許してあげて
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◇
留理は「一番愛してるのは悠人」「魔が差した」とやはりテンプレな事をのたまって翼くんと喧嘩を始めた。
ヒートアップしていくので警察介入を匂わせたら、身の振り方を考えるために留理と翼くんは俺の家から退室して一旦。
不貞行為への賠償。
離婚問題。
全て問題が片付いたわけじゃない。
これからが大変だ。
「ユート、 お疲れ様」
「いいや、こちらこそ」
メイマナは今だ俺に限定配信を続けてくれている。
昂っている気分もあって秘蔵していたワインの封も開ける。
なんなら、すでに翼くんと留理に飲まれていたのかコルクを戻されて量は減ってるが、まぁいい。
「ユートって結構お酒飲むの?」
「普段はそんなには……いや、この1年で大分増えたかな? 酒は増えて食べる量が減ったから体重は10kgも減ったし」
「……だから、そんなにやつれてるのね」
そういえば、ずっとボイスオンリーだったから俺の顔は向こうに見えて無かったはず。
留理との騒動の時はインカメラONにしてたから設定そのまんまだ。
でも、俺のために本気で怒ってくれたり、悲しんでくれたメイマナに今さら顔を見られる事くらいなんともない。
「初めて会ってもわかるもんかな」
あごを触りながら呟く。
確かにこんなに鋭角に尖ってなかったかも。
「わかるわよ」
アバターの目が俺に向いている。
本当にそこにいる人と会話してる気分だ。
「そっか」
「そうよ」
パソコンの電源を切ってしまえばいつでも終了できる関係。
本当はずっと話していたいけど、俺に構いすぎて配信業を疎かにならないか心配になって会話が続けられない。
「ねぇ?」
「ん?」
メイマナが口角を下げてため息混じりに呼びかけてくれる。
「わ、私全然時間あるの。 それこそ地縛霊だから未練がなくなるまでの間いっぱい」
「嫌な表現だな……」
まぁそういう設定でいつも配信してるしな。
「だ、だからねユートは今私がいると……邪魔? 一人になりたい?」
「? むしろメイマナの方が忙しいかと思ってお開きにした方がいいのかと思ってた」
「全然忙しくないってば!」
画面から出てくるんじゃないかってくらい身を乗り出してる。
「ゆ、ユートが今、寂しいから一人になりたくないなら……一緒にいて、 あげなくもないかも、しれない。 愚痴とかも聞いてあげたくない、こともない、かも」
「どっちだよ」
しなだれてるツインテールを見て失笑してしまう。
不安そうにしてるが願ったりだ。
今は一人になりたくないし、相手は画面越しとはいえ、本当は距離感0に感じてるメイマナだ。
「そしたら、聞いてもらおうかな。 ストレスでハゲそうだった俺の愚痴」
「うん!聞く! ハゲる前に終わってよかったね!」
ぴょんと飛びあがりそうな勢いだ。
この動きをするとアバターの胸が揺れるんだよな。
などと益体ない事を思いつつ俺は、ポツポツと語り始めた。
◇
「仕事終わってから食器溜まってるとうぇーってなるし、洗濯物溜まってるのが嫌だから夜に洗濯機回して乾燥機終わるまで起きてなきゃいけないし、ちゃんとご飯食べてるか心配になるから3食分ご飯作っておかなきゃいけないし、あ、でも夜に無くなってて食べてくれたと思ったら嬉しかったり、ゴミ出しだけはと頼んだら、ちゃんと分別したゴミ袋が夜にまだあった時は玄関で崩れ落ちてしばらく立ち上がれなかったよ」
「……めっちゃ溜めてたのね」
「でも、LINEで『お疲れ様』って言われただけで嬉しかったり……」
「そっか」
「たまにあるんだ。 俺に無感情なのかと思うと俺にしか伝わらないニュアンスでLINE送ってきてくれたり、俺にだから伝えたいと思ってくれたニュースの話題を振ってくれたりして、 さ」
「うん」
「だから……思っちゃうんだよな。 どうしてこうなっちゃったんだろうって」
ワインを飲み干して継ぎ足す。
一気に飲んだせいでむせりそうになる。
「ユートは奥さんの事、愛してたんだね」
「正直、慰謝料なんていらない。 決定的にすれ違わせたのは俺のせいだって思うから」
「それは、 お互いのためにも良くないと思うな」
メイマナは感情的に気持ちを爆発させてる俺に優しくなだめてくれた。
「どうしてユートがすれ違わせたって思うの?」
聞き役に徹してくれてたメイマナからの疑問。
「さっき、妻が俺に暴力を振られてたって言ってたろ?」
「実際にはユートが暴力受けてたって事でしょ!? 信じらんない! なんでそんな事するのかな!」
「あれ……ホントなんだ」
「え……?」
俺の告白を受けて、一瞬で血の気を失ったようなドン引きアクションのメイマナ。
「多分……妻にとっては俺に殴られるようなモノ、いや、きっとそれよりも辛かったんだと思う」
「う、うん?」
怪訝な表情だ。
このまま話を聞いてて大丈夫か?なんて思ってるかもしれない。
酔いが回り始めた俺にはそういう細かな機微はわからなくなってるが。
「俺が死んだ幼馴染をずっと忘れられなくて、 乗り越えられない事で留理を傷つけてきたんだ」
「あ……」
目を伏せるメイマナ。
留理がどう思っていたかは、もうわからない。
でも、決して気分の良いものではなかったと思う
「塞ぎ込んでいた俺を救ってくれたのは間違いなく留理だったのに……留理の事、悪く思わないでやってくれ。 全部俺のせいなんだ」
「ユートだっていっぱい傷つけられたのにね。 それこそハゲる一歩手前くらいなまでに」
「自業自得さ……ん? 俺もしかして結構キてる?」
自分では気づかなかったが、もしかしてそうなのか?
「ふふっ。 どうだろうね? 大人っぽくなったとは思うよ」
「ハゲてると大人か? いや、明確に否定してくれよ。不安になって益々キちゃったらどうするんだよ?」
「それも愛嬌じゃない?」
片目をとじて、小悪魔の笑みを浮かべるメイマナ。
その笑みを受けると、やっぱり空気が変わるんだ。
彼女の魅力から目が離せなくなるんだ。
真夏そっくりの……彼女から。
「……その、死んじゃった幼馴染の事は今も忘れられないの?」
後ろ手を組んで聞きづらそうにするメイマナ。
「す、好きだったの?」
「子供の頃からずっと好きだった」
「き、兄妹として!?」
「女の子として。 兄妹なんてそれこそすっごい小さい頃しか思ってなかったな」
「〜〜!!!?」
なぜか顔を赤らめるメイマナ。
自称未成年にとっては、ありふれた恋愛話も新鮮なのかな。
「だけど……彼女が死んだのは俺のせいなんだ」
「え……? ユートは関係ない……」
「俺が夏祭りの日に呼び出したりなんかしなければ、真夏は交通事故に遭うことなんてなかった」
「……関係ないよ」
ポツポツと気持ちを吐露する俺にメイマナはとことん優しかった。
だから聞いてみたくなった。
「メイマナは一般人の俺になんでこんなに優しくしてくれるんだ?」
「ユートがいい人だから」
「そんな事ない」
「そんな事あるよ。 配信が下手だった頃の私に優しく寄り添ってくれたじゃない?」
「あれは……真夏みたいな子が……真夏そっくりで……」
「でも、嬉しかったよ」
片目を閉じて口元に指を向ける動作。
「ユートはいい人だよ。 奥さんにひどい事されても相手の気持ちをちゃんと考えられて、困ってる人がいたらちゃんと優しく手を差し伸べてあげられて」
言いながら、なぜか顔を赤らめていくメイマナ。
「わ、私は結構、す、好きよ。 ユートの事」
テンプレのデレだ。
彼女の設定上こうやって慰めてくれてるのだろう。
「いい人じゃないんだよ」
「ムキになって否定するなぁ。 何がそこまでユートを拗らせてるのよ?」
ワインを飲み干して継ぎ足す。
虚構で、建前で塗り固められた俺を見てメイマナがどう反応するとか気にならなくなりたかったから。
悪酔いだな。
「真夏が死んだ時……真夏が庇って助かった子は隣町から夏祭りに来てたんだ」
「う、ん」
「もし俺が真夏を呼び出したりなんかしなければ、きっと轢かれてたのはその子だったと思う」
「う……ん」
抑えが効かなくなってしまっている俺の言葉をメイマナは受け止めてくれてるが、表情には陰りが見える。
「俺は……思ってはいけない事をずっと思っていた。 俺があの日、真夏を呼び出したりなんかしなければ、 俺はきっとその子の事に気づきもしなかった」
「……」
「真夏が助けてくれた大切な命なのに……彼女が救ってくれたその子を憎んでさえいたかもしれない。 そんな事を考える自分が嫌いで……彼女が死んだ理由を棚上げする、自分が誰よりも許せなくて……」
「……」
「俺は……自分が許せない……」
なのに我が身可愛さに、真夏の死を乗り越えてもいないのに留理を愛して、傷つけて。
独白のような形で気持ちを吐露した後、静寂が流れる。
メイマナも何も言わなかったし、俺も最悪な発言をしたと自己嫌悪がさらに強まった。
「……うん……!」
何かを決意したようなメイマナが両手を胸の前で握る。
「ユート! 許してあげて!」
「……?……誰を?」
「もちろんユートの事もだけど、その幼馴染の子の事も許してあげて!」
「? 真夏を許す?」
一瞬、いや、本気で何を言われたかわからなかった。
真夏が俺を許さないなら、わかる。
呼び出した事で彼女は……
「あー! もう! また面倒くさい事考えてる!」
への字に眉を吊り上げてメイマナが俺に指をさす。
「ユートはずっとその子と一緒にいたかっただけなのよ! それが破られちゃった気がしてその子の事も許せないの!」
「俺が真夏を……?」
「そう! きっとその子を許してあげないと、ユートの事も許せないと思う!」
指をさし直すメイマナ。
ズビシっズビシと擬音すら聞こえるくらいの迫力だ。
「ユート私の事、幼馴染に似てるって言ってたよね!」
「……そっくりすぎて本人なんじゃないかとすら思ってる」
「!! バレ……ううん! だったらそっくりの私が言ってあげる! その子はユートの事、許すとか許さないとか考えもしてない! むしろ悩みすぎてキショいとすら思ってるわ!」
「……メイマナの感想だよな?」
どっちにしても傷つくな。
メイマナにキショいと思われるのも、真夏にキショいと思われるのも。
「でも聞いてあげる! 私に任せて!」
ドンと胸に手を当てる動作。
真夏だったらむせてる。
「私を幼馴染だと思って、 恨み言があるなら、 聞いてあげる!」
無茶苦茶な理論だ。
死んだ幼馴染に似ているvtuberに幼馴染を重ねて恨み言?
そもそも恨み言なんて……
なんて……
「……真夏さぁ……」
「うん」
「マナミちゃんの恋愛相談受けたら『私に任せて』って経験者ぶってさぁ。 『男なんてキスすりゃ余裕』 みたいな事言い出したりして……俺は真夏が誰とキスしたか気になって気がきでなかった」
「ふふっあったかな? そんな事」
「門脇くんと仲良くしてたのって……アレ俺を焚き付けてたんだろ?」
大人になった今ならわかる。
そういう面倒くさい事するやつだって。
「あれ……結構ショックだったんだぞ? 俺と話すより楽しそうな感じでさ」
「だったら思い通りね。 ユートなんて超単純だもん」
メイマナは完全に真夏になりきって返してくれる。
「小さい頃からずっと一緒だった真夏が俺以外の人の、遠くに行っちゃう気がして、俺訳わかんなくなっちゃってさぁ」
「ふふっ結構ダサかったかもね」
「こっちは真剣だったんだ。 真夏がいなくなるのなんて絶対嫌だったから」
「……うん」
「子供の頃からずっと一緒だっただろ? ゲームするのだって、図書館行って勉強したり、映画行ったり……二人で海行った時はドキドキしたなぁ……思い出なんかありすぎるよ」
「海行ったのは私もドキドキしたよ」
「それなら嬉しいな」
本当にそう思う。
もう絶対にわからない、真夏が俺をどうおもっていたかなんて。
「何をするのも真夏とが一番最初で……高校までの思い出には全部真夏がいて……」
「うん」
高校までは、確かにいたんだよ。
俺のそばに。
「なのにさぁ……!」
涙がこぼれ落ちるのが止められない。
「なのにさぁ! なんで俺のそばからいなくなるんだよ!」
「うん……」
「もっと真夏と……ずっと一緒にいたかった!」
「……うん」
ひどい事を言ってる。
呼び出した事で真夏は遠くに行ってしまった。
それでも、俺は離れたくなかった。
「ジジババになってもずっと一緒にいると思ってた! 離れる時が来るなんて信じられなかった!」
「……私もおじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいたかったよ」
「生きてて……欲しかった……なんで……真夏が……いないんだよ」
「……ごめんね」
「……許さない……! 許せない……!」
逆恨みも甚だしい。
こぼれ落ちる涙と同じ量だけ、無茶苦茶な恨み言を言う俺をメイマナは優しく受け止めてくれていた。
「10年引きずってるんだもんね……簡単にはいかないか」
泣き崩れて会話もままならなくなってもメイマナは限定配信を続けてくれていた。
次で最終回の予定です。
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