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殴れリリアス  作者: 紅葉
第二章 ラーンダルク王国滅亡編
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56.『当代最強設計士』

 机の上に巨大なホワイトボードが広げられた。


 きゅっきゅっと、アスターリーテがペンで何やら描き込んでいる。わたしとレオネにもペンは渡された。

 アスターリーテが描いているのは、たぶんラーンダルク王国の城下町、その全体像だろう。主要な道や裏路地がびっしりと描き込まれていく。

 すごく絵がうまいぞ。


 対するレオネは可愛らしくデフォルメしたみんなの似顔絵を描いてペタペタとチェスの駒に貼り付けていた。わたし、レオネ、ラディストールにアスターリーテ……似顔絵を描く必要があるかどうかは疑問だが、まあ可愛いは正義だ。どうってことはない。


 えっと、わたしどうすればいいんだろ。


 ラーンダルク王国の地図なんて書けないし、とりあえず端っこに猫の絵でも描いておくか。

 寝っ転がった猫……二足歩行でしゃあーと威嚇している猫……頭を身体に擦りつけている猫……。


 あ、結構楽しい。

 記念にパシャリと魔石で写真を取ってしまった。えへへ、後でココロに見せてあげよーっと。


「メルキアデスは首席騎士にして、双子騎士の片割れだ。ラディストール亡き今、ラーンダルク王国の軍部は全てあやつの手の中にあると見ていいだろう」

「ラディストールは死んでいません! 死んだように言わないでください!」

「短時間しか動かない肉体を生きている括りに入れられるか。それにラディストールは捕らえられているのだろう?」

「ぐっ……」

「現実を見たまえ、王女殿下」


 アスターリーテの声はあくまで冷たい。

 しかし、レオネも負けていなかった。ラディストールの似顔絵を貼り付けた駒をドン、と地図の真ん中に置く。


「私たちが勝利するには、ラディストールを助け出さねばなりません。ラーンダルク王国の軍部は双子騎士がそれぞれ管理しています。ラディストールを救出すれば、軍部を半分味方につけることができるのですよ!」


 おお、すごい。

 まるで小説の中の軍師のような語り口だ。これが戦術というものか。見てるかルナニア帝国の帝国軍。戦術ガン無視、『ガンガンいこうぜ』の具現化を止めて、こういう理知的な戦い方しろよな。


「ならば誰が救出に行くんだ? 恐らくラディストールが捕らわれているのは王城の地下牢だろう。メルキアデスがいるのは王城の最上階だと思うのだがね。二手に分かれるか?」

「……」


 レオネは唇を噛み締めて黙ってしまった。


 いや、確かに二手に分かれるのが一番だろうけれども。

 わたしとレオネ、二人とも弱っちいのだ。聖女が訓練を積んだ衛兵とか騎士とか、そういった戦闘職に勝てるわけない。ましてやレオネを守りながら戦わなければならないのだ。


 くそう、手詰まりか……?

 苛立ち混じりにメルキアデスの似顔絵が貼られた駒を手にとってぐるんぐるんと回してやる。良い気味だ。ちくしょう。


「そもそもだ。なぜメルキアデスはクーデターなどを起こしたのだ? 王からの信頼も厚かったろうに」

「……確かにそうですね。メルキアデスは品行方正な騎士でした。弱きを助け強きを挫く、そんな騎士です。一体なぜ……」

「幼稚園の通学路に出没して女児誘拐未遂を起こすやつのことだ。きっと心の中に闇を飼っていたんだろう。それが限界を迎えたのだろうな……」

「……」


 こっちを見るなよレオネ。


「レオネッサ殿下が戻ったら王城のみんなに一旦カウンセリングしてみるといい」

「は、はい……」


 なんだこれ。何の話をしていたんだっけ?


「と、とにかく! アスターリーテも戦闘用の機械人形を持っていたはずでしょう? それを数体、お貸ししていただけませんか?」

「構わぬが──」


 そこでわたしたちを見やって、アスターリーテはため息を吐いた。


「──仕方あるまい。私も同行しよう。ラディストールの救出は私に任せるといい」

「え、おばあちゃん戦えるの!?」

「誰がおばあちゃんだ! 外見年齢はまだ二十代前半に設定して──っ、ごほんっ! 私の機体は戦闘用ではないが、鉄と機構の身体だ。生身の人間よりは役に立つだろうさ」


 そう言って腕を伸ばす。


「……なんだよ、まだ何かあるのか?」


 いきなり轟音がして、わたしの頬ぎりぎりのところを何かが掠めていった。

 背後で爆音が響く。


「ぬぁああああああああああ!?」


 振り返ると壁に思いっきり拳がめり込んでいた。

 俗に言うロケットパンチである。


「何だよ、なにすんだよ!! わたしを殺すのか!? なら遠慮なく反撃するぞ!? 殴るぞ!? 殴られたら痛いんだぞ!?」


 あっぶねぇ、頭が吹っ飛ぶところだった。


「ロマンだよ。人々はみな、ロマンを糧に今世まで生き抜いてきたのだから」


 嘘だろ? みんながロケットパンチを飛ばせたらそれこそ世紀末じゃねぇか。


「私の拳に当たれば体内の魔力をかき乱される。全身から血が噴き出て絶命する特別性だ。防御など私の武装の前に意味を成すものか」

「そんなの人に向けて撃つなよ!」

「だから外した」

「そういう問題じゃねぇ!!」


 間違いない。この人は皇帝とは別ベクトルの頭のおかしい人間だ。

 人の気持ちを理解できないヤバいヤツ。


 自分にされたら嫌なことを人にもしないようにしましょう、という幼児レベルの教育を受けていないに違いない。


「ところで、その拳を回収してもらえないか。片手を飛ばすまでは良かったが、その先の不便までは考えが及ばなくてね」


 そもそも身体にロケットパンチを搭載しようという精神が理解できない。やはり天才はバカと紙一重なのかもしれない。


 恐る恐る壁に突き刺さったロケットパンチを引っこ抜く。……うわ、重い。こんなの飛んできたらたまったもんじゃない。


「流石です、アスターリーテ。当代最強の設計士の名は伊達ではありませんね」

「……ねぇ、あの人と一緒にいるの怖いんだけど。だってアレだよ、身体に殺戮兵器を搭載してるヤバい人だよ?」


 ヒソヒソとレオネに耳打ちする。アスターリーテはこほんと咳払いした。心臓が飛び出るかと思った。……聞こえていたか。やっぱり耳もいいんだな。


「ちなみにアスターリーテは私の代で終わりだ。当代最強は当然だろう。私しかアスターリーテ姓はいないのだから」

「……」

「娘は王都の図書館に就職して、孫は学園の教師になった。ひ孫は田舎で畑を耕している。……機械工学はダメだな。最近の若者の理系離れが止まらない」


 そりゃあ、自分の親が培養液にぷかぷかしていて、ロケットパンチをぶっ放すような身体になってたら嫌でも同じ道に進まないだろ。


 なお、ブラックデッド家は男も女も子供もみんな殺人大好きの一族だった。三大将軍をいつまでも世襲していた。やはり一族はブラックドラゴンとかいうトカゲに呪われているのかもしれない。


「でも……なんで一緒に戦ってくれるの? そんなにロリコンが許せないの?」

「確かにそれもあるが──」


 それもあるんだ。そっか。


「それよりも、このタイミングでメルキアデスが動いたというのが気にかかるのだ。王と王妃が死んでいる時……レオネがここにいるから大丈夫とはいえ……『千年甲冑』を動かされでもしたら国がめちゃくちゃになるからな」


『千年甲冑』? なにそれ?


「聞いたことがあります……かつてのルシウス王国の最終兵器にしてルナニア帝国の三大将軍と並ぶ武力だと」

「え、そんなんあるの?」

「起動すれば全てを灰燼に帰して、殲滅する……」


 怖すぎだろ、なんだよそれ。マジモンの殺戮兵器じゃん。


 アスターリーテは目を閉じてわたしたちの話を聞いていたが、やがて、ぽつりと呟いた。


「──あれは、かつての残り火だ。あれ一つでルナニア帝国と戦うなど正気の沙汰ではない」

「……もしかして、メルキアデスって殺戮兵器でルナニア帝国と戦おうとしてるのか!?」


 びっくりである。ルナニア帝国と率先して戦おうとする国なんて、もうこの世界にないと思ってた。

 ちょっぴり応援したくなってきたぞ……。レオネにしたことを抜きにしたらね。


「でも、そんなの簡単に動かせるの?」

「簡単に動かせたら最終兵器とは呼べないだろう? あれが起動する条件は二つ──王族全員が同意の元に操作をするか、王族全員が倒れるか」

「じゃあ……」

「ここにいるレオネが最後の希望なのだよ。レオネッサ殿下の持っている『銀のペンダント』が操作端末としての役割を果たしている」


 ああ、ベッドで出会ったときに見たあのペンダントね。銀色にぼんやりと光っていてとっても綺麗だったことを思い出した。


 ん?


 ……レオネ、そんなの付けてたっけ?


 わたしとアスターリーテが揃ってレオネに向き直る。

 レオネは……頭をかいて、恥ずかしそうに、


「えっと……その、落としてしまいまして……今頃、たぶんメルキアデスの手に……」

「「はぁああああああああああ!?!?」」


 え、じゃあ『千年甲冑』とかいう殺戮兵器はもう起動準備万全ということか……?

 何やってくれてんだよ!


「あーあもうらーんだるくおわっちゃったよどうしよういんきょしようかなそろそろほっきょくでいろいろありそうだしそっちに」


 アスターリーテは虚空を見つめながら何か良くわからない音を口から垂れ流している。

 おい、壊れるな!


 風切り音が聞こえる。部屋の中にそんな音を出すようなものはない。つまり外から。でも金属製の壁で囲まれたここには、外の音なんて滅多に届かない。

 嫌な予感がした。嫌な予感の次は嫌なことが起きる。


「おい、ちょっと──」


 次の瞬間、アスターリーテの屋敷のからくり仕掛けの扉が粉々に吹き飛ばされた。


 わたしはレオネを庇ったが、猛烈な爆風に吹き飛ばされて二人揃って悲鳴を上げながら宙を舞う。

 アスターリーテは素早くホワイトボードを叩き割ると猛スピードで飛んできた瓦礫に向かって投げつけた。


 ぐるぐる回る視界の中で見る。瓦礫とホワイトボードの残骸が相殺され、わたしたちの上に瓦礫が降り注ぐことは防がれた。

 ありがとう、アスターリーテさん!


 と、同時にわたしも着地──ではなく、転がりながらの墜落。何とかわたしが下になることでレオネは守りきった。偉いぞ、わたし!


「ぐべっ、こぼっ、し、死ぬって!」

「……来ましたよ!」


 何が来たんだよ!?


「動くなっ! メルキアデス卿の命令より、リリアス・ブラックデッドを国家転覆罪の容疑で逮捕する!!」


 大穴が空けられたところからは、ぞろぞろと衛兵が入ってきて、一斉に剣をこちらに向ける。

 そして、大穴を空けたのは──


「め、メルキアデス……!?」

「ごきげんよう、帝国の犬。そして、我が花嫁」


 メルキアデスが物騒な大剣を構えて、こちらを睥睨していた。


 ……マジかよ。剣を振るだけで壁を吹き飛ばせるとかバケモンだろ。


「さあ、企みは終わりだ」

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