ息絶える。それと同時におじいちゃんの心臓の動きを表す線が一直線になり、ピーッという甲高い音が鳴り響く。
(え……これって……)
「偶然じゃない、これは必然。これが繋り合う世界、世界同士の均衡を保つためのルール。あなたのそのスマホだってそう。それが壊れたら、この世界の何かが欠けて無くなる」
「このスマホが?」
「そう。それが繋がるってこと。」
「そう……なんだ…………」
(殺したら……誰かが死ぬ、か……)
「大丈夫。気悩むことなんてない。別にあなたが何かを殺そうが殺すまいが、巡り巡って死ぬべき魂は必ず死ぬ。要因があなたから、あなた以外の何かに変わるだけ。寿命って言うのは言わば運命。そして、運命は変えられない特別な物。それに、必ずしも生き物の命が人の命と繋がってる訳でも無いしね。」
「なぁるほど……です……?」
「言ったでしょ?寿命ってのは運命。定められた命の制限時間。結局のところ何かが欠けて誰かが死ぬのも元々そういう風に設計されてるだけ。だからあなたは気に病むことなく、ただただ前へと進めばいい」
(前へと……進む?)
「この先、あなたは沢山の出会い、感動、理不尽に巻き込まれると思う」
「は、はぁ……」
「それこそ、あなたのいた世界のような当たり前の平和なんて存在しない。いつ死ぬか分からないような不条理な世界。それがあなたに定められた運命。残酷で悲しい、悲惨な物語」
「…………」
「本来なら変えることのできない筋書き。それこそが運命」
「運命…………」
「でもあなたは違う。あなたはそんな筋書きすらも帰ることが出来る。その資格を持っている」
「私が……資格?」
「私は見てみたい。あなたの描く筋書きを。醜く醜く抗い、もがき苦しんだその先にあるもうひとつの可能性を。そして……」
「そして?」
「あなたが選び抜いた先にある最後の結末を」
「私の選んだ……最後の結末……」
「もう時間が無いわね……」
「オワッ!?」
ヒカリは自分の体に起こる不思議な感覚に、素っ頓狂な声をあげる。
「じゃあここで私とは一旦サヨナラ。いい?あなたはあなたの思うがままに進めばいい。これは紛れもないあなただけの物語。あなたのその選択がこの先の運命を切り開く」
「フグッ……フグッ……」
一体なんのことなのか。最初から最後まで理解しきれずにいたヒカリは、消えかかったその口を懸命に動かす。まだまだ聞きたいことは山ほどある。そんな思いは無常にかき消され、ヒカリの体も消えていく。
「じゃあさようなら……」
そんな状況かでヒカリが最後に聞いた言葉。おそらく、自分が何者なのか、その答えなのであろう。
「【魔女の・・・・】」
(魔女の、なんなのさ!!)
そんな大きな疑問とともにヒカリの意識はプツンと切れる。
(……………………)
「ハッ!?」
ヒカリは目が覚めると同時に体を起こし、当たりを見渡す。
すると辺り一面は開けた草原。吹き抜ける風がどこか心地よく、揺れる草が風の波を形作る。そんな普段見慣れない光景に見蕩れていると、後ろから声が掛かる。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「あたし……?」
そこに居たのは、アニメや漫画でしか見たことの無いような、不思議な民謡服を身に纏う少年の姿である。
「うん……僕がここに来た時、1人で倒れてたんだ」
「じゃあ、君が助けてくれたんだ」
「まぁ、そうなるのかな?」
「なるほど。ありがとね!少年!」
ヒカリは満面の笑みを向け、礼を返す。たがそれは全てが少年に対してでは無い。これから始まる沢山の【新しい】に向け顕になった期待の意味も込めてだ。
「ど、どういたしまして……」
ヒカリはそっと立ち上がると、空気をめいっぱい吸い込み思いっきり吐き出す。
(なんかよく分からんけど、来た!!新しい日常!!退屈しなさそうな不思議な世界!!)
こうして私の、井墨瀬ヒカリの、新しい日常は幕を開けたのであった。
現在作者は入院しております。
実は3週間ほど38度くらいの熱が下がらず、執筆が出来ずにいました。
緊急入院でしたが手術も無事終わり、体調が安定してきたので、ちょこちょこ書いてこうかなと思います。
ただ、ヒカリの転移も終わり、いい感じの区切りが着いたので、もうひとつの作品を優先して書く予定です。ちなみにまだ合作相手募集中です。もし、一緒にこの作品を書きたいって方、連絡お待ちしてます。では、またいずれお会いしましょう!それまでお楽しみにッ!!