0.『勇者殺し』
前からゆるゆるなコメディーものを書いてみたかったとの思いが爆発した結果、本作が生まれました。
聖女ものです。
楽しんでいただけると嬉しいです。
*複雑で感動できる人間関係!素敵な王子様との恋愛!とかは一切ございません。登場人物は基本的に頭のネジが外れたヤバい奴らばかりです。
くるくると回っている。
人の肩より上についていて然るべき首が、胴体からちぎれて、ビーチボールのようにくるくると。血糊を撒き散らしながら、無造作に首が飛ぶ。
遠く離れた場所に落ちて、べちゃりと湿った音を立てた。
「……勇者様?」
勇者様。そう呼ばれた少女──飛んでいった首の持ち主であった肉塊が、ぐらりと倒れて動かなくなった。そのうち、神殿に送還されるだろう。この国では、人は皇帝に対する信仰心を持っていれば翌日の日が昇る時刻に蘇ることができる。だが、首を吹っ飛ばされた一瞬の記憶と痛みは消えることはない。
勇者が死んだことに、一人の少女がぽかんと口を大きく開けたまま佇んでいた。
夏を思わせるような淡い空色の髪をした少女だった。特筆すべきは、胸が大きくスタイルもいいこと。
勇者の魔王討伐の旅立ち。そこに随行するはずの聖女、ココロ・ローゼマリーである。
儚げで大人しそうな印象を受ける彼女の目線の先には、これまた一人の少女の姿があった。
拳を振り抜いた格好で固まっている少女の全身は真っ赤に染まっている。先ほどの勇者の返り血がべっとりとついているためだ。
そう、彼女が勇者の首を飛ばした張本人。
血に染まっていても美しい雪色の肌。作り物のように整った幼い美貌。深海のごとき群青の瞳。そして、この世の清浄なものを全て集めたとしても、その頂点に位置するであろう真っ白な髪。
ココロの親友にして、帝国に古くから仕えてきた名家、ブラックデッドに連なる少女。
──リリアス・ブラックデッド。
「──大丈夫か!? 変なことはされてないか? ……え、えっちなこととかされてないよな!?」
リリアスは先ほど、ちり紙を払うように首を飛ばしたことなどもはや忘れ去ったように中庭を横切って、ぴしっとココロに抱きつく。
「よしよし、大丈夫だよな。うんうん。最初からおかしいと思ってたんだ。あの勇者は迷いなくココロを選んだ。このおっきな胸を見て決めたんだ! そんな不埒なやつにココロは任せられない!」
「リアちゃん……」
「前に父さんが言ってたんだ。『女の子の胸を見て話すような奴は、首を飛ばしてお頭の煮付けにしてしまえ』って。やっぱりうちの家は頭がおかしいよな? 人の頭を煮付けにできるかっての。だから、首だけ飛ばしといたぞ」
「…………」
「ごめんごめん。友達だからって抱きつくのはベタベタしすぎだったな」
ぽんぽんと背中を叩いて離れるリリアスに、ココロは名残惜しげに少しだけ手をぴくりとさせた。
「わたしの家は父さんから妹まで、みんな頭がおかしいけれど、もうあんな家からは解放されたんだ。あんな変態から解放されたココロも、わたしと一緒に聖女としてやっていくんだ。これからよろしくなっ、ココロ!」
そう感慨深く呟いてから、リリアスは太陽のような笑顔を浮かべながら血なまぐさい手を差し出した。
その手を見ながら、ココロはぼんやりと考える。
勇者様死んじゃったけどどうしよう、とか。
皇帝陛下に怒られないのかな、とか。
リアちゃんの手にさっきの血がこびりついてるな、とか。
……この細い手を鎖で巻いて自分のものにしたいなぁ、とか。
そういう雑事は、横にとりあえず放り出して。
ココロはリリアスの手を両手で包むようにして、握る。
「……よろしくね、リアちゃん!」
幼なじみの顔を見て、にっこりと花のような笑みを見せたのだった。
そして。
「あはっ、あははははははっ!!」
金髪の女の子が大声を出して笑っている。
「余は決めたわ。やはり、あなたはそうなのね。ならばそれにふさわしい地位を授けましょう。歴代史上初めてとなる三大将軍の四人目の地位を」
呆然とその少女を仰ぎ見るリリアス。
「…………へ?」
「さあ、虐殺に励みなさい。他国の兵士、魔物、魔族、そして魔王──全てを殺し尽くす権利が、あなたの手に与えられたのよ。聖女と兼任? 大いに結構。今ここに、聖女でありながら大将軍となった傑物に、余から通り名を授けましょう」
こうして帝国の新たな大将軍『根絶やし聖女』が誕生してしまった。『逆らう者は皆殺し』を信条に掲げる恐ろしい聖女として、リリアス・ブラックデッドの名は世界に轟いたのである。
「どうしてこうなったっ!? おい、誰か教えてくれよ! 無責任じゃあないのか、なぁ!?」
ブラックデッド家は、ルナニア帝国に古くから仕えてきた一族だ。帝国最高戦力のみが選ばれる三大将軍の地位を『世襲』してきたといえば、分かるだろう。
かの家は、帝国最大の武力にして魔境であり。
──家訓は、『邪魔者は殺せ』である。
こうなるまでの経緯──物語は数日前、リリアスが家でヒキニートしていたときに遡る。
全ては、父の一言から始まった。
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