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殴れリリアス  作者: 紅葉
第二章 ラーンダルク王国滅亡編
61/103

49.5.『忠誠は手のひらのなかに』

 メルキアデスはリリアスらの姿が見えなくなるまで隠し通路の奥を睨んでいた。


 今から追いかけたところで既に遅い。もはや彼女らに繋がる道は存在しないだろう。

 古来より受け継がれてきたという隠し通路を含めたラーンダルク王国の地下構造は複雑怪奇だ。

 王国全土に張り巡らされている蜘蛛の巣とでも形容しようか。

 前身であるルシウス王国時代に建築されたそれは、時間ごとに通路が入れ替わり、合図一つで全ての道順が瓦解する最高規模のもの。今は遥かに及ばない魔導工学の粋である。


 王族であるレオネッサは、地下通路の全てをコントロールできるのだ。レオネッサとの婚儀はラーンダルクの地下構造を掌握するための一つの手段。だが、それは破られた。

 あのふざけた帝国の聖女によって。


「まあいい。それよりもまさか、殿下にそこまで肩入れしていたとは。驚いたぞ、ラディストール」

「……いきなり人の頭をぶち抜いておいて、良くもぬけぬけと……」


 足元を見る。メルキアデスの靴をラディストールの腕が掴んでいた。


 確かに殺したはずだ。

 だが、こうして生きているのを見ると復活したのだろう。……ラーンダルク王国の神殿復活はルナニア帝国のような反則じみたものではない。だが、応用すれば短時間かつその場で復活ができるのだ。


 かつて、この国に降臨した神──『花神』の加護ゆえに。


「もう追う気はない。だからその手を離せ」

「ふん……」


 ラディストールは半目でじー、と兄を見る。


「まだ年若いレオネッサに求婚とか……兄さんはいつからロリコンに堕ちたんですか?」

「頭をすげ替える必要があるようだな、我が妹よ」


 ばっちいものを見るような視線に、メルキアデスはため息をつく。


「この国は変わらなければならない。今は良くともいずれ必ず。変わらなければ、滅びる運命にある」

「そんな理由でクーデターを起こしたんですか。暇ですね」

「先の魔王軍との戦いで理解しただろう……魔王軍相手に私たちは手も足も出なかった。魔王軍の本命がルナニア帝国だったから良かったものの、今のままではいずれ……!」


 拳を握りしめて、呻くように呟くメルキアデスをラディストールは冷めた眼差しで見つめていた。


「レオネッサに理解してもらえると? だから、衛兵の一人もつけずに立ち塞がったんですか?」

「あのブラックデッドさえいなければ、万事うまく言ったはずだ! 何故城内に帝国のブラックデッドがいる……ルナニア帝国の使者は国境から動いていないというのに……!」

「……さあ。どうしてでしょうね。もしかすると……全部」


 ここでラディストールは言葉を止める。あまりに馬鹿馬鹿しいと自分でも思ったからだろうか。いや、それを上回る恐怖からかもしれない。

 仮にそれが正しければ──全てをルナニア帝国の皇帝が事前に予想していたとするならば、ラーンダルク王国がルナニア帝国を上回る可能性は万に一つもなくなる。


 アンネリース・フォーゲル・ルナニア。

 かつての大戦ただ一人の勝者にして、神の世から人の世へ、世界を奪い取った怪物。

 彼女からしてみれば、世界は盤の一つに過ぎず。国は駒に過ぎず。民は駒を動かすこともできない外野に過ぎないのかもしれない。


「だとしても、私はこの国を守らなければならない。それが私の存在意義だ。……既に目的は果たしている。殿下はもはや私に必要ない」

「……王家のペンダント」


 メルキアデスが拾ったのは、銀色の宝石がはめ込まれたペンダント。王族の証であるそれは、先の戦いでレオネッサが落としたものだった。

 たぶん、不思議な力とかが込められているのだろう。ラディストールには良く分からないが。


「ほんと、窮屈な生き方してますね。兄さんは」

「お前を拘束させてもらうぞ」


 光の輪がメルキアデスの手から放たれてラディストールの手首を固定する。中等魔法【光輪拘束】。

 魔法において、体術や剣術においてもラディストールが兄であるメルキアデスに勝てる要素はどこにもない。


 唯一勝てるとすれば、王族に対する忠誠心と平和を愛する心だが……そんなものでこの光輝く拘束を外せるわけもなく。


「勝手にしてください。私一人で、軍部を掌握している兄さんに勝てるはずもないですから。……まさか『設計士』にまで手を出していないですよね?」

「彼女は王族に忠誠を誓っているが、私もそこまで鬼ではない。力無き老人など害にも毒にもならない。……物分かりが良いことがお前の美徳だ。ついてこい、今一度鍛え直してやろう」

「疲れました。背負ってください」

「…………自分で歩け」


 背を向けて王城に戻っていくメルキアデス。その背を見つめて、ラディストールは手の内で仄かに光を放つ『通信用魔石』を握り潰した。


「忠誠と平和主義も美徳に加えといてください──不出来な騎士のお兄様。……良い結果にならねば、駒にすら慣れませんよ」


 その言葉に僅かに含まれていた皮肉は、メルキアデスに伝わることはなかった。

おや……?

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