21.『ルナニア帝国の四天王?』
なんでそうなるんだよ! 文脈から全く話が読めないぞ!
「いやいやいや、待てよ、皇帝、待ってくれ、正気になれ、一度、そうだな、素数を数えて心を落ち着かせるんだ、そうだ、1、3、5、7、13……」
「色々抜けているし、1は素数じゃないわよ」
ちくしょう、これだから数字はキライだ!
「陛下、お戯れがすぎるかと。現在、この場にはフォックスグレーター新聞の記者もいます。見てください。陛下のお言葉により、彼は狂喜乱舞しております。どうか謹んだ発言を」
ソフィーヤの視線を向けた先には、先ほどから完全に忘れていたメガネをかけた男がいた。玉座の間のすみに佇んでおり、存在感が空気よりも薄い男だ。
そんな男が、新たな三大将軍の誕生の場に居合わせたことで、さっき感じていた怜悧な印象はどこへやら。スクープの予感に興奮し、コサックダンスを踊りながらわたしの顔にカメラを向けて連射していた。真顔で。
「な、な……」
てか、フォックスグレーター新聞って、わたしがいつも取ってる新聞じゃねぇか!!
あの人、記者だったのか!? そんな人の前でわたしの恥ずかしい自分語りとか記録されたのか!?
肖像権侵害とかもろもろで訴えるぞ!
「ご説明をお願いできないでしょうか」
ソフィーヤさんも頭のおかしい記者がガン見しているのに良く平然と無視できるよな。
「簡単な話よ。勇者が見習い聖女に殺された? ならば、見習い聖女が伝承の勇者を上回る強さだと知らしめればいいわ。──勇者が弱いわけじゃない。見習い聖女が強いだけ。三大将軍の肩書きを持つ聖女ならば、勇者に勝てると思わない?」
「……勇者はしっかりと強者であり、リリアスさんがそれよりも強いという風に認識をすり替えるのですね?」
「実際その通りだったし。誤った認識を正しくしてあげているのよ」
本当にこの帝国はどうしてしまったのだろうか。
そういえば、帝国軍の見習い剣士に勇者がボコられていたな。勇者が弱いのか、帝国がおかしいのか。
たぶん帝国がおかしいんだろうな。
「しかし、リリアスさんを三大将軍として加えてしまうと様々なところから反発が出るでしょう。帝国軍から、そして聖堂委員会からも。下手をすれば国が割れますよ」
「なら、力ずくで反乱したほうを叩き潰すわ。余に逆らったことを後悔するほど、魂に消滅しても消えぬ痛みと絶望を刻み込んであげる」
なんだこの魔王は。そして、それができる実力があるというのだから笑えない。
「……というのは、冗談よ。流石にそんなことをするのは面倒だもの。『准三大将軍』という席を作りなさい。そこにリアを置くわ。これならば問題ないでしょう? 直属でないから余のものにできないのは残念だけど、いつかの楽しみとして取っておくわ」
「話を勝手に進めてるところ悪いけどな、わたしはそんなものには絶対にならないぞ! 三大将軍なんてそんな物騒なものになるものか! 『准』って付けたところでやらないぞ!」
三大将軍といえば、戦争に出向いて各国を蹂躙するイメージしかない。平和主義者とは対極にある仕事だ。
わたしがそんなのになる? ご冗談を。か弱い美少女がそんなところに突っ込んだらあっという間にミンチ確定だ。
「あなたは勇者を殺したのよ? 他国から勇者を殺した者がどのような人物かを見極めるために外交官の面を被った刺客が送られてくるでしょうね。ブラックデッドだし、その馬鹿力と回復魔法を使えば生き残ることはできるでしょう。でも、毎日追手からの逃亡生活なんて、あなたも過ごしたくないわよね?」
「……うぐっ」
「相応の地位につけば、世界にあなたの実力を示すことになるわ。余が認めた地位よ。他国からの下手な手出しはできなくなる。聖女の仕事はそのまま続けてもらって結構。三大将軍の任務も必要最低限のもの以外は回さない。どうかしら?」
「……殺しはやらない。戦争もなしだ」
「やらせないわよ。必要最低限というのは、外交官としての振る舞いのこと。あなたが戦争に行っても活躍できる未来が見えないわ。今のところはね」
それならば確かに好条件だ。皇帝にしては珍しく良案である。
「どうして、わたしにそこまでしてくれるんだ?」
「余は、帝国の国益となり得る人材に投資をするのが趣味なのよ。余のものになるリアはその一人。国外に追放するなんてもってのほか。他国の虫ケラや魔物の牙にリアを穢させるわけにはいかないわ」
「虫ケラって……」
ナチュラルに他国の人間を虫ケラ扱いする。皇帝の人間性はとっくにくたばっているらしい。
「それに賭けのこともあるし、ね?」
「……?」
皇帝は真っ直ぐとこっちを見つめてくる。黄金色の瞳に吸い込まれそうになったわたしは、慌てて目を逸らした。くすくすと笑い声が聞こえてくる。
「そういえば、将来的にリアも入れるとなると三大将軍という箱は少々手狭に思えるわね」
「というと?」
「リアも三大将軍の席に着くとなると、三大将軍ではなくて四大将軍になるわ。でも、それだと不格好でしょう?」
わたしが将来その席に座ることは確定事項か。
帝国に明日でもいいから噴火か地震か、隕石でもいいから降ってきて滅びねぇかな。
「海の向こうの魔王を殺せば、この世から魔王がいなくなる。そんなのもったいないじゃない。だから余が次代の魔王になろうって考えているのよね」
「それはいい考えだと思います、陛下!」
「「!?」」
エルタニアが突然叫び声を上げた。イボガエルのような顔色になったソフィーヤがそれを見つめる。
「魔王の配下に、四天王っていうやつらがいたじゃない? その名を受け継いで、リアが入ったときには三大将軍を四天王に改名しようと思うのよ。どうかしら、良い考えだとは思わない?」
「あの下等な魔族の称号を帝国が奪い取るわけですね! 流石です、皇帝陛下! 四天王などという称号は魔族にはもったいないです! 我が国が丁重に扱ってやりましょう! 皇帝陛下バンザイ!」
「「……」」
皇帝のキラキラと星が輝くような瞳に当てられたわたしとソフィーヤさんは、ただ頷くことしかできなかった。
そっか。普段は常識人だから忘れていたが、この人も十分バーサーカーだったな。……ソフィーヤさんの髪の毛が持つかどうか本気で心配になってきたぞ。
エルタニアさんはいつもとキャラが違うし、目にヤバイ光を宿して熱く語っている。やっぱりこの人も頭おかしい人か。
世も末だ。帝国にはソフィーヤさん以外、頭のおかしい人しかいないのか。
新聞社からやってきた記者は、皇帝が魔王計画を話している間もずっと踊っている。わたしの顔を写真に収めながら、ただ、ずっと……。
そろそろ訴えるか。




