表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殴れリリアス  作者: 紅葉
第一章 神殿事件編
26/103

23.『四天王襲来』

「そういえば、昔、わたしに出会ったって言ってただろ? その時、どうやって出会ったんだ?」


 メモを渡してご満悦のココロが銀の瞳を瞬かせる。


「そっか。リアちゃんは覚えていないんだね」

「それは──」

「いいの。これ以上は、私のワガママ。リアちゃんにとって何でもないような日だったのかもしれないけど、わたしにとっては、大切な思い出だから」

「……」


 わたしのなかに、()()()()()()()()()()()()()()。誰かとの思い出をわたしとの思い出と勘違いをしているのか、それとも妄想のなかで作り上げた思い出か。


 ココロのなかの『リリアス』は分からない。

 それでも、わたしは──


「覚えていないのは、悲しいけど──でも、大丈夫。私たちは、これから思い出をまた作っていけばいいもんね」

「ココロ……」


 白い髪をココロの手は柔らかく梳いていく。わたしの揺れる瞳を見て、ココロはこくりと白い喉を鳴らした。


「やっぱり、リアちゃんは可愛いなぁ……一生そばに置いておいて、眺めていたいなぁ……」

「……ココロ?」

「でも、そばに置いておくなんて生殺しだよ……青い果実をもぎ取るみたいに、食べちゃいたいなぁ……」

「心の声が聞こえてるんだけど」

「リアちゃんになら聞かれても大丈夫だよ! リアちゃんのことは宇宙一愛してるから、いつでも飛び込んできて!」

「何が大丈夫なのか分からないんだけどっ!?」


 相変わらずの不思議ちゃんだ。数日前に初対面だとは思えない。


 その瞬間、遠くで大きな音が響いてきた。爆発音と雄叫びが混ざったような音だ。どうやら街の外から聞こえてきているらしい。


「ずいぶんと大きいな」

「どうしたんだろう?」


 わたしとココロ、揃って首を傾げる。

 懐で何かがブルブルと震えている。ちょっとくすぐったい。


 取り出して見ると、それは伝令用の薄い直方体の魔石だった。アズサは魔石を目にした瞬間雷に打たれたように固まってたけど。准三大将軍に任命された時、皇帝から押し付けられたものだ。マジでいらねぇ。


『伝令だ』


 魔石からソフィーヤさんの爽やかなお声が聞こえた。やっぱいる。枕元で毎晩囁いてもらおう。よく寝られそうだし、夢見も良くなる気がする。


『全三大将軍、全師団長に告ぐ。()()()()()()()

「──はぁ!?」


 魔石からの声はなぜか他の人には聞こえないようで、突然呆けた声を上げたわたしをココロは胡乱げに見つめている。


『本隊はルナニア帝国の北方城塞にて食い止めてはいるが、郊外に浸透した敵が少数存在。手の空いている者どもは即刻帰還し、これを殲滅せよ』

「はぁあああああっ!?」


 突然大声を上げたわたしから周りの人が、どんどんといなくなっていく。母親らしき人が子供に「目を合わせちゃだめよ、ああいう人は」と何やら教え込んでいるが、わたしはそんな周囲の状況など気にしている暇はない。


 魔王軍? 敵? 

 殲滅? つまり、戦争ってこと?

 わたしが行くの?


『敵軍を率いているのは魔王軍幹部、四天王のビルギッタライ。死烈公ビルギッタライ。『結構強いから三大将軍全員でフルボッコにするのが吉』と皇帝陛下から進言を賜った。……まぁ、そういうことなんで、適当に集まってくれ。陛下を楽しませるのだ』


 最後の方、適当じゃないか?

 四天王は勇者の『スキル』に似た『異能』を持っていると聞く。いくら地力が狂っている帝国軍でも『異能』には対処できない。だから三大将軍の招集がかけられた──のだが。


 まあ、それ以外の魔王軍には余裕で一般兵でも対処できるので、魔王軍の脅威は四天王だけなのだ。

 この余裕っぷりも納得だろう。


『なお、准大将軍殿は招集に応じずとも良い。皇帝陛下からの懲罰をしかとこなすように。以上』

「はぁ~……」


 三つの『はぁ』を上手に使い分けたわたしは、大きなため息をついて魔石をしまい込んだ。ココロが説明求むといった風に見つめてくる。


「どうしたの?」

「魔王軍が攻めてきたんだって。今回は人気三位のビルギッタライ」

「あのヒゲモジャのおじさんかぁ……髭を整えれば結構な顔になると思うのに」

「ココロも同じか! 分かるぞ、本当にもったいないよな!」


 ここルナニア帝国は、割と頻繁に魔王軍が攻め込んでくる。だが、いつも大して損害は出ないため見世物と化している風潮があった。

 魔王軍幹部の人気投票もその一環。主催者はなんと皇帝だというのだから、そのノリに乗らないわけにはいかない。


 ちなみにわたしの推しは魔王の側近、人気一位のラインハルト。先代の三大将軍の二人と三日三晩打ち合った死闘は、帝国中が熱狂したものだ。

 かくいうわたしもその新聞の切り抜きを持ってたりする。ラミネートもしてあるぞ。


「ココロ、今日は王城にこもったほうがいいかもしれないぞ。わたしはこれから神殿に行って大聖女を手伝ってくるから」

「わたしは前線に行くよ」

「……え、何で?」


 まさかココロまでバーサーカーに成り果てたのか?

 そんな心配をありえないと断じてしまうほど、ココロから戦争に関する単語が出てくるイメージが湧かなかった。


「……えっとね」


 少し言い淀んで。


「戦争だとたくさん怪我人が出るでしょ? 聖女の仕事は傷を治すこと。先輩たちからお勉強をしないとね。いつか立派な聖女になれるように!」

「……!」


 わたしは自分の浅慮を深く恥じた。ココロは聖女だ。傷を生まず、傷を治す聖女なのだ。前線に出るのが兵士だけとは限らない。傷を治す聖女だって、必要だ。

 そして、わたしもその聖女の一員なのだ。


「そうだな。……引きこもってばかりじゃいられないよな。気をつけろよ。特にわたしの姉さんたちにはな。バーサクしてる人には近づいちゃいけないぞ」

「前線っていっても、補給所まで行くだけだから大丈夫だよ!」


 それをフラグというんだ、ココロ。


「行ってきますのハグを所望!」


 ということなので、ぎゅーと抱きつかれている。

 ココロは甘えん坊だなぁ。本当に仕方のないやつだ。


「すーはぁ……すーはぁ……!」


 あ、ちょっと! くすぐったいから髪の毛あんまりいじらないでよ! ココロったら!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ