すごく遠い場所
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仕事終わりに留理にLINEを送った。
▷仕事終わったよ、旅行はどう?
既読がつく。
▷お疲れ様。 ユミと今日は海行ってた
ビーチの写真が送られてくる。 留理は映ってない。
おそらく翼くんと一緒な状況なのだから写真付きで送ってくる意図は理解できる。
『こんな写真で簡単に騙されてるバカな男』
だろうな。
そうさ、俺はバカだ。
鉄槌を下すと決めてる相手に『お疲れ様』と言われただけで実は嬉しいんだから。
まだ、ほんの少しでも俺を思う気持ちがあるんじゃないかと可能性を模索してしまうんだ。
舞い上がっちゃってるだけで今も俺を……そんなわけないか。
だから今日だって対して強くもない酒を飲まないと眠れなくなるんだ。
家に帰ってスーツ姿のままウイスキーをあおる。
留理もいないから部屋は綺麗なままだ。
二人の名前を彫ってあるグラス。
二人で色んな所に行った旅行写真はコルクボードの上に貼り付けてある。
新婚旅行で行ったシンガポールや国内旅行の写真は俺と留理のツーショットだらけ。
今、留理とツーショットでいるのは翼くんとかいう自称IT系会社の社長。
その実、親が金持ちなだけの、ただのアルバイト清掃員だ。
慰謝料を請求したって、奴個人には大した額は用意できない。
今どきIT系とか言っちゃってるヤツに騙されてる留理も留理だが、そんな奴にひっかかる程、彼女を追い詰めたのは俺なのではないかとも勘繰ってしまう。
俺は今だに真夏の事を吹っ切れていない。
俺を救い出してくれた留理を傷つけ続けてしまったのではないか。
でも、考えてしまうんだ。
あの日、俺が呼び出したりしなければ真夏は今も……
◇
「こんばんは。 ユート今日配信見てくれてなかったでしょ? べ、べつに寂しくはないけど、 すっごく探しちゃったじゃない」
約束の時間になりスマホアプリを起動するとメイマナのアバターが挨拶もそこそこに疑問を投げかけてくる。
空きっ腹にウイスキーをしこたま吸収したせいか、気分が高揚している。
「ん? んふふ? そうだねぇ見てない。 なーんもやる気が起きなくてさ」
ボイスオンリーでこれは相当痛いってかキモいだろうな。
案の定、メイマナのアバターが口をまんまるく開けてドン引きを表現している。
なんか、酔ってるせいか3Dなのか現実なのかも曖昧だ。
「え……何キショ……」
うん、ドン引きされてるね。
素直な反応すぎて俺は逆に好感度アップだよ。
いや、メイマナへの好感度なんてずっと上限値最大。
これ以上、上がりようもない。
「そうさ。 俺はキショいのさ! だから妻にも愛想尽かされてさ」
職場や学生時代からの人間関係にもずっと相談できなかった。
愚痴をこぼすこともできなかった。
「え……ユート奥さんいるの?」
「いたらおかしいかい? キショいもんな」
「いや……今は普通にキモいけど……もしかして、酔ってる?」
「あはは! 自分でもキショいのが止められないくらい酔ってる!」
職場の飲み会でもこんなに酔った事はない。
いや、普段人がいる時はこうならないように自制していた。
オンラインというか宅飲みの怖いところだな。
最悪すぐに眠れると言う安心感から歯止めが効かなくなるほどいつの間にか酔っていたらしい。
「はぁ。 今日はゲーム手伝うの無理そう?」
「今メイマナのアバター見てるだけでも目が回ってる」
眉毛を八の字にしてこちらを心配そうに様子を伺っている。
こんくらい感情を表情に出してくれてると酔ってる俺にはありがたい。
「そっか。 そしたら今日はゲームは大丈夫よ」
今日はお開き、そう言われると思った。
「何かあったの?」
「んん?」
「心配……しないけど! 昨日と全然違うから! 何かあったの?」
「俺がキショい理由?」
「もう! 別に普段はそんなんじゃないんでしょ!? 聞いてあげるから話してみてよ」
今度はへの字眉。
実に感情が分かりやすい。
俺の様子がおかしいからイライラしつつも話を聞いてくれるつもりらしい。
「いいよ……人に話すもんでもないし」
「だったら態度にも出さないでよ! 心配……さ、させたんだから話しなさい!」
ホントに真夏みたいだ。
俺がうじうじと思い悩むくせに、気持ちを吐露しようとしないでいるとこうして無理くり話させようとしてくる。
「……むしろこのくらいの人の方が話せるのかな」
「えっ?」
「距離感があってさ。 誰にも話したことないんだ」
無理やり自分の中に芽生えた感情を抑え込んだ。
距離感なんて感じてない。
ずっとそう、子供の頃から一緒にいたみたいな。
この感覚は危険だ。
だって真夏は10年も前にいないんだ。
「……そうだね。 ユートと私はすごく遠い場所にいるから」
ツインテールがしなだれてる気がする。
今度は感情が読み取れない。
「じゃあ相談する前にもう一杯飲もうかな」
「もうやめなさい! 飲むならお水!」
への字眉のアバター。
飲んべぇになりかけてる俺に怒ってるのが伝わる。
メイマナに促されて水を飲んだ後、ぽつぽつと俺はこの一年の現状を語り始めた。
メイマナは黙って聞いてくれてたけど、アバターがぷるぷると震えている理由は俺にはわからなかった。
「そんなの絶対にありえない! ユートもなんでそんな我慢してんの!?」
うん、わかった。
やっぱり怒ってたみたいだ。
「ユートが踏ん切りつかないなら、私に任せてよ!」
「ドン」という音がなりそうな勢いではだけた制服の胸部分を叩くメイマナ。
真夏だったらむせてたかもしれない。
デジャヴだ。
「私に任せてよ!」という真夏は大体空回りする。
さすがにメイマナ出しとかないとマズイ気がして急遽書き上げました。
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