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殴れリリアス  作者: 紅葉
第二章 ラーンダルク王国滅亡編
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61.『リアの説得』

「いたぞ!」「国家転覆罪だ!」「捕まえろ!」


 地下通路に出張っていた衛兵たちが前を塞ぐ。

 アスターリーテはにやりと笑った。


「アルトラスラムス君の実力を見せるときが来たか──」


 多脚の中から凶悪な刃が複数突き出した。そのまま猛烈に回転を始める。


 衛兵たちはその異様な機械に足を止めた。


「──フードプロセッサーというものを、ご存知かね?」

「止めろ! ハンバーグにするつもりか!」

「馬鹿言え。玉ねぎ抜きのハンバーグなど食えるか。死体は堆肥の材料にでもしてしまおう。畑で美味しい玉ねぎをそだてるのだ」

「スプラッタ禁止! 国際法違反!!」

「ルナニア帝国が今まで破ってきた国際法を順番に諳んじろ」


 ちょっとの沈黙。


「……十年かかるぞ、それでも良いのか?」

「良いわけないだろう、根絶やし聖女」


 そんな言い合いをしている間に着実に距離を詰めてくる衛兵。


「大人しくしろ」「我々はブラックデッドなどに屈しない」「メルキアデス卿を邪魔する愚か者どもめ」


 やはり、街の衛兵とは違い、王城を守備する役割を持った衛兵は練度が段違いだ。

 マズイ。このままではアスターリーテがミンチ製造機を突っ込ませてしまう──


 瞬間、衛兵たちの背後からワイヤーが伸びた。


「なんだこれはっ!?」


 グルグルと巻き取って、衛兵たち全員が縛られる。暴れようにもワイヤーは鉄線であり、肌が傷つくだけだ。


 革靴が音を立てる。出てきたのは、白と黒の素敵なコントラストの衣装──ルナニア帝国王城のメイド。


「え、なんでこんなところにいるの?」

「ごきげんよう、リリアス・ブラックデッド閣下。私たちメイド部隊は復興支援団体の身の回りの世話を皇帝陛下より任されています。聖女様たちが安心して活動できるよう補助するのが私たちの責務」


 ペコリと一礼すると、彼女たちは無言で包丁を取り出した。そのまま縛られた衛兵の元へ向かう。


「あ、え──」


 振り上げる。狙う場所は眼窩、そこから続く脳みそ──ぶすりとやって殺す気マンマンである。


「虫けらは、排除しなければ」

「待て待て待てっ!!」


 慌ててメイドと縛られて芋虫のようにもがいている衛兵の間に割って入る。


「これだから野蛮国家なんて言われてんだよ! この人たち縛ったしもう安心じゃんか! 殺す必要がどこにある!?」

「人の意志の力というものは、実に厄介です。自分が無力化されても、最後の最後まで抗い続ける者もいるんですよ。──ね?」


 振り返る。

 いつの間にかワイヤーを靴裏の仕掛け刃で切り、剣を抜こうと構える衛兵の目とばっちり合ってしまった。


「ひっ……」

「ご覧ください。実に素晴らしいではありませんか、忠誠というものは。これだから人間はたまらないのです」


 ラスボスのセリフかよ。


 メイドは軽く包丁を投げた。包丁は衛兵の襟を掠めて壁に突き刺さる。綺麗に襟元が切断されていた。

 衛兵のズボンに染みができる。……見てはいけないものを見てしまったような気がしてちょっと罪悪感。


「わ、我々はルナニア帝国などに屈しないぞ!?」


 すごい。まだ立ち向かってくるなんて、まるで勇者だ。異世界の弱々勇者アズサよりもよっぽど勇者している。


「……これ、完全にこっちが悪者じゃね?」

「国境検問所を爆破した時点でそうですね」

「なにしてくれてんの!?」


 あー、もう! ルナニア帝国にまともな社会性を期待したわたしがバカだったよ!


「ここはわたしに任せてくれない? 君たちメイドはラーンダルクの城を掃除でもしておいてよ。散らかしてたら後でレオネとラディストールに怒られるじゃん……」

「……分かりました。では、ご武運を」

「聖女に武運なんて必要ねぇよ」


 シュッと天井に飛び上がって、まるで影のように消えてしまう。メイドたちも大概おかしい気がするけれど、こんなの気にしてたらわたしの寿命が千年あっても足りない。


「な、何をする気だ!」


 ぶるぶる震える剣を構えた衛兵が、へっぴり腰で立っていた。

 とりあえず、


「刃物を人に向けるの危ないよ」


 踏み込む。向けられた剣を蹴り上げて、クルクルと自分の方向へ飛んできたのをキャッチ。剣身を殴って砕いておいてから地面に優しく置いておくぞ。


「ひ、ひやぁ……!」


 おや、真っ青な顔色になっている。貧血かな?


「わたしたち、これからメルキアデスをぼこしに行くんだけどさ。邪魔はしないでもらえるかな?」


 へたり込んだ衛兵の前に屈んで目線を合わせる。めちゃくちゃ緊張しているのか、中々目が合わないので顎を手で抑えてじっくりと覗き込んでやる。


「返事は?」


 良く見たら中々男前じゃん。ま、わたしの美貌に緊張してるぐらいじゃあ、百年早いけど。

 ん? 胸ポケットに写真が入ってるぞ。


「ふーん、家族写真か。君、中々幸せそうだね」


 なんと妻子持ちだったらしい。子どもはまだ赤ちゃんで、家族に囲まれて幸せそうに笑っている。


「っ、そんな……! 家族、家族だけは……!」


 微笑ましい写真にこっちも思わず笑顔になってしまった。まったく、ブラックデッド家も見習ってほしいものだ。

 衛兵さんはわたしの顔を見るやいなや、汗水垂らして目もガン開いて土下座し始めた。


「お願いします……どうか、どうか……っ! 俺の命なんてどうだっていい……だから、妻と娘だけは、どうか──」


 よしっ、ここでわたしからのありがたい言葉をくれてやろう。


「ふふん。幸せになれるかどうかは、君次第だな。これからも頑張れよ」

「ひっ……!?」


 決まったぞ。まだ十六年しか人生経験ないけど、ぜひこの人たちには幸せになってもらいたいと思ってる。殺すなんてもってのほかだ。


「もう行ってもいいぞ」

「ひ、あっ……あああああああああっっ!!」


 喜びのあまり、絶叫しながら行ってしまった。他の衛兵たちはワイヤーに縛られたままこちらの目線を伺い見ている。その顔は真っ青に染まって、中には泡を口から吹いて気絶している人もいた。食あたりにでもなったのだろうか。


 わたしが戻ると、ココロは顔をキラキラさせながら「お疲れさま!」と言ってきた。手を振ってそれに応じる。アスターリーテは無言でこちらをじっと見ていた。


「なんだよ」

「……末恐ろしいな」

「なにが」

「お前の頭が」

「んだと、コノヤロー!!」


 アスターリーテに飛びかかろうとするわたしと、それを必死に抑えるココロ。


 メルキアデスの元へ、アスターリーテの造った変態機械は向かっていく。

 道中、なぜか衛兵たちは、一人も姿が見えなかった。


 まあ、別にいっか。

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