37.『始まりの日』
目が覚めると、目の前に大きなペンギンがいた。
とりあえず、ぎゅうーと抱きしめてみる。
「ちょ、くるし……やめ……!」」
やばいな、これ。いい匂いもするし、何よりとっても柔らかい。こんなペンギンが目の前にいるだなんて、わたしのこれまでの所業が良かったおかげだな。うん。
突然ペンギンが暴れ始めた。
「うぅ、なにぃ……?」
ふわふわとあくびを一つ。そして、しわくちゃになったペンギンを見やる。
にょっきりと女の子がペンギンから生えてきた。
「ぷへぇ! 死ぬかと思ったぁ……!」
「ココロ!? ……あ、そっか。わたしまた……」
「相変わらずペンギンのことになると理性が溶けるんだね……これが私を助けてくれたあのかっこいいリアちゃんだって、今でも信じられないよ」
「……? 何の話だ? この前のイザベラさんの殺人事件の話か? 言っとくけど、わたしは犯人じゃないからな!? 断じてわたしじゃないからな!?」
あれほど残虐非道な事件はないだろう。確か、あれはソフィーヤさんとアズサに見送られて転移門に入った直後のことだ。あの後、イザベラさんと魔王軍のアルファとかいう化け物魔族が一緒にいて、色々とボコボコにされた気がする。
アルファに取り込まれて、真っ暗になったところまでは覚えている。それで、なぜかココロの声が聞こえて──気がつくと、アルファは居らず、イザベラさんが首をちょん切られた状態で殺されていたのだ。
あれは心臓に悪い。なぜか解放されていたココロを押し退けて、神殿から逃げようとしたほどだ。
結局、すぐ近くに構えていた帝国軍に捕まり、色々と聞かれて解放されたのだが。
「わたしは平和主義者なんだ。心優しい聖人君子なんだからな。そんなひどいことなんてしない。イザベラさんには色々ひどいことも言われて、蹴られたりしたけど……」
「……リアちゃんは優しいんだね」
「あ、でもココロを殺そうとしたことは許さないぞ! でも、わたしがココロを助けようとしたのに、その前に誰かがわたしの代わりに助けたんだよな……それだけは悔しいけど、ココロが無事ならそれで良かった!」
あれは誰なんだろうか。わたしを助けて、ココロまで助けてくれたんだからいい人に決まっている。でも、イザベラさんの首をちょん切ったし、また頭のおかしい殺人鬼か……帝国には何人殺人鬼がいるんだろう?
ココロはなぜか悲しい表情をする。
「どうしたんだ?」
「ううん……でも、これだけは言わせて!」
「……?」
「私はリアちゃんが大好き! これからもずーっと友達でお願いします!」
いきなり抱き着いてくる。なんなんだいったい。でも、悪い気はしない。
「う、うん……これからもよろしくな。むしろよろしくしてくれないとこっちが困るぞ……わたし、ココロの他に友達いないし……」
勇者アズサは旅に連れて行く聖女を、約束通りココロから別の人に変更した。連れて行ったのは、ナイスバディで青みがかった髪のお姉さん。確か名前はマルガレーテとかいう人だ。
なんでもアズサは自分と同じ年頃かそれ以下の人を見ると首筋がぞわぞわする病気にかかったらしい。今では順調に仲間も集め終わり、魔王討伐の旅に出発しているだろう。
イザベラについては、少し複雑だ。神殿を壊そうとした罪は重く、懲役何百年という日々を牢獄で過ごさなくてはならないらしい。この国では、勝手に死ぬことができない。長い時間を牢獄の中で過ごすことになるだろう。
だが、皇帝はイザベラの牢獄に毎日のように通っているそうだ。
まるで、友人のように。
イザベラが退屈することはないだろう。早く罪を償って、わたしを助け出してくれた人を教えてほしいものだ。
ココロは、わたしの秘書という立場に志願した。聖女になっても離れ離れという事態が起きうるなら、准三大将軍の秘書としてひっ付いて離れないつもりらしい。
なぜかと問うと──
「私はリアちゃんの『親友』だからね! 自分で言っていたでしょ?」
「……?」
はて、そんなことを言った覚えはないのだが。
出会って数日の人にいきなり親友なんて言える勇気はわたしにない。そんなのは陽の側の人間だ。そんな人は間違いなく八年間も引きこもりをやっていないのだ。
ココロはまた存在しない記憶を勝手に作っているのか。
だけど、ココロの親友と呼ばれたことに、不思議と満足感を感じている自分もいた。
存在しない記憶を持つ不思議ちゃんでも、親友ができたことは、わたしにとって初めてだ。
ココロと一緒ならば、なんだってできそうな気がする。大聖女になることだって、三大将軍の任務をなるべく簡単にこなすことだって。
この頭のおかしい帝国で生き抜くことだって、なんだってできる。
そうだろう?
「あ、そういえばまた魔王軍が襲ってくるみたいだよ。さっきソフィーヤさんから魔石で連絡があったの」
「へ?」
「今回は四天王を二人連れてきて、魔王も軍の中にいるらしいよ?」
魔王なら大人しく城にいろよ。なんで攻め込んでくる軍隊の中に魔王がいるんだよ。ってか、アズサは何のために旅に出たんだ?
ツッコミどころしかない。
「それでね、皇帝陛下から准三大将軍殿に勅令が出ているの」
「……なに?」
「『魔王軍の本隊を食い止めて、あわよくば魔王を倒してきなさい』……だって」
わたしの穏やかな日常は、どこに行ってしまったのだろうか。やっぱり家にこもってぐうたらゲームでもしていたほうが心の健康に良いんじゃないだろうか。
「えっと……ふぁいと?」
とりあえず深呼吸。
そして。
「絶対にイヤだぁ───────────っ!!」
わたしは王城に響く声で泣き叫んだのだった。
こうして、わたしの大聖女を目指す日々が幕を開ける。
これにて、第一章は終わりです。
読んでくれる皆様のお陰で書き続ける事ができました!
これからも、読み続けたいと思ったら下から評価欄を★★★★★に増やして応援してくださると嬉しいです!
ブックマークも増えると作者が喜びます!
感想ください!!意見や罵倒でも構いません!!
後、地味に活動報告も毎回書いているのでそちらも覗いていただければ幸いです。
ワンポイントメモとして、色々な裏設定なども書かせてもらってますよ!!




